プルメリア達とクラリス、ミーシャ

29*人間など消えてしまえばいいと思っていた



 盗賊達は、大陸横断列車の強奪班が帰還した後、宴を開いていた。どうやら、作戦は大成功だったらしい。盗賊達の話し声や歌声、音楽が、夜遅くまでアジト内に響いていた。しかし、丑三つ時にもなるとあたりは静かになった。盗賊達は酔いつぶれ、眠ってしまったにようだ。


「盗賊達、寝ちゃったみたいだね」


「絶好のチャンスですね」


 プルメリア、ウメ、クラリスは寝ずに起きていたが、ダリアとアザミは気持ち良さそうに寝息を立ててぐっすり眠っている。


「本当に脱出するのですか? みなさん、危険では……」


 クラリスは心からプルメリア達の事を心配して言ってくれているようだった。


「大丈夫よ! じゃっ、そろそろ行こっか!」


「そうしましょうか。それではふたりを起こしますね。えいっ!」


 そう言うと、ウメはダリアにビンタをした。張りのある肌を打つ、爽快な音が牢屋に響いた。


「あ〜ん、もっとして〜」


 しかしダリアは寝言を言っただけで一向に起きなかった。口の端からよだれを垂らし、悩ましげな表情を浮かべている。


「このドM女、全然起きませんね」


 ウメはビンタを連打した。しかし、頬が赤くなるだけでダリアは起きようとしない。逆に、心地よさそうだ。


「それなら仕方ありません」


 ウメはおもむろに、背中から極太の注射器を取り出した。


「アンタ、なんでそんなもん持ってんのよ」


「備えあれば憂いなしです」


 そう言って、ウメはダリアのスカートを捲った。白い太ももと、真っ赤なパンツが露わになる。


「う〜ん」


 今まさにウメがダリアの真っ赤なパンツをずり下ろそうとしたところで、ダリアは目を覚ました。目の前には、極太の注射器を持ってパンツを脱がそうとしている変態女がいる。


「ぎゃー! それはまだレベルたかいぃー!」


 ダリアは飛び起き、すぐさまプルメリアの背後に隠れて震えた。


「もう。大丈夫?」


 プルメリアはダリアがショックを受けていると思い、頭を優しく撫でた。


「うん、大丈夫……心の準備が出来てなかっただけだっぺ♡」


「出来たらいいんかい!」


「あいてっ!」


 プルメリアは、優しく撫でていたダリアの頭を平手で叩いた。


「ったくこの変態どもは! ウメ、さっさとその注射器をアザミに突っ込んで起こしちゃいなさい!」


「はーい……あっ」


 ウメが極太注射器を構えると、先程まで眠っていたアザミが起床後3時間経過したくらいに目をパッチリさせて正座していた。


「ウチはそういう性癖ないから堪忍な」


「えー。やってみたら目覚めるかもしれませんよ?」


「ウメ。あたしは寝ているこいつらを起こせって言っただけで、そっちの方の目覚めはいらないからね」


「そうですか……それなら仕方ありませんね。残念ですが」


 ウメはとても残念そうに、注射器を背中に閉まった。ウメのボケなのか本気なのか分からない寸劇がひと段落すると、プルメリアはパチンと手を叩いた。


「さて、行きますか。そうだ、アザミ。脱出の間ミーシャちゃんを熟睡させといてくれる?」


「よしきた」


 と、アザミはめっちゃ低いトーンで言った。アザミは寝ているミーシャの顔の上に右手をかざした。


「お母さん、心配せんでもええからな。これはちょっとした眠気薬みたいなもんやから」


「はい……でも、今でもぐっすり眠っていますよ?」


 アザミの手のひらから青い光の粒がミーシャの顔に降り注いだ。


「脱出する時に盗賊達を殺すだろうから。そんなトコ、ミーシャちゃんには見せられないからさ」


 プルメリアがそう言うと、クラリスは目を伏せた。


「あ、でも盗賊達を殺すのはあなた達の為じゃないからね! あたし達は盗賊のお宝を頂く為にここに忍び込んだの。だから、クラリスさんは気にしなくていいからね!」


 プルメリアは慌てて訂正した。そして、混乱した。プルメリア達は、サクラを失ったあの時から、人間など消えてしまえばいいと思っていた。


 それなのに今、あたしはその人間を助けようとしている。その人間が傷つかないように、配慮までしている。この親子だって、あたし達の正体を知れば、態度を変えるはずだ。それなのに、何故あたしはこんな事をしているのだろう。


