第21話 人生は常に新しいことへの挑戦
ラーメン職人はかっこよく敬礼した。
「それでは、秘書と金の天使、どちらから先に回想してみますか?」
「それは迷うまでもないだろう。金髪・ツインテ・貧乳の方が圧倒的に優先度が高い」
哀れ。
金の天使は軽視された。
本来ならば、金の天使の方が仕事の面では有能なのだ。絵を描いて実体化できる、という魔法を使えるのだから。それでムー大陸などという無敵の不沈空母も無尽蔵に産み出すことができた。
その一方で金髪・ツインテ・貧乳は秘書技能検定3級を持っていて、カパック王の業務を秘書として補佐するだけに過ぎない。
にもかかわらず、カパック王は金髪・ツインテ・貧乳の方を優先して捜索することにした。
当然だろう。金髪・ツインテ・貧乳は、その名が示す通り、金髪で、ツインテールで、おっぱいは小さいけど、ライトノベルに登場するようないかにもなテンプレのハーレム要員ヒロインの美少女なのだ。氷河期中年で額がM字開脚で後退していて、デブでキモいメガネの金の天使では、容姿で勝負にならない。メガネは両者に共通なので関係無いが。
「じゃあカパック王。俺が今からラーメンブログに再生シーンを投稿しますので、そちらを確認してください」
「なんだよそりゃ。そんな面倒な手続きを取らないと再生できないのか?」
「まあまあ。ここからが、秘書が行方不明になっているシーン、の再生ですから。目を丼のようにしてよーく注視してください」
ここから再生シーン
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カパック王は読み終わった手紙をくしゃくしゃに丸めて捨て、拳を握りしめて決意を固めた。
「しかしチベットか。どうやって攻撃するべきか。一〇万の兵は駄目だろうし。そもそも地球の大部分は海の下に沈んでしまっているわけで、仮に一〇万の兵を用意したとしても、陸路ではチベットまでは行けないわけだし。となると船か飛行機か。……ん、待てよ?」
カパック王は、さきほど丸めてその場に捨てた、マヤ文明からの手紙を見下ろした。
「そうだ。飛行機が無いなら作ればいい。憎きマヤ文明からのこの手紙を使って、紙飛行機を作ればいいのだ。さすがインカ帝国の偉大な王たる私だ。不撓不屈の精神で必ずや仇敵を滅する。たとえチベットに亡命しようとも、地球上である限りはこのカパック王からは逃れられぬということを学習させてやるぞ」
カパック王はそう叫びながら、エナメル質が欠けるくらい強い圧力で歯ぎしりした。歯ぎしりしながら喋るというのはハイレベルな行為だが、偉大なるインカ帝国の王はおクチでの行為も器用にこなすことができる能力があるのだ。
さっきくしゃくしゃに丸めて捨てた紙を拾い直し、再び広げて、不快な文面には視線を向けないようにして、カパック王は紙飛行機を折った。
そして、野球漫画のようにおおきく振りかぶって、キャッチャーミット目がけて時速165キロの剛速球を東へ投げ込んだ。
とはいえ、投擲したのは野球のボールではなく紙飛行機だ。ふわふわふわ~~~とチベットに向かって飛んでいく。カパック王はその紙飛行機を見送って、、、、
かと思うと、カパック王は助走をつけて勢いよくジャンプした。走り幅跳びの要領で、古代アテネオリンピックに出場した選手のごとく空中で足を回転させて走った。猛烈な速度で空気を足で掻き、前を飛ぶ紙飛行機に追いつき、その上にソフトランディングする。
飛ぶ紙飛行機の上に立って乗った状態で、カパック王はチベットを目指す。
とはいえ紙飛行機なのでどうしても不安定だ。蛇行するようにしてフラフラと前進する。インカ帝国を飛び立った紙飛行機は、セントヘレナ島の上を通過し、そこから何故かエルバ島とコルシカ島の上を通り、エジプトのピラミッドの上をゆったりと眺めるように通り過ぎ、ラブファントムのイントロとどちらが長いかが話題となるスリランカの首都スリジャヤワルダナプラコッテの上も通過し、回避すればいいのにわざわざチョモランマの頂上に激突し、カパック王が痛い思いをしてから、チベットの都のラサ上空に到達した。
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再生シーンここまで
瞬きをしないで、カパック王は再生シーンを凝視した。どこにも、金髪のツインテールもまったいらなお胸もパンチラも下半身モロ出しも美少女も見えなかった。
「おい、おかしくないか? じっくり観察したけど、どこにも金髪・ツインテ・貧乳が出てこなかったじゃないか?」
ラーメン職人はゲンドウポーズを解いて、ポスター写真の中の有名ラーメン店店主のように偉そうに腕組みをした。
「はっはっはっ! カパック王、俺の言ったことをちゃんと聞いていなかったのですか? 俺は、秘書が行方不明になっているシーン、の再生をする、って言ったんですよ? ということは、再生シーンの中に秘書が出てきたら、それは行方不明じゃないですから、該当しないことになってしまいます。秘書が出てこないからこそ、秘書が行方不明のシーンをきちんと再生したことになるのです」
そうは言われても、到底カパック王は納得できるものではなかった。
「ふざけるな! 行方不明のシーンを再現しても仕方ないだろう。そういうフェイント本当にいらんわ。それでは肝心の金髪・ツインテ・貧乳をどの辺で探せばいいのか目処が立たないじゃないか」
「そうは仰いますがカパック王。秘書が最後に登場しているシーンを再生するなど、普通すぎてつまらないじゃないですか。人生は常に新しいことへの挑戦です。ここは新しい試みとして、捜索対象である秘書が登場しない再現シーン、という斬新なことをやってみたわけです。カパック王をフェイントでひっかけることができて、大成功じゃないですか」
「何が大成功だ! そんな所で変に凝ったり斬新さを求めたりしなくてもいいんだ。さっさと普通に金髪・ツインテ・貧乳が登場している最後のシーンを再生するんだよ。とっととやれや!」
さっき熱々のラーメンを感飲したカパック王は、額からほかほかと湯気を立てて、ゆでたブラックタイガーのように顔を真っ赤にして怒った。
「へいへい。まったく、無駄に細かい注文の多いクライアントだね」
「誰のせいだと思っている。おのれが余計なことをしたからではないか!」
怒ってばかりのカパック王だ。腹立たしいのはマヤ文明だけでも充分だったというのに、類は友を呼ぶ方式で、腹立たしい奴らばかりカパック王の周囲には集まってしまう。
「ほんと、あんたらアホよねえ。そんな茶番劇ばっかりやっていて。アホが移ってしまうから、あまりインカ帝国には長居したくないわよねえ」
カパック王とラーメン職人の背後から、アニメ声の女の声が聞こえた。「援助交際をしていそうなアニメキャラランキング」を実施したら多数の票を集めそうな感じに、甘ったるいソプラノヴォイスだった。
「何者だ?」
カパック王の誰何に対し、衝撃の答えが返ってきた。
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