第39話 労働力は外国から調達しましょう
科学技術が高度に進化した先進国であるはずの現代日本で、怪奇現象というワードでしか説明し得ないような謎の現象が頻発していた。
複数のトラックが暴走している。次々と人を轢いている。
大惨事であることは動かしようの無い事実だ。
だが、無差別ではない。いわゆる氷河期世代の中年男性ばかりを狙って轢き殺している。
目撃者も多数存在する。監視カメラにも映像が残っている。
だが、不思議なことに、死体が残っていない。
まさに怪奇現象だった。
中年男性がトラックに轢かれて、死体がその場に残らず、忽然と消えて無くなってしまうのだ。そういった現象があちこちで起きている。
捜査機関が首を傾げている頃、インターネット上ではアホな予測が飛び交っていた。
「また死体が無い交通事故発生した模様」
「怪奇現象キタコレ!」
「絶対何かトリックあるだろう。マスゴミのやらせにはウンザリ」
「なんかさ、よくあるライトノベルみたいな展開じゃね? 何の取り柄も無い冴えない男がトラックに轢かれて異世界に転生するとか。轢かれたオッサン方、みんな死体が無いってことは、異世界に転生しているのかもよ」
「まさか。妄想乙www」
「そんなんだったら、オレが転生したいわ。トラック、ひきに来てくれないかなー。」
「でもさ、役に立たない氷河期世代のオッサンどもが大量に消えたら、そいつらに対して払わなければならなかった年金とか諸々の社会保障を節約できて、むしろそいつら消えてくれて日本的にはラッキーだったんじゃね?」
「そうだそうだー。もっとやれーb」
「俺もひき殺してくれー!」
もちろん、インターネット上でのこのような雑談やりとりは、単なるバカな世間話として、まともに取り上げられることもなかった。
だが。
その頃、インカ帝国では。
「えっ? ここはどこだ?」
「お、おれは確か、トラックに轢かれて、死んだはずじゃ……」
「こ、これは、もしかして……」
「「「異世界転生、オレにも来たぁぁぁぁ!?」」」
現代日本でトラックに轢き殺された氷河期世代の中年男たちは、皆、歓喜の雄叫びを挙げた。全員、金の天使となっている。
「やったぞ。これで、イヤな現代日本から脱出だ!」
「社畜、つらかった……」
「ソシャゲの続きをできなくなるのは心残りだなあ」
「あれ? 俺、トラックにひかれて現代日本に戻ったはずだったのに、なんでまたクスコの王宮に戻って来ちゃっているんだ?」
一部、聞き覚えのあるような声もあったが、満足げにカパック王は頷く。
「よしよし、予定通りに事が進んでいるな。現代日本に暴走トラックを送り込み、大量に氷河期世代を殺す。そうすれば、死んだ氷河期世代どもは、このインカ帝国に金の天使として転生して来る。インカ帝国の労働力が増える。そして、現代日本は、お荷物にしかならない氷河期世代を大量処分できる。そして氷河期世代の連中は、閉塞した現代日本を脱出して異世界であるここインカ帝国に転生できる。これは一石三鳥、経済学用語でいうところのWin-Win-Winの関係、大岡越前的に言うと三方一両得というやつだ。さすが私。良いことをすると気分が良いな」
得意満面のカパック王は、王宮に大量に集まった氷河期世代のオッサン連中を睥睨した。その隣に、犬飼フサ子がやってきて、呟く。
「カパック王、金の天使って、現代日本でトラックにひかれたオッサンがここに転生してきたら金の天使になるんでしたっけ? 元の設定では、DTOを三〇歳まで育てて魔法使いにする、というのがありませんでしたっけ?」
せっかっく気持ち良さに浸っていたところに水を差される発言をもらって、カパック王は少し不機嫌そうに横目で犬飼フサ子を睨んだ。
「いいか、よく聞け。この栄光のインカ帝国には、設定矛盾という言葉は存在しないのだ。その場の気分で決まったことが公式設定だ。それが証拠に、現代日本から大量に氷河期世代を召喚しても、あの面倒で厄介なファンタジー警察が湧いて出て来ないじゃないか」
