第11話 セーターは童貞を殺すか?

 金髪・ツインテ・貧乳は一糸まとわぬ全裸となった。素晴らしいサービスシーンだ。

 だが心配ご無用。見えてはいけない部分には、どこからともなく謎の白い光が差し込んで、しっかりガードして見えなくなっているからセーフ。サービスはしつつ、都合の悪い部分は描かないという、謎の白い光は二〇世紀末の日本の最大の発明なのだ。物語の設定が西暦1197年だと突っ込んではいけない。

「ううっ、屈辱! カパック王、覚えていなさいよ!」

 ようやく金髪・ツインテ・貧乳は立ち上がって、再びファイティングポーズをとった。大事な部分には白い光が入るので、手で隠さなくてもいいので、ファイティングポーズをとれるのだ。

 だが、全裸であることに変わりはない。インカ帝国の独裁者として強大な魔力を誇るカパック王を相手にして、金髪・ツインテ・貧乳の形成の不利は否めなかった。

「さて。美少女キャラを全裸に剥いて読者サービスをする、という役割を果たしたので、そろそろ不毛な戦いは終わりにしようではないか、金髪・ツインテ・貧乳よ。このカパック王の偉大さを認めて、マヤ文明へのスパイ行為からはさっさと足を洗って、我がインカ帝国に絶対服従を誓えば、命だけは助けてやらんこともないぞ? どうする?」

 金髪・ツインテ・貧乳は、バスに轢かれたサーバルキャットのように、う゛っ、とたじろいだ。若さ故の過ちのように認めたくはないものだが、戦況は圧倒的に自分が不利なのだ。なんだかんだいいつつ、カパック王は偉大で強いのだ。ありがちなウェブ小説の主人公に相応しいチートな強さを持っている。

 ポツダム宣言のような降伏勧告を受けたが、金髪・ツインテ・貧乳は狐疑逡巡した。

 果たしてこのカパック王というのを信頼していいのだろうか。降伏したとたんに蹂躙されて酷い目に遭わさせれるのではないか、という疑念が払拭できない。だが、これ以上戦ってもチート能力のカパック王には勝てないのは明白だった。

 ど、どうしよう。

 ふと、下を見ると、自らの股間に対してどこからとも差し込んでいる謎の白い光が、まるで濃霧が晴れて行くようにして、少しずつではあるが薄くなっていきつつあるのに気付いた。金髪・ツインテ・貧乳は焦った。

「ちょ……なんで白い光が薄くなっているのよ! これじゃ見えちゃうじゃない!」

「だったら謎の白い光なんかに頼らず、自分の手で大事な場所を隠せばいいだろう」

「そ、そんなことしたら、両手が塞がっちゃうじゃない! それじゃ満足に闘えないでしょ」

「だからさっさと降伏しろと言っているのだ。降伏すれば、仕方ないから制服は支給してやる。服を着れば、見える心配をしなくてよくなるだろう」

 説得というよりは、裸身が見えてしまうことを盾にした脅しであるが、効果は覿面だった。

「分かったわ。降伏する、降伏します。だから早く服を着せて!」

 涙目になって金髪・ツインテ・貧乳が叫ぶので、偉大で寛容なカパック王は降伏を受け容れることにした。

「よし、ならば今後金髪・ツインテ・貧乳は、この服を制服として、我が王宮で秘書として働くがよい」

 カパック王は法界定印を結び、宇宙コミケで買った薄いネクロノミコンに記載されている怪しい呪文を唱えた。

 すると。

 薄れかけていた白い光が濃度を増した、と思ったら、凝集して金髪・ツインテ・貧乳の体にまとわりついた。光が繊維へと変換し、服となったのだ。

「こ、この服は……?」

「どうだ。いいだろう。童貞を殺すセーター、だ」

 金髪・ツインテ・貧乳は、白いセーターを身に纏っていた。

 普通のセーターと決定的に異なっているのは、胸の部分だった。胸の豊かな女性が着用した場合、ちょうど胸の谷間の部分が覗けてしまうような穴が開いているセーターなのだ。確かにマヤのようなドゥティメンに対しては視覚的に刺激が強すぎる危険なセーターだ。

「えっ、でもこれって……」

 しかし。今、着用しているのは、胸の豊かな女性ではない。

 その名の通り、金髪・ツインテ・貧乳だ。

 まったいらな、おむねに、ちいさな、ぽっちりが、ふたちゅ。

 という大平原ぶりだ。

「なんなのよ、このセーターは! 私に対する嫌味? あてこすり? イヤガラセなの? それともセクハラ? フェミニスト弁護士を雇って訴える案件なの?」

 柳眉を逆立てて、金髪・ツインテ・貧乳はマヂギレした。

「不満か? だったら今この瞬間にそのセーターを消滅させてもいいんだぞ。そうなるとおっぱいがモロ見えになって困るのはお前だろうけどな」

 余裕をかました鷹揚な口調のカパック王に対し、金髪・ツインテ・貧乳はぐぬぬと呻るだけだった。病気になったら病院で処方された苦いお薬もゴックンしなければならないように、戦いに敗れた者は勝者の提示する理不尽な条件も承諾しなければならないものなのだ。

「……まあ、しょうがないわね。胸部に穴が開いているといっても、間違って乳首が見えちゃったりしなければ、それでいいわ。胸の谷間を男に見せつけて挑発するためのセーターなんだから、そういうもんだと割り切ればそれでいいわ。そんなことより、早く本題に入りましょう」

「本題?」

 偉大なるカパック王は素で首を傾げた。

 あまりにもダラダラと金髪・ツインテ・貧乳と不毛な戦いを続けていたので、自分たちがなんのために戦っていて、当初の目的が何だったかをすっかり忘れてしまっていたのだ。

 歴史上の国と国との戦争も似たようなものである。

「……そうだ思い出した。この英明なるカパック王の真の敵はマヤ文明だった。こんな金髪・ツインテ・貧乳のような小娘ではない。マヤ文明との崇高な戦いの中で、海面上昇が発生し、我が国の主要作物であるジャガイモ畑が海水に浸かって根腐れを起こしてしまったのだった。その対策をなんとかしなければならない」

 だが、いかに有能でチートなカパック王といえども、対処すべき問題が厖大すぎる。一人では手が回らない。なので、円滑に業務を遂行するために秘書が必要だ。

 その秘書を雇うためだけに、どったんばったんと悶着しているのが現状だ。

 そう考えると、大事な本題をそっちのけで、些末なことである秘書など、この金髪・ツインテ・貧乳でさっさと決めてしまった方がいい。

「それでカパック王、どうするのよ? 海面上昇でジャガイモ畑が水没したということは、海水をどうにかして除去しなければならない、っていうことよね?」

「だが、どうするというのだ? あの憎きマヤ文明だけが水没してくれれば充分だったのだが、こちらのジャガイモ畑にも影響が出てしまうとは。強力でよく効く薬には副作用があるということか」

「私にいい考えがあるわ。地球温暖化で海面上昇が問題とされているでしょう。ってことはつまり、逆に地球が寒冷化すれば、水が凍って海面が逆に下がるんじゃないかしら?」

「なるほど! その手があったか!」

 金髪・ツインテ・貧乳が聡明な秘書らしい意見を出して、カパック王もその意見の素晴らしさに思わず頭のLED電球が灯った。

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