「やはり、やめましょう。あなた達が何者なのか、私は知りません。でもあなた達は、まだ子供です。どんな能力を持っていようと、子供だという事に変わりはないのです。あなた達を傷つけるような危険な行為はさせられないし、人を傷つけるような行為はさせられません。このまま大人しくして、助けを待ち——」


 クラリスの話しを遮るように、プルメリアは手刀でクラリスの後頭部を打った。クラリスは痛みもなく、眠るように意識を失った。倒れこむクラリスを、アザミが支えた。


「ったく、いいとこのお嬢様育ちは困るわね」



 これ以上、優しい言葉をかけられるのが怖かった。



「さて、行きましょうか」


 ウメはミーシャを抱え、立ち上がった。アザミは、クラリスを背中で担いだ。


「よーし、しゅっぱつだー!」


 ダリアはグーにした両手を上に掲げてそう叫ぶと、牢の鉄格子にオーラの篭った蹴りを放った。堅牢な鉄格子は、まるでポッキーのように簡単に折れて吹き飛んだ。激しい物音がしたが、駆けつけてくるものはいなかった。盗賊達は皆、泥酔してしまっているのだ。


「お宝を探すぞー! イチバン先に見つけた人が好きなもの買える事にしよーう!」


「わたしは本と本棚が欲しいですねぇ」


「うちは高級ベッド」


「あんたら、旅する気ないでしょ」



 牢があった部屋を出ようとすると、入り口でヒゲ郎が一升瓶を抱きかかえて眠っていた。


「ヒゲ郎さん、気持ち良さそうに眠っちゃってますね。殺さずに済みましたけど、これだと後からエルフィンさんに怒られちゃいますね」


「だねー! もじゃ郎、変態だけどいい奴っぽかった一発殴っとこー!」


「なるほど、殴られて気絶させられた事にすればエルフィンさんにも言い訳が立ちますね!」


「もう、みんなお人好しなんだから。こんな臭いヒゲにそこまでする事ないじゃない。まぁ、しょうがないわね。じゃあ心置き無くっ!」


「おりゃー!」


「えいっ!」


「イナバウアー」


 4人は、息を合わせてヒゲ郎を殴り蹴り飛ばした。ヒゲ郎は牢屋の奥の壁まで吹っ飛び、そのまま倒れ込んだ。もちろん、意識は失ったままだ。そうしてなお、ヒゲ郎は穏やかな寝顔をしていた。彼にとって美少女4人に寄ってたかって痛ぶられる行為など、この上ない喜びに違いなかった。






 ヒゲ郎を吹っ飛ばした後、プルメリア達は盗賊のアジトを素早く捜索した。


 盗賊達は相当なバカ騒ぎをしていたのか、皆泥酔して意識を失っていた為、無駄な殺生をせずに済んだ。一通りアジトを調べると、一番奥まったエリアに、一回り大きいサイズの、見るからに頑丈な扉で閉められている部屋があった。


「見るからに怪しいわね」


 プルメリアは扉の取っ手を握った。しかし、取っ手は動かなかった。こんな時、サクラが居たらな、とプルメリアは思った。サクラは植物を自由自在に操る事が出来る。こんな時なんかは、どこからともなく木の根か蔦なんかを呼び寄せて、それを鍵穴に突っ込んでピッキングの要領で器用に解錠してしまうのだろう。能力の点でも、サクラは特別な存在だった。しかし、あたし達にはそんな能力は備わっていない。あたし達に出来ることは——


 プルメリアは取っ手を握ったまま、少しだけ手にエーテルを込めて前に押した。金属がへし曲がるような激しい音とともに、扉は前に開いた。ぶっ壊した、とも言える。


「おおおー!」


 厚い扉の奥には、札束や金塊がピラミッドのように積まれて置かれ、骨董品のような怪しげな壺や現代美術のオブジェまで、様々なものがそこに収められていた。あの几帳面なボスらしく、そのお宝達は整理整頓されて並べられていた。


「ダリアこの壺もーらい!」


「バカ、そんなの嵩張るでしょ。札か金を持てるだけ持っていきましょう」


「これだけあれば飛行機をチャーターしてイデアまでひとっ飛び出来ますね」


 みんながお宝に目を輝かせている中、アザミは無言で札束を制服の胸元に詰め込んでいた。普段から豊満な胸がパッツパツになっている。



「ボスがいなくなるとすぐこれだ」



 突然、金庫の入り口の方から若い男の声がした。みんな一斉に振り向く。



 エルフィンだった。



「あ……」



 エルフィンは、手に持った漆黒の銃剣を肩に掛け、扉に背をもたせかけていた。









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