兄VS妹

ラウンド1

 妹は、相変わらず距離が近い。


「近い・・・」


『ん?』


「・・・近くない?」


『いつも通りだよ。』


 そう言って妹は、俺の腕に自分の腕を絡ませてくる。

 そうなると、自然と妹のが俺の腕に当たる。

 これは、無意識なのか、それともわざと当てているのか、妹に聞けるほど、俺はタフではない。


『ねぇ、おにぃちゃん、今日はリハビリ一緒に行けない。ごめんね。』


「え、あ、うん。わかった。大丈夫だよ。」


 妹は、俺にぎゅっとハグをすると、スッと立ち上がり、


『私、部屋にいるね。』


 そう言って、リビングから出て行った。


((一人で行くのは初めてだな。気が楽だ・・・ふぅー。))


 リハビリに通うのは、月に3~5回ほどまでに減った。だいぶ順調に回復しているようで、安心した。

リハビリが始まってから今まで、必ず妹が一緒に付き添っていた。

 順調に回復しているから、一人で大丈夫だと言っても、妹は全く聞く耳を持たなかった。

 そんな妹が、今日は一緒に来れないとなると、俺よりも優先すべき予定があるのだ。俺としては、とても嬉しい。


 スタッフの人が車で迎えに来てくれるまで、俺は、読書に没頭する。


 迎えの時間まで、後10分くらいになったとき、部屋にいた妹がリビングにきて、読書をしている俺に寄りかかってきた。特に何か用があるわけではなく、ただこうしていたいだけ、と言われたので、そのまま放置して俺は読書を再開した。

 だが、やはり、は当たっている。


 ((コイツ、これは明らかに、わざとやっているな・・・))


 玄関のチャイムが鳴る。

 

『こんにちはー。○×の者です。』


 モニターに映ったのは、リハビリ施設のスタッフさんが2人。

 

『はーい。』


 妹が玄関を開け、俺の荷物をスタッフさんに預ける。


『お預かりします。』


『すみません。今日は一緒に行けないです。兄をどうぞよろしくお願いします。』


 妹が、スタッフさんにお辞儀をする。


『こちらこそ、よろしくお願いいたします。帰りの時間はいつもと同じです。変更があればご連絡いたします。では、お兄さん、行きましょうか。』


 俺は、用意された車いすに乗る。

 俺が通うリハビリ施設の規則だった。歩くことができても、自宅から施設までは、安全に期して、そうしていると言っていた。


『おにぃちゃん、行ってらっしゃい。』


「行ってきます。」


 妹は、車いすに座っている俺に軽くハグをする。

 俺に対する妹の接し方をスタッフに見られるのは、もう慣れてしまった。

 初めは、苦笑いをしてその場に漂う気恥ずかしさを隠していたが、今はもう当たり前になった。

 

 スタッフの1人に車いすを押され、そのまま俺は車に乗車する。


『では、出発します。』


「お願いします。」


 妹は、手を振り、見送ってくれた。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る