11*原型を保っている死体さえ、ほとんどいなかった




 僕たちは、煙が収まると、瓦礫の中から生存者を探した。


 瓦礫を退かしては、呼びかけた。


 しかし、一度として返事が返ってくることはなかった。


 生存者は見つからなかった。


 原型を保っている死体さえ、ほとんどいなかった。




「ダメだったね」


 プルメリアは、埃で汚れた頬を手で拭った。


「ヒドイわぁ」


 ダリアは、その場に倒れるようにしゃがみ込んだ。アザミは、無言で瓦礫の山を眺めている。その美しい髪は、埃で真っ白になっていた。


「まだです! 最後まで探しましょう」


 そう言うと、ウメは再び瓦礫の中に飛び込んで行った。一心不乱に、瓦礫をかき分けている。


「そうだな。もう少ししたら治安部隊が救出に来るだろう。それまでは、僕達で生存者を探そう」



 僕たちは、瓦礫を退かし、死体(あるいはその部位)を見つけては、それを運び出し、外に並べた。


 僕は空を見上げた。


 そこには、あの空中庭園から見たのと変わらない青い空があった。つい数時間前までは、あの穏やかな空中庭園の上にいた。今は、数十万の死体が埋まる瓦礫の上にいる。コダマである僕たちも、さすがに心の整理がつかない。何が起こったのかさえ、未だに分からない。


「サクラ、あれ見て」


 プルメリアが指さした方角の空を見上げると、一際大きな、まるで空飛ぶクジラのような航空機と、その周りに無数の戦闘機が空に浮かんでいた。


「軍備部だ。応援に来てくれたんだ」


「ふぁ〜」


 ダリアは安心したのか、その場に座り込んだ。僕たちを憎む軍備部とは言え、正直ほっとした。心細かったのだ。


「でもあれ、やけにごっついな」


 アザミが空を見上げて言った。確かに、あれは戦闘に特化した飛行軍艦——


「ゴリアテだ。軍備部飛行部隊の最高兵器じゃないか」


「なんでわざわざそんなもんで来るのよ。救護ならもっと別のがあんでしょ」


「わたし達がラオム・アルプトを倒した時点でほぼ生存者はいなかったから、詳細が本部に伝わっていないのかもしれません」


「でも、監視カメラや衛星カメラで見ているはずだ。まぁ、ラオム・アルプト案件ならゴリアテを出してきてもおかしくないけど」


 僕は、エーテルで大きな旗を出現させ、それを大きく振った。ゴリアテとその周りの戦闘機達は、僕たちの姿を確認すると、僕たちの真上まで来て、空中で停止した。


 僕たちの頭上には、ちょうどゴリアテの主砲の砲口が位置している。ゴリアテは、敵国の基地、あるいは都市の真上まで行き、この主砲を放つ。小さな都市なら一撃で破壊出来る恐ろしい兵器だ。こんなのが頭の上にあると、あまり心地の良いものではない。



『対ラオム・アルプト人型兵器実戦型弌式、S53、P45、D40、U51、A43だな?』



 ゴリアテから、スピーカーを通して女性の声が僕たちに呼びかける。軍人らしくない、若くて甘い声だ。


『エリア69の破壊、エリア69市民の虐殺、及びガンドール帝国に対する反逆行為により、貴様らを殲滅する!』



 僕たちを、殲滅? 


 一体、何を言ってるんだ?



「違う、エリア69を破壊したのは僕たちじゃない! ラオム・アルプトだ!」


 僕は叫んだが、ゴリアテには声は届かない。そして、僕たちの真上にあるゴリアテの主砲が、その砲口を開き、砲口の周りの環状のパーツが回転を始めると、光を放ち始めた。


「え、ちょっと何よこれ!」


「おい、お前らフザケンナー!」


「みんな、避けろ!」


 頭上から、膨大な熱エネルギーが降り注ぐ。僕たちは素早く翅を出現させ、飛ぶ。地面に到達した熱エネルギーは、地面を這って僕たちに迫ってくる。


「信じらんない、奴らエリア69の人達ごと吹っ飛ばしたよ!」


 プルメリアが振り返り、叫んだ。


 あぁ、本当に信じられない。一体、何がどうなっているのだろう? 


 しかし、今は——


「とりあえず、逃げるぞ!」


「はい!」



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