「でもカパック王、こんなに大量に現代日本から人間を引き抜いたら、大騒ぎになるんじゃないですか?」
「だからそれは大丈夫だと言っているだろう。現代日本は、いなくなった氷河期世代の分を、外国人技能実習生で補えば良いのだ。つまり裏を返せば、ここに呼び出した氷河期世代の連中は、インカ帝国にとっての外国人技能実習生ということなのだ」
ブラック企業の社長のように、カパック王は笑みを浮かべた。一方犬飼フサ子は、冷静な社長秘書のようにシルバーフレームのメガネを煌めかせた。犬飼フサ子のメガネ設定があったかどうかは神たるカパック王も覚えていないが、今ここでそういう設定になったので問題なし。
「しかし、こんなに大量に役立たずの人間を集めてどうしようというのですか? ……あ、もしかして、こいつらに余った塩を消費させようということですか?」
「違う違う。さっき言っただろう。塩はマヤ文明に送りつける、と。氷河期世代の連中は、この塩を、インカ帝国からマヤ文明まで運搬してもらう」
カパック王の発言に、美人秘書官たる犬飼フサ子も驚きを隠せなかった。
「ど、どうやってですか? 無謀ではありませんか? それこそファンタジー警察が出てきてしまいますよ?」
「お前の言いたいことは分かっている。インカ帝国からマヤ文明までは長大な距離がある。そこを人力で運搬するとなると過酷な任務だ。運搬する人員自体のメンテナンスも必要になる。そういうことだろう? だが大丈夫だ。こいつらは、一見すると見た目も不細工な役立たずのオッサンだけど、現代日本からインカ帝国に転生してくる過程で、駄女神からチート能力を授けられている。それぞれがチート能力を使えば、塩の運搬など造作もないことだ」
「そうでしょうか……いつどこで駄女神なんか出てきたんでしょうか?」
「なんなら駄女神もキャラ化するか? 私のハーレム要員が更に一名追加になるが」
「いえ、結構です。そもそも私って、いつの間にか美人秘書官って設定になっているんですか? 私って元々、金の天使に対する銀の天使だったんですけど」
「分かっている。だからメガネはシルバーフレームなのだ」
「なんと! カパック王が私の初期設定を覚えていたなんて!」
「ふふん。だから私は偉大なカパック王なのだと言っているだろう。それよりも、さっさと始めるぞ。転生してチート能力を手に入れた氷河期世代の戦士たちよ! 今こそそなたたちの力を見せる時だぞ!」
「おおおおーーー!!!!!!」
氷河期世代のオッサンたちは拳を天に突き上げて雄叫びを挙げた。自分たちを冷遇してきた社会、役立たずと罵られ続けた苦難に満ちた過去。それらを全て払拭して、見返す時が、今、来たのだ。
「では早速、塩をマヤ文明まで運搬しろ!」
カパック王の高らかな作戦開始宣言に対し、おずおずと挙手して意見具申したのは、見覚えのある男だった。
「あのー、王様。塩を運べと言われましても、袋に詰められているわけでもない裸の塩なんて、運びにくいことこの上ないんですが」
それは、あの絵だけが取り柄の金の天使だった。この場に居るのは全員金の天使だが、最初にインカ帝国に来て、スケッチブックから不沈空母を大量生産し、圧迫面接で蝦蟇の油を搾り取られた、あの薄幸の金の天使だ。美少女エルフが暴走させたトラックのエルフに轢かれて死んで、現代日本に戻る形で転生したのだ。だが、その現代日本でまたトラックに轢き殺されてしまい、またまたインカ帝国に転生して戻ってきてしまったのだ。
「運びにくい? それもそうか。どうしようか? 考えてみるか」
カパック王はその場に逆立ちをして考え始めた。隣に立っている美人秘書官である犬飼フサ子のタイトスカートの中が覗けて白いぱんつが見えた。
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