第10話 人工衛星と称する事実上のミサイル
インカ帝国の偉大なるカパック王と、マヤ文明のスパイ、金髪・貧乳は睨み合った。ミドルネームが抜けてしまったが、気にしてはならない。
「邪道は滅びよ! そのタイツとニーソは、両方とも脱がしてやる!」
「勉強ができるばかりでもダメだし、スポーツができるばかりでもダメだということを小学校で習わなかったの? それともカパック王、小学校すら卒業していないとか?」
「王であっても小学校くらい行っている!」
言い争いは小学生レベルだが、二人の頂上決戦が、今、はじまる。
「うぉぉぉぉぉ! 小学生の頃、同級生の女の子のスカートめくりをして鍛えたこの手さばき、受けきれるものなら受けてみろ!」
カパック王の両腕が、金髪・ツインテ・貧乳に向かって延びた! まるでゴムゴムの魔術のようである。
「させるかぁっ!」
金髪・ツインテ・貧乳は禁断の大技を繰り出した。
「ふん! 私の旋風脚を甘く見るんじゃないわよ!」
そう叫びながら、その場で倒立し、地面についている両手を支点にしながら、体を高速で回転させた。右足、左足が、迫り来るカパック王の手にダメージを与えながら払いのける。金髪・ツインテ・貧乳の体は回転しているので、繰り出す旋風脚もエンドレスだ。体の回転とともにツインテールも金色の颶風となって渦を巻いて回る。ただし、それでも悲しいかな、乳は揺れない。乳だけは不動だ。それが貧乳の宿命。
「くっ、それほど体重が乗っている蹴りでもないのに、なかなか突破できん!」
苦しげにカパック王が呻いた。手がゴムゴム状態なので、キックで弾かれるとたわんでしまい、標的に向かって直進することができないでいた。
「ふふふふふ。どうよカパック王。この禁断の大技は。この技は、どうしても倒立するという性質のため、スカートをはいた状態だとめくれてしまってパンツがモロ見えになってしまうから、そう簡単に繰り出すわけにはいかない禁断の技なのよ! でも今はスーツを破かれてスカートがめくれる心配がなくなったからこそ、この技が使える。災い転じて一発逆転よ!」
金髪・ツインテ・貧乳は、巧みに手を動かして、カパック王に次第に迫ってきた。カパック王の両手が旋風脚に弾かれてしまうのみならず、カパック王の顔面にも旋風脚がヒットし始めた。
「おぶっ、おぶっ、おぶっ……」
辛うじてダウンは免れて立っているものの、金髪・ツインテ・貧乳を追い詰めていたはずが、立場はすっかり逆転し、今はカパック王が部屋の角に追い詰められている。
くそっ! どうすればいい? このままじゃジリ貧の雪隠詰めだ。
雪隠は「せっちん」と読む。トイレのことである。
金髪・ツインテ・貧乳の右足、左足が休むことなく襲ってくる。回転運動なので常に連続していて、攻撃と攻撃の間の隙が無い。
回転運動?
カパック王の脳裏に、回転運動という一つのキーワードが燦然と煌めいた。そこに事態打開のヒントがあった。
「それだ! 回転旋風脚、破れたり!」
まず、カパック王は、金髪・ツインテ・貧乳の足に右頬を蹴られると、今度は左頬を差し出した。左頬を蹴られたら次はまた右頬だ。どういう原理による動きなのかはよく分からないが、とにかく片方の頬だけにダメージが蓄積するのを防ぐと同時に、相手の攻撃を左右の頬だけで受けて、自分の腕を自由に使えるようにすることに最大の意義があった。
カパック王は、己の右腕を天に向かって突き上げた。その右手は、人差し指だけを突き立てている。
「人工衛星と称する事実上のミサイル、発射!」
顔をしきりに蹴られ続けているにもかかわらず、まるでイケメン男性声優が言ったかのようなかっこいいボイスで、カパック王は技の名前を叫んだ。
カパック王の右腕は、肩関節から離陸した。アフターバーナーにより加速を得て、人差し指が示す方向、つまり真上に向かって力強く昇って行く。右腕がまるまるミサイルになって飛び出した格好だ。
しかし、まるで北の国のようなネーミングが悪かったのか、ミサイルの勢いはすぐに弱まった。燃料切れを起こした右腕ミサイルは上昇する力を失って止まり、今度は地球の重力に逆らえずに落下を始めた。姿勢は逆になって、人差し指を真下に向けて落ちてくる。
ミサイル発射失敗。
……というわけではない。
これは誤算ではない計算通りなのだ。カパック王の狙い通りだった。
金髪・ツインテ・貧乳の回転旋風脚を連続で受け続けたカパック王の顔はぼちぼちカボチャのように腫れ始めていたが、それでも耐えきった。
カパック王の右腕ミサイルは落下してきた。回転旋風脚が描く円の中心点に向かって。
「そう! 回転運動は連続的で隙が無いように思われるが、円運動というのは中心だけは動いていない。そここそが弱点だ!」
円運動の中心。そこは、金髪・ツインテ・貧乳が両足を大きく開いた真ん中ということになる。
狙い過たず、自由落下してきたカパック王の右腕ミサイルは金髪・ツインテ・貧乳のお尻に人差し指をぶすっと突き刺した。紺色のスク水の布に覆われているが、丁度肛門の所だった。
「ひゃぁんっ!」
一方的な攻撃に夢中になっていた金髪・ツインテ・貧乳は防御が全く間に合わなかった。不意打ちでミサイルの人差し指攻撃を受けてしまい、思わずちょっとセクシーな悲鳴を挙げてしまった。攻撃も途切れてしまい、逆立ちを保つこともできなくなり、その場に倒れ込んだ。
「こ、こんな品の無い攻撃をするなんて」
「何を言ったところで、油断して技を食らってぶざまに倒れた状態では、単なる負け惜しみにしかなるまい。歴史というのは常に勝者によって刻まれていくものなのだ」
その場に倒れている金髪・ツインテ・貧乳を蔑んだ視線で見下ろし、カパック王は仁王立ちしていた。
「これで私の勝ちだ。お前のその、ヘンな半分タイツも片方だけのオーバーニーソックスも、マヤ文明のスクール水着も全部剥ぎ取る」
「や、やめてください。そんなことをしたら、私は全裸になってしまいます」
金髪・ツインテ・貧乳がうつぶせに倒れたまま、起きあがろうとしながら必死に哀願する。もちろん偉大なるカパック王が聞き入れるはずもない。
「今更命乞いしたところで遅いわ! 我が偉大なるインカ帝国とマヤ文明の二股をかけた己の不誠実な判断を呪うがいい」
カパック王は空中でベアークローをふるった。爪は、金髪・ツインテ・貧乳の着衣に一切触れていないにもかかわらず、鋭い刃物のごとくにナイロンを切り裂いた。カパック王の手の動きにより、空気が真空状態になってかまいたちが発生しているのだ。
偉大なるインカ帝国のカパック王、こんな技も使える万能の王なのである。
「ひあっ!」
思わず、金髪・ツインテ・貧乳は悲鳴を挙げた。が、彼女の肌は一切傷ついていない。無惨にも切り裂かれたのはタイツとオーバーニーソックスと濃紺のスクール水着の化学繊維だけだ。
「はっはっはっはっはっはっは!」
高らかに笑い笑えばカパック王。ほどなく作業は終了し、めでたく金髪・ツインテ・貧乳は一糸まとわぬ全裸となった。
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