エンドロール 4


 俺は、妹が出掛けている隙に、先輩へ電話をかける。


「もしもし、先輩・・・今、お時間大丈夫でしょうか?・・・」


『お前から電話来るの待ってたんだ。退院おめでとう!本当に良かった。近々、退院パーティーしような!』


 受話器から聞こえる先輩の声に、俺はほっとした。


『で、どうした?困ったことがあれば遠慮なく言えよ。』


 その言葉に、俺は危うく泣きそうになった。泣いてはいない。


「ご心配おかけしてすみません。ありがとうございます。その、折り入って相談したいことがありまして・・・」


『なんだ?』


「勿体ぶることでもないのではっきり言います。えっと、本当に俺に妹っていますか?」


『そのことか、まぁ、無理もないよな・・・』


「どうすればいいのかわからなくて・・・もし、先輩が俺の立場になったとき、妹さんの記憶がなくなっても、妹としてみれるのかな、とか・・・」


 先輩は、黙って俺の話を聞くと、一呼吸した後、言った。


『もし、お前が逆の立場だったらどうする?どんな気持ちだ?思い出して欲しいと思って、必死になるんじゃないか?何がきっかけになって思い出すかわからいならなおさら、あらゆる方法を試してみるんじゃないか?たとえ、その方法が間違っていても、相手を怒らせてしまっても・・・・』


「まぁ、そうかもしれませんね・・・でも、」


 俺の気持ちも考えてほしい。というか、もし、記憶を失ったのが妹だったら、そのまま俺のこととを思い出さずに、他人として生きてほしい、なんてこんなことを思ってしまうのは、最低なことだと一応自覚はしている。


 というのが本音だが、これを言ったところで何も解決はしないことも自分が一番わかっている。


 俺は、整理できないままの言葉たちが頭の中でぐちゃぐちゃになり、何も言えず黙る。


 電話での沈黙が得意ではない俺が、しばらく黙ったままだったため、先輩が口を開いた。


『妹さんは、空回りしちゃってるんじゃないか?もし、俺が妹さんの立場だったら耐えられない。妹が俺のこと何も覚えてないとか、「誰?」とか言われたら・・・うゎー、想像したくもない。もしそうなったら、俺は死んだも同然だな。』


「先輩・・・全然笑えないです。俺以外にそんなこと言わないほうがいいと思うので気をつけてください。特に、妹さんには。」


 先輩は、妹に対して異常な執着があるから、意見を聞いても妹を肯定することはわかっていた。

 その後、電話の内容は、仕事の復帰がいつになるとか、俺がいない間その穴を埋めるのが大変とか、仕事の話へ切り替わった。最後に、近々会う約束もした。


『じゃ、都合がいい日をメールで送っておく。』


「はい、わかりました。久々に先輩の声が聞けて少し気持ちが落ち着きました。では、失礼します。」


『お前でもそんな青臭いこと言えるんだな。じゃ、また。』


 電話が終了し、ツーツーツーと聞こえたのを確認して俺は思わず、やっぱり言うんじゃなかったと吐いた。


 それはともかく、俺は久々に仕事の話ができて少し気分が良くなった。

 リハビリのモチベーションには十分だ。


 一番の問題は、妹との関係だが、今まで通りに戻すのは無理かもしれない。


 ここで、俺はふと疑問に思った。


 ((そもそも、俺と妹の関係はどのくらいの距離感だったんだろう。))


 記憶がないことを理由に、妹の立場が有利である以上、あの女の言う関係性がウソの可能性も無きにしも非ずだ。


「まずは、あの女の情報収集をするところからだな。」


 そんなことを考えていると、噂をすればなんとやらだ。

 どこからか俺を呼ぶ声が聞こえる。

 

『おにぃーさまぁー!!』

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