RE:Company slaver ーrank Gー


『おはようございます。』


「おはようございます。」


 朝、出勤するとインターン生と入口で鉢合わせた。

 俺は、インターン生が俺ん家に来たあの日の後から、インターン生に対し警戒心を持っている。

 先週からインターン生の面倒を見ることになった俺は、1週間が経過したころに、インターン生との距離に違和感を持った。なんだか、インターン生との距離が近い気がしてならないのだ。誤解される前に言っておく、俺とインターン生の関係は健全であり、断じて一線を越えるようなことは起きていない。家に来たのもあの日一回きりだし、仕事以外で会ったこともない。

 これは、俺の推測だが、たぶん女(妹)が関わっている。あの女(妹)とインターン生は友達だと言っていた。あの女(妹)が他人を家に呼ぶということは、かなり親しいことは間違いないだろう。でも、なぜ、俺が興味を持たれているのかが全く分からない。


 インターン生は、仕事内容が分かればしっかり働いている。俺も含めこれまで指導係だった社員等は彼女に対して説明不足だったのかもしれないと反省をした。

 彼女は相変わらずコミュニケーションは苦手のようだが、以前のような態度は見られなくなった。今では俺以外の社員達とも打ち解けているようで安心した。


『あの、すみません。』


「?」


『ここなのですが、こちらの資料と比較したところ合わない部分があります。』


 俺はインターン生から資料を受け取り確認する。インターン生の言った通り合わない。


「今、担当者に確認するから、他の仕事を進めてください。」


『はい。よろしくお願いします。』


 俺は、社内電話で担当者に確認を急ぐよう伝えた。

 今回は初歩的なミスだったが、これが大きなミスだったらと思うと怖くなった。   

 インターン生が気付いてくれたことが不幸中の幸いだ。


「今後、このようなことがないよう再度確認を徹底してくださいね。」


『はい。この度は大変申し訳ございませんでした。失礼いたします。』


 誰かに注意をする立場にいる以上嫌われる覚悟だ。正直、気持ちがいいものではない。だが、誰かのミスは会社のミスにつながる。それをゼロにするためにもミスをした後の対処が肝心になる。社員を指導する能力がまだまだ未熟な俺だが、自分の中で決めていることがある。それは、ミスを攻めるのではなくフォローしたい、なるべくカバーしたいと思っている。先輩が俺に教えてくれたように俺も誰かにとってそういう存在になりたいのだ。その道のりはかなり長いが。


((先輩は、いつもどんな思いで先陣を切ってるのだろうか。))


 改めて先輩に敬意を持つ。


 俺は、インターン生のところへ行く。


「お疲れ様。さっきの件だけど、修正されたものが届くから、もう一度確認してもらっていいですか?」


『はい。わかりました。』


 俺は、自分のデスクに戻って仕事を再開する。今の役職になってから、仕事の量は今までの倍はある。それに、責任者として関わっている仕事も増えてきた。やることは尽きない。この役職は嫌いだが、以前の倍かそれ以上にワクワクしている。自分でも仕事バカだと思う。

 午後も、目の前の仕事を片付けつつ、インターン生に指示を出す。


「お疲れ様です。これ、良かったら。今日はお手柄だったよ、ありがとう。」


『お疲れ様です。いえ、たまたまです。ありがとうございます、頂きます。・・・失礼します。』


 この会社では、インターン生は定時よりも早く帰ることが雇用条件にある。フレックスタイム制も導入している。俺は、社員はもちろんインターン生が働きやすい会社を作りたかった。それを実現させてくれたのが先輩だ。

 前会社にあったの良い部分を残し、新しい制度を導入して今この会社がある。きっかけがあの最悪な事件だったとしても、かつてこぼした俺のわがままを覚えていた先輩がこの会社の基盤を提案し、それに尽力してくれた多くの役員達に感謝をしている。


『こんこん、』


「お疲れ様です。」


 定時前に、先輩が俺のところへ来た。


『インターン生と、うまくやってるみたいだな。さすが、俺が見込んだ奴だ。』


「まぁ、最初は先輩に丸投げされて、どうしようかと思いましたけど・・・なんとかなりましたよ。」


『丸投げって・・・お前だったら何の心配もいらないなーと思って任せたんだよ。俺の思った通りになったな。』


「先輩の頼みだったので、何とかしましたけど、色々大変でしたよ、」


『すまんすまん、で、今日、時間くれないか?』


「そっちが本題ですよね、いいですよ。」


『じゃぁ、またあとで、』


「はい。」


 ――――――退社して先輩と合流した。

 

『この時間だと、いつのも場所でいいか?』


「はい。俺はいいですよ。」


 夜外の空気は澄んでいて、冷たい風が男二人の背中を押すように吹いた。


『そういえばさー、最近、妹の様子が変なんだよー、』


 仕事以外で俺と二人でいる時の先輩は、仕事モードの先輩を全く感じなくなる。オーラが消えるというか、ただ”顔面がちょっとイケてるおじさん”というか、ただの”シスコンバカ”になる。


『ねぇ、ちょっと、聞いてる?』


 この”シスコン野郎”が妹の話を始めると終わりがない。だから、相槌をテキトーにしながら聞き流すことにしている。真面目に聞いていたらこっちのHPもMPも持たない。


『お前に会いたい理由を聞いても答えないし、何考えてるのか全然わかんねぇよ・・・』


((俺に会いたい理由かー・・・は?何の話?))


「すみません・・・今、なんて言いました?」


「ん?・・・だから、妹がお前に会いたいっていうから理由聞いてるのに、全然答えてくれなくて、どうしたらいいっていう相談だよ・・・』


 ((それは・・・俺に相談することじゃないよ!?俺もわかりません!なんでそんなことになっているんだ!?先輩もだけど、先輩の妹も何っ!?))


「・・・じょ、ジョーダンで言ってるのでは?先輩のこと、からかってるんじゃないですか?そんなの意味わからないじゃないですか?だって、なんで俺?」


『・・・やっぱそーだよな!ははははっ。わりーわりー、ちょっと疲れてるのかも、ははははっ・・・今のなし!』


「先輩が仕事好きなの知ってますけど、しっかり休んでください!今日は、止めましょう?」


 身の危険を感じた俺は、咄嗟に先輩にそんなことを言っていた。


『そーだな。お前にこんなおかしな相談しちゃうくらいだもんな・・・じゃぁ、また今度な。』


「はい。帰り道お気をつけて、失礼します。」


『おぅ。じゃぁーなー、』


 俺は、先輩が背を向けて歩き出す姿を見送った後、自分も帰路につく。


((俺も疲れてるな・・・今日は早く寝よ。))



――――――――就寝前・・・


 その夜、先輩の妹から連絡が入った。


妹さん>夜分にすみません。

    バカ兄貴が変なことを言ったみたいで、ご迷惑をおかけしました。

    ホントすみませんでした。気になさらないでくださいね。

    おやすみなさい。


俺>こんばんは。

  先輩、かなり疲れていると思います。

  妹さんから休むよう説得して頂けるとありがたいです。

  おやすみなさい。


”コンコンコンコン・・・”

『おにぃちゃーん、』


 ドアの向こうで女(妹)が俺のことを呼ぶ声が聞こえた。


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