「悪戯」
「あぁ。その魔法書なら確かにあるが」
「まぁ!! さすがは主席様ですわ!! では……それをすぐにでもお借りしたいのです。本日お屋敷にお邪魔してしまってもよろしいかしら?」
「俺はそれで構わないぞ」
宮廷魔術師次席の真希子が探していたのは、古代ギリシャの魔法書だった。圭人が所有していたのは写本ではあるのだが貴重なもので、そうそうお目にかかれないシロモノだ。
「まったく、魔法革命が起きてずいぶん経つのですからもう少し魔法書も手に入りやすくなればよろしいのに」
「まぁ、新しい魔法はともかく……それだけ古い魔法となると、な。まだまだ秘密にされている部分も多いからな」
そういうわけで、圭人が真希子を連れて家に帰ると、いつものようにいろはが出迎えた。走って玄関ホールまでやってきたようで息を切らせている。
「お……おかえりなさい圭人。真希子さんも、ようこそ!」
「おーーーほほほほほほほほほほほほほほほほほほほ!! こんばんは、お邪魔いたしますわ!!」
「じゃあ真希子、あがっていけ」
圭人が真希子を連れて、書斎に向かう……と、何故か後ろからちょこちょこといろはもついてきた。書斎には魔法書や魔法の触媒、魔法の道具なども数多くある。もちろんその中には危険なものもある。そのため、いろはを書斎に立ち入らせたことはなかった。
「いろは?」
「う、ううん、なんでもない、なんでもないの、その、あの、私もこっちに用があるだけ……」
「……そうか」
腑に落ちないが……とりあえずそういうことにして、書斎に入り、真希子を招き入れた。
と、ふわりと……花の香りがする。これはローズとラベンダー、それにかすかに樹木の香り。
「あら、意外……。触媒を散らかしっぱなしですのね、圭人様」
「な……馬鹿な!」
触媒を保管してある薬棚が空いている、それに机の上には触媒が――乾燥させた赤薔薇の花びらやラベンダーの花穂、
それと、机の上には――ハンカチをリボンで結んだ、てるてる坊主のような包みがある。
圭人は大股で机の前まで歩いていき――そのハンカチに、いろはの名前が刺繍してあるのを確認してから、書斎出入り口でこそこそしている『彼女』に向かって怒鳴った。
「いろは!!」
「……」
「ここには危ないものもあるから入ってはいけないと言っておいただろう!! 何故こんなことを!!」
「……ごめんなさい、どうしても見てみたくて、お部屋をちょっと覗いて、帰るつもりだったの、本当だよ。でも、入ったらいけないって……忘れてて……ごめんなさい、圭人……」
ぐしぐしと泣き始めたいろはを、圭人は黙って見守る。
懺悔は最後までさせないと意味がない。
「それで、それで、私、ちょっといたずらのつもりで……もしかすると、圭人がいつもやってるみたいに魔法使えたりしないかなって……いい匂いのするものを、混ぜてみたりしてたの……」
「で、出来たのがこれか」
「うん……」
圭人がハンカチ包みをつまみ上げようとする、前に、真希子がそれをひょいと持ち上げて、匂いを確かめている。
「おい真希子」
「圭人様、これはポプリですわね。私、西洋に留学した時下宿先で何度か作りましたから、ちゃんとわかりますわ」
「……ポプリ?」
「いろいろないい匂いのする植物や香料を調合したものですわ。本来であればこれから一月ほど密閉して寝かせますけれど、充分いい香りでしてよ」
「おい真希子、それが一体……」
真希子の言っている言葉の意味がよくわからず、問いただそうとするが彼女はその前にいろはの方を見て、こう言った。
「ねぇ、いろは嬢、これは本当に貴女が『作った』のですか?」
「え……うん……」
「そうですか、それではきっと貴女にはポプリ作りの才能があるのだと思いますわ、それと、人一倍鋭敏な鼻も」
「……さ、才能?」
「えぇ、貴女は香りの魔法を使ったのですわ、もちろんこの魔法という言葉は――本物の魔法ではなく比喩ですけどね」
「真希子」
「圭人様、いろは嬢の今日のいたずらは許してあげてくださいな。このいろは嬢の作品――すばらしいローズ・ポプリに免じて」
真希子が、顔の横でハンカチてるてる坊主――ローズ・ポプリが入った包みを揺らしながら言う。
「はぁ……あぁ、俺ももう怒る気はないよ。まったくお前らは……」
「ふふ、おーーーっほほほほほほほほほほほほほほほほほほ!! ですってよ。よかったですわね、いろは嬢!!」
「……えっと、ありがとうございます。真希子さん……いえ、真希子様」
すると、真希子は妙に真剣な瞳で、いろはにこう切り出した。
「ねぇ、いろは嬢。『香りの魔法』をもう一度使ってみたいとおもいません? 今度は触媒はこの私が提供しましてよ!!」
「香りの……魔法……」
「えぇ、話を手っ取り早く済ませると、
「「桜宮の?!」」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます