第3話 天使爆誕
くの一は逃げた。だが、お釈迦様の掌の上を、筋斗雲に乗って爆走する孫悟空のようなものだった。
ふと、一本道の先に穴があることをくの一は発見した。それはまるで、菊の花のような形をした穴だった。
「これは明らかにトラップね。こんな簡単なワナにハマるわけがないのに」
くの一は走るスピードを上げて、走り幅跳びの要領で軽快にジャンプして穴を飛び越そうとした。素人のただ跳ぶだけのジャンプではなく、オリンピックに出るレベルの選手のような、空中を歩く本格的なジャンプだった。しかし、くの一が空中を歩き出すと、何故か穴が大きく広がり始めた。このままでは、穴の向こう側に着地できずに、拡張した穴に落ちてしまう。
慌てたくの一は、足の回転速度をアップして激しく空中を歩いた。しかし歩けば歩くほど、穴は加速度を増して広がっていった。
くの一は粘った。だが、おっぱいが地球の重力に負けてやがて垂れるように、空中歩きも限界を迎えた。穴の向こう側に到達することなく、くの一は空中歩きの格好のまま穴の中に落ちた。くの一を呑み込むと、穴は再び縮んで菊の花のような形に戻った。
「ふふふ。お前、引退したいと言っていたな」
全力で走って息が切れたくの一が気が付いてみると、カパック王が座る玉座の前に控えていた。カパック王は相変わらず鉗子を持ってカチャカチャともてあそんでいる。
「アスリートが引退する場合、ユニフォームを脱ぐ、と言うな。つまりお前は、今着ているくの一のユニフォームである装束を全て脱がなければならないぞ」
そう言ってカパック王は、鉗子を持った手とは反対の手に、どこからともなく取りだしたハサミを持った。今度こそ、正真正銘の大きめのハサミだ。
「さあ、服を脱げ」
玉座から降りたカパック王が臣下のくの一に迫る。走り疲れて息切れしたくの一は、逃げることもままならなかった。
「はぁ、はぁ、……やっ、やめて、ください、はぁ、……はぁ、はぁ……」
カパック王は、臣下のくの一の服をハサミで切り裂き始めた。わざともったいぶるように、ゆっくりと、少しずつ、小さく小さく切っていった。少しずつ、くの一の白い肌が露わになってゆく。
「やっ、……やめ、……はぁ、はぁっ……」
疲れのため抵抗もできないままだった。だが、仮にくの一が必死に抵抗したとしても無駄だっただろう。偉大なるインカの王であるカパック王は、圧倒的に巨大な力を持っている。
くの一が着ていた忍者衣装は全て細かく切り刻まれてしまった。残っているのは、胸部を巻いて覆っているサラシと、股間のフンドシだけであった。
「ははは。良き眺めだな」
羞恥心に身を捩らせるくの一。されど、逃げることはかなわない。しばし、くの一の肌を見て愉しんだカパック王は、大きめのハサミを煌めかせ、最後の仕上げに入った。
胸のサラシも、股間のフンドシも、原型をとどめないほどに細かく切り刻んだ。かくてくの一は全裸となった。
「あああっ……」
涙目になりながら、くの一は手で胸と股間を隠した。
「も、もう勘弁してください」
「何を言っているのだ。ここまでは、遣唐使船に乗って長安を目指す旅のようなものだ。長安に辿り着いてから、ローマを目指すシルクロードの本当の旅が始まるのだ」
「そ、そんな……」
絶望がくの一を苛む。
「さて、ハサミの出番は終わりだ。今度こそ真打ち、鉗子の出番だな」
カパック王は、メタリックに輝く鉗子を誇らしげに宙に掲げた。
「お前、知っているか? この鉗子というのは、別名をクスコともいうのだ。我がインカの都の名前がクスコなのは、これが特産品だからなのだぞ」
「そ、そんな、まさか」
確かに、インカの都の名前は間違いなくクスコである。しかし、その名前の由来が、握って広げる金属製の器具だったなどとは、くの一は全く知らなかった。
「さあ、入れるぞ」
カパック王は、クスコをくの一の『おクチ』に挿入した。
「あっ、あんんんんんっあああああ」
くの一は、あ、なのか、ん、なのか分からない発音で悶えた。
一切相手の事情は気にせず、カパック王は鉗子のグリップ部分を握った。ペリカンの嘴が開き、くの一の『おクチ』が大きくオープンする。
「ふふふ。これで、中まで丸見えだな。それでは、卵を取り出すとしようか」
カパック王は、鉗子の中を通して、自らの腕を挿入した。奥まで深く深く。カパック王の手は、くの一の腹にまで届いて、無遠慮にまさぐっていた。涙を流しながら苦悶の呻きをあげるくの一は、胸や股間を隠すのも忘れて、両手で腹をおさえた。長い黒髪が乱れて、胸や股間の大事な部分を隠した。
「あああんあんあんんんあああああ」
「そら。金の卵を取り出したぞ」
カパック王は腕を引き抜くと、鉗子もくの一の『おクチ』から引き抜いた。カパック王の手には、鶏の卵くらいの大きさの金色の物体が握られていた。
「げほっ、げほっ」
くの一は、口から喉、腹にかけて、カパック王の手で蹂躙されたので、苦しんで咳をしても一人状態だった。
「金の卵を入手したからには、もう勝ったも同然だな。あとはこの偉大なカパック王の精子をかけて孵化させるのみ」
「お、王よ。し、質問があります」
ようやく復活したくの一が呼びかける。面倒くさそうな顔をしながらも、王は律儀にくの一の方に向き直った。
「ど、どうして、私の口から、そんな卵が出てきたのですか?」
「それはさっき説明したであろう。おとなしく自分で卵を産んでいれば、わざわざ無理矢理に取り出さなくても済んだのだぞ」
「そうは言われましても、卵を産むなど。ましてや口から産むなど、あり得ません」
「ナメナメ星人だって口から卵を産むのだぞ」
「ナメナメって、、そんなエロい名前ではなかったように思います。そ、それと」
「まだ何か聞きたいことがあるのか?」
「口から卵を取り出すのでしたら、それなら私は、わざわざ全裸になる必要は無かったのではありませんか。普通に着衣状態でも、できたのではありませんか?」
「そりゃあ、その場の勢いというものが大事だろう。それよりも、今は金の卵だ。さっそく精子をかけることにしよう」
カパック王は、金の卵を自らの鼻の穴のすぐ下にもってきた。そして、そっと鼻息を吹きかける。すると、カパック王の二つの鼻翼がふくらんで、鼻の穴からは白くて粘度の高い液体がしたたり落ちてきて、金の卵にかかった。
「お、王よ、、、いえ、なんでもありません」
質問しようとしたくの一は、自ら黙った。口から卵を産むことがあるのなら、鼻から精液が出てくることだってあるのだろう。ここはインカの都のクスコであり、その偉大なる支配者はカパック王なのだ。
受精を果たした金の卵に起きた変化は如実だった。インカのめざめ以上にまぶしく輝き、くの一も、カパック王ですらもその光の強烈さに耐えられず、目を閉じた。
「くっ、やったか」
光が収束し、カパック王はようやく薄目を開けた。金の卵は無くなって、その代わり一人の人物がそこに居た。
「なんだよ。俺に何か用か?」
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