ラウンド2

「あれ?ない・・・どこ置いたんだ?」


 使った物は、必ず元の位置に戻す癖がある俺が、物を無くすことは90%あり得ないことだ。もし無くなっていれば、誰かが使用中、もしくは、盗難、それか、あの女の仕業だ。

 事故後、記憶障害になってから、物をなくすことが事故前に比べて増えた気がするのは、気のせいだろうか。来月、先生に相談してみよう。

 部屋にない場合、大体はリビングで見つかることをここ最近覚えた。

 だが、今回その確率は極めて低い、というか、そんなことがあってはならない。

 俺は、ひやひやしながらリビングへ向かう。


 ((頼むから、何かの間違いであってくれ・・・))


 リビングに行くと、俺が探している物を持っている女がソファで寝そべっていた。


『あ、おにぃちゃん、お探し物はコレでしょ?』


「・・・あぁ。ソレをどうして?(いやめてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!)」


 数分前にした俺の祈りは、あっけなくハンマーで跡形もなく粉砕した。

 

 使うのであれば、自分の部屋以外はあり得ない。それなら、自分の部屋にあるべきものが、どうして・・・あぁ、想像したくないが、なんとなく見当がついた。


「あのさ、また、俺の部屋に勝手に入った?」


『勝手には入ってないよ?』


「俺が寝ている時は、入らないでって言ったよね?」


『うん。だから、入ってないよ。』


「じゃぁ、どうして、今ソレを持っているのか説明してくれ。」


『・・・それは、』


 さすがに、今回は、物が物だったため、俺はかなり動揺している。だが、動揺していることがバレたら、それはそれで面倒になることは目に見えている。

 俺は、女に悟られぬように細心の注意をして喋る。


「黙ってないで、」


『・・・かったの。』


 俺の言葉をさえぎって女が何かを言ったが聞き取れなかった。

 俺は聞き返す。

 すると、女がとんでもないことを口にした。


『だから・・・欲しかったの!』


 女はそう言いながら、顔が赤く染まっている。


「は?」


 言葉は分かるが、理解できなかった。

 

「欲しかったって・・・いや、何言って・・・・」


『頭おかしい奴だって思うよね・・・』


 ((はい。その通りですよー。てか、自覚あったんだー!あるだけマシか、ってそういうことじゃないから。かなりヤバイ奴認定だよ。これが俺の妹!?俺の妹はブラコンこじらせてるって、異常だって、あのシスコン先輩が言ってたけど、マジなの!?もう、これ以上、俺の人生ハードモードにしないでくれー!))

 

 俺は、この場の居たたまれない空気に負けそうになる。

 女は、今にも泣きだしそうな顔をしているが、被害者は俺だ。

 この状況をどうしようかと考えていると、女が立ち上がって、俺の前に立ち、ウルウルした瞳で俺を見つめ、言った。


『・・・でも、勝手に部屋に入ってないよ・・・本当だから信じて。』


 ((この状況で信じてって言われてもなー))


『もしかして、おにぃちゃん、昨日のこと、覚えてない?』


「そ、そんなこと、ないよ。覚えてる・・・はず。」


 強気でそう言ってみたものの、正直、部屋に行った後の記憶がうすらぼんやりである。


「たしか、ご飯食べた後、お風呂に入って・・・部屋に行って・・・えっと、」


『・・・そのあとの記憶は?』


 俺は、部屋で事を終えた後、寝た。のだろうか?


「昨日は、すぐ寝た・・・よ?」


 その言葉を聞いた女が、一瞬だけ、口元がニヤリとした。


「・・・なんだよ。」


『やっぱり、覚えてないんだ・・・』


(・・・ゴクリ)


 女は顔を上げると、そのまま俺に向かって進んできた。俺は反射的に後ずさりをする。ついに、壁まで追い詰められてしまった。

 

「あ、あの、なにか・・・?」


女が深呼吸を一つして、笑顔で言った。


『昨日の夜の記憶がないおにぃちゃんのために、説明しまーす!』


 ((・・・聞きたくない。))


『おにぃちゃん、お風呂で寝ちゃって、のぼせちゃったの。それで、妹の私が部屋まで運んだ。ね?勝手に入ってないでしょ、むしろ助けた。』


「・・・はい。」


『それでね、おにぃちゃんとイチャイチャする絶好のチャンスだ!って思ったんだけど、さすがに弱っているおにぃちゃんを襲うのは違うなーと思って、残念ですがやめました。優しい妹でよかったね。』


「・・・あ、はぁ。(マジ怖い、誰か助けて。)」


『でもさー、何もしないで部屋を出るのは、もったいないじゃん?』


 ((何もしないで出ていけ!))


『それで、ちょっとお部屋の探索をしてたら、お宝Grtだぜ!』


 女が例の物を顔の横に持ってウインクした。


『これを見つけた時、おにぃちゃんも男なんだなーって、これであんなことやこんなことしてるのかなーって想像したら、すごく興奮しちゃって、それでね、欲を言えば、使用後が欲しいの・・・ってことで、』


 ((こいつ、マジで、どんな性癖だよ。もう、イヤだ・・・))


「ちょt、ちょっとまったぁぁぁぁぁ!!!!」


 すごく大きい声が出ました。


『・・・うー、耳がぁー。』


「俺の記憶がないことをいいことに、こんなひどいことをするなんて、サイテーだな!」


『な、なんでよ!命を助けてもらった恩人に言う言葉?パパもママも泣いちゃうよ!妹は悲しいよ!そんな薄情なおにぃちゃん、大嫌いよ!』


「大嫌い万歳!俺のこと嫌いになってくれた方が俺は都合がいい!」


『そんな・・・本気で言ってるの!?』


「あぁ、本気だ!」


『おにぃちゃんのバカ!わからずや!あほんだら!』


 お互いに息を切らし、はぁはぁと吐く息だけが部屋に響く。

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