第23話 愛が海面上昇した地球を救う
こうなってくると、名探偵カパック王の独擅場となる。
「金髪・ツインテ・貧乳は捕まっている、ということは、誰が捕まえるか、ということが謎となる。これはズバリ、三国同盟だろう。こう推理する理由は二つ。一つは、インカ帝国勢の秘書を拘束することによって一番利益を得るのは、間違いなく三国同盟だから。理由その二。あのいかがわしいマヤ文明の手先である銀の天使が情報を知っている、ということは、それはマヤ文明の内部情報だからだ。つまり……金の天使が補陀落宮殿でじゃがいもパーティーに参加していることも知っていたし、恐らくは秘書の金髪・ツインテ・貧乳も補陀落宮殿で拘束されているということだろう」
「くっ……」
「恐らくは、ミミズ千匹の地下トンネルでクスコまで侵攻してきた時に、じゃがいもと一緒に拉致っていったのだろう。行きがけの駄賃的な感じで」
「……ふっ、カパック王、少しはやるようね?」
敵である銀の天使といえども、カパック王の推理を認めないわけにはいかなかった。ここでカパック王の推理力を認めないと、自分の失言のせいで全てがバレたということになってしまう。自分の失言は小さかったが、カパック王の推理力が想定していた以上だったため、事実が暴かれてしまったのだ。
「この際だから教えてあげましょう。カパック王の金髪の秘書は、モンゴル軍が捕らえてラサに連れ帰ったわ。今は補陀落宮殿の奥に幽閉されているわよ。カパック王の名推理に関しては、素直に褒めてあげるわ」
自分が誤ってヒントを与えてしまったことは隠蔽しておきたいところだ。
「やはりそうか……となると、金髪・ツインテ・貧乳も、金の天使も、チベットの補陀落宮殿に居る、ということか。どうしようか?」
カパック王は思考の森に踏み込んだ。金髪・ツインテ・貧乳も、金の天使も、一応はインカ帝国陣営の仲間、ということになる。
仲間を助けるためにカパック王が苦労すれば、感動が生まれ、1440分テレビのように愛は地球を救うことになる。
愛は地球を救う。
愛が、海面上昇した地球をなんとかしてくれるかもしれない。
「よし。仕方ない。あの二人の救出のために、じゃなくて、金髪・ツインテ・貧乳の救出のために、何か手段を打ってみよう」
「おや、カパック王、金の天使はどうするのですか? 見捨てるのですか?」
「だってアイツは、敵に捕まったのではなく、自分の意思でじゃがいもパーティーに参加するために寝返ったんだろう? だったら勝手に向こうに行けばいいじゃん。救出して感動の再会、というシチュエーションは金髪・ツインテ・貧乳だけでも十分に可能だと判断した」
「へえ。それでも秘書の方は救出する気なのね? どうやって救出するの?」
「それは……って、敵の手先である銀の天使に対して、バカ正直にこちらの作戦を漏らすとでも思っているのか!」
「今、危うく言いそうになっていたじゃないの」
「うるさいうるさいうるさい。そもそもお前、何をしに来たんだ?」
銀の天使は、心の底から嬉しそうな笑顔を浮かべた。
「そんなの、カパック王に対するイヤガラセに決まっているじゃない。インカ帝国のじゃがいもを根こそぎ奪われて、その上、金の天使にも裏切られ、金髪の秘書は拉致されて、マヤ文明に負けっぱなしじゃない。惨めったらしいわよね」
「くっ……」
屈辱感にカパック王が呻った時だった。
「へい、カレーラーメン一丁お待ちぃ!」
ラーメン職人が、丼に入ったラーメンを持って厨房から出てきた。
「なんだ? ラーメンを作れなんて、頼んでいないぞ? いつの間にラーメンなんか作ったんだ。しかもカレーラーメンなんて濃いものをわざわざ作って。誰が食べるんだ?」
