RE:Company slaver ーrank Pー

 俺は、社畜だ。自分が社畜であることに誇りを持っている社畜だ。社畜万歳だ。

 そんな社畜でも、今この状況はかなり厳しい状態だ。しかし、弱音を吐いている時間はない。何としてでも間に合わせなければ、いろんな意味で終わる。

 社員たちがこの戦いに負けそうになっている。心の悲鳴が出始めていた。


『終わらない・・・』


『俺、もう、死にそう・・・』


『帰りたい・・・』


『げん・・・かい・・・』


『終わらねぇー!』


 そんな社員たちをよそに、今、俺は”ゾーン”に入っている。無敵状態だ。アドレナリンがドバドバ溢れ出ている。


((おらおらおらおらおらおらおらおらぁぁぁぁぁぁぁ!!!!))


 そんな中、この危機的状況を知った先輩が応援にきてくれた。最強の助っ人、最後の砦だ。


『順番に仮眠と食事ちゃんと取れよー!ぶっ倒れる前に休めー!』


「先輩、ありがとうございます。」


『お前も休め。』


「はい。・・・それ、こっちに回してください!」


『確認お願いします!』


「終わってない箇所、こっちに回して!」


『ここからは俺に任せろ。そっち頼む、』


「お願いします、わかりました。」


『手洗いうがいも、消毒も徹底しろよって、あれだけ言ったのに・・・』


「ほんと勘弁してほしいですね・・・」


 先輩が来てから、暗く重かった空気が少し和らいだ。社員たちは、救世主の姿を見ただけでほっとした顔になった。だが、俺たちに休んでいる暇はない。


『おい、ここで寝るな!仮眠してこい、』


『うぅ、すみません・・・行ってきます・・・』


 ”見えない敵”が強すぎた。誰も悪くない、憎む対象は”ウイルス”だ。国内だけではなく世界中で感染者が出ている今、報道番組はそのネタばかりだった。

 よりによって、このクソ忙しい時期に感染症が爆発的に広まった。

 猫の手も借りたいほどだというのに、10名中9名のインターン生も”ウイルス”に負けた。そんな中、唯一出勤したのが、俺になついている例のあの子だけだった。いないよりましだ。とりあえず、彼女には雑務を頼んだ。

 社員も今日は半数が欠勤し、今いる社員だけでは無謀な状況だった。取引先は配慮をしてくれてはいるが、これは遊びではなくビジネスなのだ。こちらが間に合わなければ待っている取引先にまで迷惑がかかってしまう。


 ((眼球が辛い・・・頭痛くなってきた・・・いや気のせい気のせい、))


『・・・おい、』


「はい?」


『顔色悪いぞ、今のうちに休憩行ってこい。』


「いや、俺はまだ大丈夫です。」


『大丈夫じゃねぇから言ってんだろ。今ぶっ倒れられたら余計迷惑だ。』


 先輩はド正論をストレートにぶつけてくれる。俺はこういう先輩が好きだ。普段使わない強めの口調は機嫌が悪いからでも怒っているからでもない、俺に対して先輩なりの気遣いなのだ。もしかすると、周りからみたら俺が怒られているように見えるかもしれないが、これは、俺と先輩の仲だからできるコミュニケーションなのだ。


「・・・すみません。行ってきます。」


『おう。帰りにエナジードリンク買ってきてくれ、』


「わかりました。」


 俺は、懸命に働いている社員達の横を通り抜け、会社を出た。

 数時間ぶりに外気を体内入れる。深呼吸で新しい酸素を取り込み、体内に溜まっていた悪循環のガスを出す。


((はぁー、今回ばかりはさすがにキツイなー・・・))


「一応、連絡しとくか・・・」


俺>しばらく、帰れないかもしれない。


妹>今日も社畜かー

  りょーかい!


俺>戸締りちゃんとしろよ。


妹>自宅警備員は任せなさい!


