03


 ”ドカッ”


 何かが俺にぶつかった。というより、何か物体をぶつけられた、といったほうがこの場合ぴったりだ。

 あまりの衝撃で、手にしていたスマホを危うく落としそうになった。間一髪スマホは守った。が、俺はバランスを崩しその場に倒れた。


「...ってぇー。」


 避けきれなかったのではない、避けきれるわけがないのだ。なぜなら、俺の背中に目はついていない。もし、馬だったら避けきれたのかな。

 溜息を吐きながら立ち上がり、スーツの汚れをはらった。運よくスーツは破れていなかった。


 ((本当に勘弁してくれ、このスーツは俺が持っているスーツの中でも頑張って買ったスーツなんだぞ。まぁ、それなりのスーツだったから破けなかったのかもな。))


 俺にぶつかってきた物は、かなりのスピードで投げられたようで、俺にぶつかった反動で跳ね返ったことを少し離れたところに横たわってあるその様がものがたっている。犯人の正体はバッグだった。しかも、よく見ると俺のである。あの店に置き忘れ、今まさに俺が必要としていた、あのバッグだ。

 一応言っておくが、俺が呼ぶとバッグが飛んでくる、なんてそんな発明もしてなければ、そんな機能がついているはずがない。もしつくるなら、もっとちゃんと手に戻ってくるようにつくってほしい。こんなにご主人様に対して暴力的なものは、やめてほしい。もちろん、ド〇えもんの秘密道具も使っていない。いや、そもそもド〇えもん自体が実在していないのだから、秘密道具があるわけない。では、なぜバッグがここに飛んできたのか。普通に考えて、誰かが投げた以外に考え付かない。まわりを見渡してみても、俺に向かって容赦なくバッグをぶん投げたらしき人物は見当たらない。むしろ、俺を見てる奴は誰一人としていない。悲しいくらいに。


 なにはともあれ、バッグが戻ってきた。本当に良かった。

 

 ((いやいやいや、まて。全然よくない。背中は痛いし、倒れた時の痛みもあるし、誰がこんなことをしたのかわからない。というか、投げる必要ないだろ。普通に声をかけて渡してくれればよくないか。まさか、俺は声をかけづらい雰囲気なのか、それともなんだ、いったいなんなんだ、なぜだ、、、あぁぁぁぁもう!!!))


 腑に落ちないが、今はこの危機的状況にいた俺を救ってくれた、救世主に感謝しなければ。


((ありがとう。どこかのだれかさん。感謝します。痛かったけど…))


 バッグの中身を確認し、本当に俺のバッグであることを再確認した。中にいれてきたものもちゃんとすべてある。これで、予定通り取引先と会うことができる。俺は、バッグを二つ持ったことを確認し、目的地へ向かった。


 わかりにくい場所に会社があるため、はじめていく俺にとっては迷路だ。なかなか辿り着けない。とにかく道が入り組んでいて、曲がるところを違ったりすると現在地すらわからなくなるほどの。会社の周辺まで来てから、しばらく経つが一向に目的地のビルに辿り着けずにいる。これは、完全に迷子になったようだ。29歳男性が迷子です。ココハドコ、ワタシハダレ。まさに今の俺にぴったりだ。なんて、ふざけている場合ではない。約束の時間より少し早めに着く予定をしていたのに、このままでは、5分前どころか、約束の時間に間に合わない。ついさっき危機的状況をクリアしたというのに、まだ俺を苦しめるのか。

 こうなったら、先方の会社に電話をして、ビルまで道案内してもらうほかに方法がない。ここまで来ただけ褒めてほしいくらいだ。こんな道、ここに通勤してる人たちにしかわからないと思う。あとは、野良猫とか。


 俺は、電話をかけて、受付の人に事情を説明し、道案内をしてもらいながら目的地へ向かった。そして、ついに目的地に着いたのだ。


「あ、ここですね。無事着きました。ありがとうございました。では、失礼します。」


 案内してくれた受付の人に、電話越しでお礼を伝え、電話を切った。丁寧な対応でスムーズに辿り着くことができた。俺が方向音痴なのか、と時々自分を疑ったがそうではないようだ。俺みたいに電話で教えてもらう人は結構いるみたいで、受付の人も、慣れるまで苦労したようだ。「申し訳ありません」と、電話越しでもわかるほどに、本当に申し訳なさそうに謝っていた。いや、あなたは何も悪くないし、むしろ被害者側ではないか。と返答して、お互い苦笑いした。たどり着くまでに、そんな他愛もない会話をしたからなのか、緊張もほぐれ、気持ちに余裕ができた。

 ただ、電話で指示されるがままに来たため、とにかく、かなり複雑な道のりだったこと以外覚えていない。それより今は、これから始まる戦いに集中しなければ。帰りは何とかなるだろ。たぶん...(汗)


 「よっしゃ!(パチン)行きますか。」


 俺は、自分で自分の両頬をおもいきり叩いて、もう一度気合を入れ直した。

 

 ((ここまでの間に、色々とハプニングがあったけど、ここからは何も起きないでくれ…))


 そう、心の中で祈った。



 途中、休憩も入れながら無事に話し合いが終わった。まだ決まったわけではないから、安心はできないが、相手との交渉がうまくいきそうな、そんな手ごたえを感じた。

 もし、今回の仕事が決まれば、俺はこれまでよりも、もっともっと仕事人間になるな。(笑)と、自分で思う。だが、今回の仕事は、それくらい大変な仕事に関わるということでもあるわけなのだが、俺は楽しみで仕方がなかった。

 今回に続き、次回も会う約束を取り付けることができた。まだまだ信用は得られていないが、これからが勝負だ。いや、もう始まっている。


 ((やっと、スタートラインにたてた...かな。))


 取引相手の感じが良い印象だった。逆にそれが怖いが、俺は基本的にあまり気にしない。というか、相手が俺を信用するか、しないか、それだけなのだ。だから、俺のことを信用してもらう、いや、信用させる。それができなければ、今回の仕事は白紙に戻る。


 気分がいい俺は、この時、忍び寄る影にまったく気がついていなかった。


 俺はこのビルから路地に出るまで必死だった。この大迷路から、脱出できたのは、仕事終わりの会社員がちらほらでてきたので、その人たちに混ざって、やっと脱出することができた。


 ((この大迷路を攻略するためにも、今回の仕事は何としてでも...))


 俺は、何か視線を感じた。


 ((ん?気のせい...?))


 視線を感じたほうを見ても、周りを見ても、歩きスマホをしている人や、仕事終わりで疲れているサラリーマンがベンチで腰を掛けている姿、学校帰りの学生集団が、各々時間を過ごしている。


 ((疲れた...早く帰ろう。))


 

 俺は、違和感を感じながらも、家に帰った。

 

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