「これは、銀の天使さんにお召し上がりいただくために作ったものです。秘書の居場所を教えてくれる条件として料理を食べさせる、ってさっき約束しましたよね? 居場所は教えてもらったので、今度は我々インカ帝国側が約束を守って料理を提供する番ですよね? だから気を利かせて、カパック王に指示される前に料理を作りました」
気を利かせて先回りで行動するのは有能だが、今回のケースではそうとも言い切れない。敵である銀の天使が失策で情報を漏らしたのに、それに対してわざわざ報酬を支払うような律儀さは必要無いだろう。カパック王は苦々しい思いを噛みつぶす。
「しかもこれ、カレーラーメンですよ。じゃがいもが全滅しているので普通のカレーは作れません。でも、カレーラーメンならば、じゃがいもが無くても、ジャパリかばんカレーを作るための材料を畑からちょいして来れば作れる上に、ラーメン職人である俺の得意料理であるラーメンも活かすことができる。一石二鳥というやつですよ」
ラーメン職人は得意満面だった。
「何を偉そうに言っているのだ。敵を料理でもてなしてどうするのだ。さっさと片づけるのだ!」
「え、でももう食べちゃってますよ?」
銀の天使は既にカレーラーメンを頬張っていた。カレーとラーメンという、大衆の味の二大峰嶂を同時に味わうことができる無敵の料理だ。
「ごちそうさま。おいしかったわよ。最近サンドスターが減り気味だったので、これでちょっとは補給になったわ」
「ありがとうございます。ラーメン職人冥利に尽きます」
銀の天使とラーメン職人はお互いに顔を見合わせて微笑み合った。
カパック王としては蚊帳の外で面白くない。
その時。
ピンポーン!
呼び鈴が鳴った。
「はあ。ここにきてまたピンポンダッシュか。本当にしつこいな」
カパック王のぼやきとは無関係に、ドアの向こうの人の気配が残ったままだ。仕方なしにドアを開けると、そこには見知った顔がいた。
「こんにちはー。郵便でーす」
スーパーカブではなくゼロ戦に乗った郵便屋が、ピンク色のハートマークのシールで封をしたファンシーな封筒をカパック王に手渡した。
「こ、こ、こ、これはもしや、伝説の、ラブレターフロムカナダ、というやつか?」
残念ながらカナダは海水の下に没している。鼻息の荒さを抑えられず、カパック王は震える手で中の便箋を取り出して読み始めた。
「前略。くの一です。」
という書き出しであった。
「………………………………………………誰だ?」
カパック王は折れそうなほどに首を捻った。
考えても答えが出そうにないので、とりあえず続きを読むことにした。
「獄中からこの手紙を書いています。」
「あー、思い出した。そういえばいたっけ、くの一。元気にしているかなー?」
ファンタジー警察に逮捕されるというまさかの展開で投獄されてしまった、元はカパック王の臣下だったくの一が手紙の差出人だった。
「カパック王におかれましては、地球の海水位上昇で難儀しておられることとお察し申し上げます。私ならば、この南極を解決して差し上げることが可能です。なので、私を牢獄から釈放してもらえるよう、働きかけをよろしくお願い申し上げます。
敬具。」
手紙の内容は短いものの、カパック王が悩んでいる問題に関してのくの一からの申し出だった。
カパック王は手早く、その手紙を数回折り曲げて、紙飛行機を作った。そして懐から取り出したマッチで火を付けて、東に向かって投擲した。誰も乗っていないけど炎上している紙飛行機は、チャドのンジャメナの上を通り、トルコのシリフケの上も通り、愛のままにわがままに僕は君だけを傷つけないのタイトルとどちらが長さの面でめんどくさいかで話題となるスリランカの首都のスリジャヤワルダナプラコッテの上を通り、更には、裸足の女神とどちらが長くて面倒臭いかで話題となるタイの首都バンコク(正式名称が長い)の地下をくぐり、水位上昇した水平線の彼方へと消えて行った。
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