クラウディア
46*たった一人
ここ一週間くらい、テレビはコダマってやつに軍の偉い人が殺されて田舎の街がひとつまるごと消え去ったことばかりやってる。ラオムナントカの次はコダマと、この世界は終末感に事欠かない。
いっそのこと早く滅んでくれればいいのに。
このガンドール帝国の首都、ガルディンベルクって街は見せかけばかりだけで中身は腐り切っている。
昨日店に来たラーメン頭のチャラ男なんて、俺は陰謀に巻き込まれた、ガンドールがヤバいだなんだと訳の分からない事言うだけ言って帰って行った。ヤバいのはお前の頭の方だよ。絶対クスリやってるよ、アイツ。っていうアタシも、かなり腐ってるけどね。
アタシはガルディンベルクの中央区にある高級クラブでホステスをしている。でもそれは表向きのお仕事で、本職は、その高級クラブにやって来るお金持ちのお客さんを騙してお金を頂く詐欺師、またはその家に忍び込んで直接金品を頂く泥棒。
最初は、この前コダマに吹き飛ばされたトコみたいな小さな街から始まり、バレそうになるとお店を変え街を変え、次第にお店も犯罪の規模も大きくなり、そうしてここまでやってきた。
ガルディンベルクはこの国の首都であり、お金持ちも集まるから、当然稼ぎは良い。その分、危険も多いけどね。
アタシが生まれたのはそこそこ大きな街。その片隅。
華やかな街のきらびやかな部分だけを搾り取られ残った、出がらしのような場所だ。物心ついた時から父親はいなかった。ボロいアパートの一室で、母1人に育てられた。そんな生活でもアタシは幸せだったのに、気づいたら母親もいなくなっていた。捨てられたの。
ひとりで汚い街をうろつき、もうダメだと思ったある日、1人の男に出会った。スーツを着てオールバックの髪に眼鏡っていう、いかにも真面目そうな男だ。歳は30くらい。最初、アタシの身体目当てのロリコン野郎かと思った。でも違った。金をやるから俺の娘のふりをしろ、とその男は言った。そいつは、詐欺師だった。
一ヶ月ほど、その男と高級マンションに住み、親子を演じた。仕事をしている時以外は無表情で冷たい男だったけど、娘の役割が終わってマンションを引き払う時に「付いてくるか?」と誘ってくれた。
アタシは何も言わず、ただ頷いた。
その後、アタシはその男からあらゆる詐欺や盗みの技術を教わった。男は、アタシを一人前の詐欺師に育ててくれた。それが良かったのか悪かったのかは分からないけど。
その男と別れてからは今まで、たった一人で生きてきた。
まぁ、これがアタシの生い立ちってやつ。つまらない話しでしょ。そんな人生だったから、まだ18になったばかりなのにもう人生に疲れちゃってね。ここガルディンベルクである程度お金稼いだら、海外に飛んで静かに暮らそう、なんて考えてたある日。あの娘達に出会った。
あの娘達は、とても上手く街に溶け込んでいた。だから、周りの人間は皆気づいていない。でも、アタシには分かる。あの少女達は、今世間でイチバンの有名人。そして、指名手配犯である、コダマだ。
そして、それと同時に、アタシと同じくらい深い悲しみを抱えていることも、分かってしまった。
だから、嫉妬したのだと思う。
何故、あんな大きな悲しみを抱えながら、そんな素敵な笑顔で笑えるの?
アタシは、あの娘達になりたかったのかもしれない。
ただ、あんなふうに笑いたかった。
ただ、それだけ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます