ブラコンライフ 02 ー1
<平日のナイトルーティン 前編:帰宅からディナーの巻>
妹の異常なブラコンは、365日、夜も容赦なく、その愛は全力で俺に注がれる件についてちょっとだけ聞いてくれないか。
「ただいまー。」
『おかえり、おにぃーちゃん!』
帰宅すると、まず玄関で妹がお出迎え。
まるで、飼い主が帰宅することを数分、数秒前に何かを察知し、玄関先で待っているペット等をイメージしてもらえればわかりやすいのではないだろうか。俺の場合、それが妹ということになる。
『今日もお仕事お疲れさま。』
妹が、おかえりのハグをする。それに対し、俺は、ただいまのハグをする。
ここで終わらないのが、俺の妹だ。ただハグするだけでは終わらない、いや、終わりにさせてもらえないことを俺は心得ている。
俺は、妹からの圧が来る前に、ハグをした後、笑顔で頭を撫でる。
このルーティンを無意識に出来るようになるまで、俺は何度も玄関のドアを開けることができないまま、家の前で数時間うろうろしていたこともある。
家に入りたいが、妹がいることを考えると気が重くなってしまう。
わざと遅い時間に帰宅したこともあるが、俺は妹を完全に甘くみていた。俺の妹は、いつどんな時であろうと、玄関で待っていた。
正直、俺はもううんざりしていたが、もし逃げたら、妹から何をされるかわからない。これ以上、面倒なことになるのは絶対に嫌だと思った俺は、妹から逃げることを止め、戦った。そして、その戦いに勝ったのだ。
そのおかげで、今こうして普通に帰宅することができるようになったのだ。
もちろん自分でも馬鹿げていると思う。だが、妹の機嫌を損ねないことを第一に、これ以上、妹のブラコンをこじらせないため、なによりも俺が妹に振り回されないためには、この選択が最善だと思っている。
妹は、鼻歌を歌いながらリビングへ、俺は洗面台へ行き、手を洗い、うがいを済ませる。
今日は、妹の機嫌が安定している。俺の長年のカンがそう言っている。
もちろん嬉しいのだが、正直、悩みところである。
普段、異常なブラコンの妹と接しているせいで、俺の感覚がマヒしてしまったのだろう。俺はこういう時の妹との距離感が未だによくわからない。
階段を上り自室へ行く。
部屋で一息つく。ここでようやく気が抜ける。
ひとまず部屋着に着替え、ベッドにダイブし、脱力タイム。
「はぁ・・・。」
このまま寝てしまいたいところだが、そうはいかない。
しばらくすると、下から妹が上がってくる足音が聞こえてきた。
”コン、コン、コン”
『おにぃーちゃん?大丈夫?』
「うん、今行くから、下で待ってて。」
『入ってもいい?』
俺は、ドアを開ける。
「今日は、夕飯食べてからお風呂入るよ。」
『わかった。』
妹は、ニコッと笑い返事をした後、自室へ入っていった。
((ご機嫌だな。何かイイコトでもあったのか?))
俺は、そのまま部屋を後にし、リビングへ行く。
夕飯の準備をする。とはいっても、作り置きしてあるものを温めるだけの時もあれば、冷蔵庫にあるもので簡単に作れるおかずを作る時もあれば、帰りにスーパーに寄り、出来合いのお惣菜を食べるときもあれば、デリバリーをするときもある。
今日は、作り置きしてあるものを温めたものと、うどんを茹でることにした。
テーブルクロスを敷いて、箸置きにお箸をセットする。そこへ、妹が来た。
「今日は、うどんにしようかと思うんだけど、いいかな?」
ご飯のリクエストがあるときは事前に教えてくれるため、確認する必要はないが、念のために聞くことが習慣になっている。
『うん。いいよー!』
「”きつねうどん”と”冷やしたぬきうどん”、両方作る?」
『ほんと!?いいの?』
妹が目をキラキラさせながら、俺に抱きつく。
本当は、俺が食べたいだけだが、妹の機嫌がいい時は、俺の意見が通りやすいため、こういう時、俺は遠慮せずに言っている。
妹は、俺が作るご飯を食べるのが好きなようで、そのおかげもあって、食事の面では比較的自由な気もする。
「もちろん。じゃぁ、うどんはまかせて。冷蔵庫に作り置きのおかずがあるから、好きなの選んで、温め終わったらお皿に盛り付けて、テーブルに運んでおいてくれる?」
妹は、はーい!と返事をして、楽しそうに始めた。
妹は、電子レンジが温め終わるのを待っている間、鼻歌を歌いながら、洗濯物を片付けている。
俺は、きつねうどん用と、冷やしたぬきうどん用の2種類のつゆを作り、もちろんトッピングの油揚げや、キュウリの千切り、わかめ、白髪ねぎも忘れず用意する。
電子レンジが温めが終わったアラーム音を鳴らす。
洗濯物を片付けていた妹は、電子レンジから今日のおかずとなる物をお皿に盛り付け、テーブルに運ぶ。
俺は、うどんを茹で、”きつねうどん”と”冷やしたぬきうどん”をそれぞれどんぶりに盛り付け、テーブルに運ぶ。
本日の夕飯の準備完了。
向かい合うようにそれぞれ椅子に座る。
「よし、食べよっか。」
『うん!食べよ!』
【いただきます。】
茹で加減も、味も、完璧に俺の好みに仕上がっている。空腹だった俺の腹を満たしていく。妹が準備してくれたおかずもいただく。作り置きだが、全然問題ない。
((あー、うまー。))
『うどん、どっちもおいしい。おかずもいつも通りだね!さすが、おにぃーちゃん。』
「それなら、よかった。」
夕飯の時の会話は、特に何の変哲もない。
今日はどんなことがあったとか、最近見たテレビの内容についてとか、映画の話、本の話、もうそろそろ買っておかないと無くなる生活用品のこととか、そんな他愛のないおしゃべりをしながら、それぞれ食事を終える。
「ごちそうさまでした。」
決まって、俺が妹より先に食事を終える。
妹が俺より先に食べ終わることは、ほとんどないと言ってもいい。
ただ、例外もある。それは、デザートだ。
デザートにおいては、妹のほうが俺より先に食べ終わる。これについては、よくわからない。
『ごちそうさまでした。』
数分後、妹が食べ終わる。
夕飯が食べ終わり、食器を片付ける。
食器の洗剤洗いは俺で、水で洗い流すのは妹が行う。
「洗濯物、ありがとう」
すると、妹が照れながら上目づかいで、俺に言った。
『おにぃーちゃん、そろそろ新しい下着、買いに行こ?』
一瞬、動揺して、危うく食器を落としそうになったが、セーフ。
それを悟られないように必死で平常心を作る。
「えっ、あ。う、うん。わかった。じゃぁ、今度の休みに・・・?」
笑顔で、ニコッと、顔が引きつっていたかもしれないが、俺は返事をした。
『うん!楽しみだね~♪』
((いきなり、下着って・・・まじか。ってか、俺の?妹の?どっちだ!?せめて、俺のであってほしい・・・(切実)))
こんな感じで、何の前ぶりもなく提案や質問や、お願いをされることがある。
片付けが終わり、お風呂の準備をする。
お風呂に入る前に、俺は明日の準備や、メールチェックをし終えたら、リビングのソファで読書をしたり、テレビを見たり、ネットサーフィンしたり、のんびり時間を過ごす。だが、そこには、99,9%の確率で妹がいる。抱きついてきたりしてくるくらいで、時に何かを要求されることがないことが幸いである。
なぜ、俺が自室ではなく、リビングで過ごすのかは、もうわかっているかとは思いますが、一応ご説明しますと・・・
なるべく、自分の部屋に妹を入れたくないからです。さらに付け加えるなら、部屋に入れたら最後、俺は妹に何をされるかわからないからです。
俺の妹の異常なブラコンという名の愛を、とてつもなく重い愛を、甘くみてんじゃねぇーぞ!なめんじゃねぇーぞ!
今日は、読みかけの本を読むことにした。ソファのひじ掛けを支えにクッションを斜めにセットし枕の代わりとして、仰向けになり読書開始。そこへ妹がきた。
妹は、俺が横になっているソファを背もたれにして、そのままカーペットの上に座りクッションを抱いてテレビを見始めた。
しばらく同じ体勢でいたため手が疲れた。俺は、起き上がりソファに座る。すると、妹が俺の膝の上に向き合うように座り、もたれかかるように抱きつく。
読書中の俺は必然的にハグをする体勢になる。
俺は、もう少しで読み終わるところでやめたくなかったため、妹の肩に顎を置き、そのまま読書を続ける。読み終わったタイミングで、妹の肩から顎をどかす。
すると、妹が待ってたかのように、読み終わった?と、ため息交じりに聞いてくる。俺は、うん、と返事をする。妹に要求されることは、一つだけだ。
『じゃぁ、ちゃんと、ぎゅってして。』
妹が両手を広げながら言う。
俺は黙ってハグをする。
今度は、ちゃんと手は妹の背中を包みながら。
((・・・俺は一体何をやってるんだ。))
そう思いながらも、俺は今日も妹との時間を過ごしている。
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