 俺は、女(妹)に連絡を入れた後、先輩に頼まれたエナジードリンク数本と適当な軽食を購入してから会社に戻った。


 疲れ果てている社員たちに差し入れを配ってから、自分のデスクへ戻る。


「只今戻りましたー。」


『おかえりー、』


 俺は、作業中の先輩の邪魔にならないように購入した荷物を先輩が座っている隣のソファの上に置く。


『サンキュー、』


 先輩は、エナジードリンクのプルタブを開けてごくごく飲み干した。


『食料も買ってきてくれるとは、さすが、気が利くー、』


「先輩こそ、ちゃんと気分転換してきてくださいよ。」


『心配ご無用。俺には、最強の癒しがあるからな。』


 そういいながら、スマホの画面を俺に見せつけてきた。俺は、動物の癒し画像とかだろうと思いながら軽い気持ちで画面を見た。一度では認識できなかった。自分の眼を疑ったが、そこにははっきり映っている。


((このこと、本人は知っているのだろうか?いや、きっと知らないよな・・・))


 先輩のスマホ画面には先輩の妹さんの姿が映っている。しかも、寝ている姿だ。きっとレア中のレアだ。

 俺が心の中で妹さんに謝罪すると同時に、先輩が俺に耳打ちをする。


『(小声)お前だから特別に見せたんだ。公言したら、〇す。』


「・・・誰にも言いませんよ、((誰にも言えねぇよ!!))」


 呆れる俺をそのままにして、先輩は伸びをしている。


『さて、もうひと頑張りしますかー!』


「あの、先輩、」


 先輩は、作業の手を止めずに返事だけする。


「正直、凄く有難いですけど、先輩だって忙しいですよね。こっちは、まぁ、何とかしますので、もう、自分の仕事に戻った方が・・・」


 先輩は、作業の手を止めると俺を見て言った。


『俺、今謹慎中で暇だから、遠慮はいらないぞ。』


 俺は、あまりにも突然だった先輩からの告白の言葉にセルフ脳内エコーがかかる。


 ”俺、今謹慎中だから、俺今謹慎中だ、謹慎中、謹慎、謹慎・・・・”


「・・・謹、慎、中?」


『あれ?言ってなかった?』


 先輩の声で引き戻された。


「聞いてないっす。」


『じゃぁ、今言った。』


 先輩は、さらっと答える。


「ていうか、謹慎中の人間がここに居たらダメですよね!?」


『しーずーかーにー・・・バレちゃうだろ。』


「謹慎って、何やらかしたんですか?」


『まぁ、ちょっと、色々あってな、』


((色々って、雑だなー・・・))


『そんなことより、今は目の前の仕事に集中しろー、』


「そんなことって、」


『今、ここでは話せない。この仕事が片付いたらちゃんと話すからさ、ほら、みんな頑張ってる。さぼるなー。』


 部屋の外を見ると、社員達の姿がみえる。その姿を見て、俺は頭を切り替える。

 俺は、モヤモヤをできる限り無視しつつ、目の前の仕事にとりかかった。


 タイムリミットは容赦なく刻一刻と迫っている。


――――――1か月後・・・


「やった・・・終わった・・・」


『おつかれー、あぁー・・・』


 地獄のような1か月が終わり、ついに俺たちは解放された。

 結局、謹慎中であるにも関わらず先輩は役員に隠れながら、この1か月手伝ってくれた。

 社員たちは皆、もう限界を超えていて、その場で倒れている。中には泣き出してしまう者もいた。俺も、つられて泣きそうになったが今はこらえた。


『やっと、帰れる・・・』


『もう、働きたくねぇ・・・』


『うぅ、うぅぅー・・・』


 俺は、嬉しくて叫んでいた。


「皆さん、お疲れさまでした!ありがとうございます!」


 すると、先輩が続いて、


『よっしゃ、帰ろー!』


 先輩の一声で、各々荷物をまとめ顔面蒼白の社員たちは退社していった。社員達が全員退社し、ガランとしたフロアを見て、本当に終わったのだと実感した。


『俺らも、帰るか・・・』


「はい。」

 

 俺と先輩も退社し、先輩と別れてまっすぐ家に向かう。


 ――――――無事、家に着いた。


「・・・ただいま、」


 俺は、家に入ると一気に力が抜けそのまま玄関でぶっ倒れた。

 

『おにぃちゃんっ!!』


 次第に、俺の脳は俺の意志を無視して意識を遠くに持っていく。

 ぼんやりと音が聞こえた気がした。でも、目の前は真っ暗で体の感覚はほとんど無く、何もわからない。

 

 俺は、深く、深く、眠りに落ちた。

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