ブラコンライフ ー番外編 起ー

<妹のHBD>


『はい、この椅子に座って。』


 俺は、妹に誘導され、ベッドから少し歩き椅子に座る。


『痛かったら言ってね?』


「え、ちょっとまって。痛いことするのはイヤ・・・」


『え?なに?今なんて言ったの?嫌って言ったの?』


「あっ、えっとー・・・ナンデモ、ナイ?(苦笑い)・・・イタッ」


『あー、ごめーん。』


 感情がない棒読みで、そう言いながら、妹はその場所をいきなり舐めてきた。

 まるで、犬が飼い主のご機嫌取りをするような行動に似ているイメージで。と、いいたいところだが、ではなく、この後の展開が変な方向に行ってしまいそうな、自主規制がかかりそうな感じで、妹の舌の感触が生々しく、俺の首に触れ、妹が吐息を漏らしながら、ぺろりと舐めた。


「ん!?ちょっ・・・なに、してるの・・・」


『えー?何してるのって、痛いって言ったから。』


「いや、言ったけど、それとこれに何の関係があるの?」


『んー?関係ないと、しちゃだめなんてルールあるの?』


「・・・くすぐったいから、やめて。」


 視覚を奪われているうえに、拘束もされたままの俺が、抵抗するには唯一使える口で、説得させるしかない。


『ふーん、感じてるんだ。かわいいよ、おにぃーちゃん。』


 妹は俺の反応を楽しんで、続ける。


「ちょ、と、まって、さすがに、これは・・・」


『なに?・・・おにぃーちゃん・・・』


「ワルフザケルもいい加減にしないと・・・って、おい・・・」


 抵抗できない俺に対して、相変わらず調子に乗る妹だったが、さすがにこれ以上は、と思っていない不服そうな態度で、声で「お・し・お・き、です」と俺の耳元で囁き、耳をペロッと舐めながら、機嫌を損ねた妹は、今度は俺の服を脱がせようとしていた。


((おいおいおい!!さすがにこれはまずいって!!何とか止めさせないと・・・))


「えっ。はっ?ちょっ、まて!なぁ!ダメだって!やめろやめろ!ストップ!ストップ!すと、すとぉぉぉぉぉぉぉぉっっっぷ!!!!!!!」


『あぁ、もう、うるさいなぁ。そんなに大声出さないでよ。鼓膜イタイ。それに、どうしてやめなくちゃいけないの?今日はなんでも言うこと聞いてくれるって約束したでしょ。』


「大声出して、ごめんな。うん、何でも聞くけど、誰かを悲しませたり、キスつけたり、苦しめたりすることはできないって約束もしただろ?だから、これは・・・」


『誰も巻き込んでないよ?だから、問題ないでしょ?』


 妹は、「おにぃーちゃん」とか、なんとか色々言いながら、好き勝手に俺で遊んでいる。上半身の服は奪われるし、首はくすぐったいし、正直、耳には気持ち悪い感触が残ったまま、さらに延長され、俺は思わず首を振る。


((何とかこの流れを止める方法を・・・))


「やめないと、大好きな妹のことを、俺が悲しませることになるし、キズつけることになるし、苦しめることになる。そんなこと、俺はしたくない。だから、これは、できない・・・そんなことしたら俺、もう、生きていけない・・・」


 ((自分でも何を言ってるのかわからない・・・けど、多分こいつには・・・))


『・・・わかった。やめる。』


 我ながら下手過ぎるちょっとオーバーな演技も混ぜて訴えてみたら、なんとあっさりやめた妹だったが、行き場の失った興奮した感情を抑えようと必死なのか、妹は勢い良く俺に抱きついてきたと思ったら、勢い余り過ぎてそのまま後ろに倒れた。


『おにぃーちゃん、だぁーいすき!』


((うん、キレイなタックルだ・・・いってぇー・・・軽い脳震盪(笑)))


「あっ、ねぇ、今日プレゼント用意してるんだけど?」


『本当?ありがとう!後で楽しみにしておくね!』


「あー!ダメ。だめ!今!今すぐ!」


『今すぐじゃなきゃダメなの?』


「うん。今がいいんだ。今、すぐ、渡したい。」


『わかった。』


 此処までに色々ハプニングがあったが、目的の拘束をほどいてもらい、その流れで”妹の部屋脱出作戦”を試みる。

 

 俺は、妹に拘束を解くように説得する。

 「プレゼントちゃんと渡せないと、俺、イヤだな。」とかなんとかテキトーに言ったら、あっさり解いてくれた。


 俺は、妹にリビングで待つよう伝え、自室に入る。

 もちろん、プレゼントが用意してあるのは本当のことだが、別に特別今すぐじゃないとダメっていうのは全くのウソだけど(笑)あの場から逃れるためのウソだが、まぁ、妹との関係を壊したくないし、賢明な判断をしたつもりだ。


「はぁ・・・間一髪、助かったぁ~・・・」


 緊張していた筋肉をほぐす。

 あまり遅いと怪しまれるので、プレゼントをもってリビングへ向かう。


「改めて、お誕生日おめでとう。」


 プレゼントを妹に渡す。


『ありがとう!開けてもいい?』


 俺は、微笑んで返事をした。


 妹がプレゼントに夢中になっている間、俺は冷蔵庫からエナジードリンクを取り出して気合を入れて飲む。


 ((今年は過去一、ハードそうな嫌な予感・・・くたばってられねぇ・・・))


 ソファにいる妹は、さっそくプレゼント開封の儀を行っている。

 キッチンから様子を見ると、「わぁー」とか「やったー」とか喜んでくれているようで、その反応を見て俺も少し嬉しい気持ちになった。

 俺の視線に気がついた妹が、手招きをして呼んだので、エナジードリンクを飲み干してから、妹のいるソファの隣へ座る。


 俺の膝の上に向かい合うように乗って座った妹は、ハグをしてから、


『おにぃーちゃん、プレゼント、ありがとう!』


 そう言って、またハグしてきた。


「どういたしまして。気に入ってくれるかな?」


 妹は俺にもたれかかったまま、うん、と返事をした。


「それならよかった。」


 妹へのプレゼントを考えるのは、俺にとって、さほど難しいことではない。

 なぜなら、妹が欲しいものリストを俺に容赦なく突き付けてくるからだ。

 中にはとんでもない物もあったりなかったりするが、それは妹が楽しんでやっているだけらしい。そのことを知った時、俺は心の底から安心した。

 欲しいものリストを全部プレゼントしてあげたい気持ちはあるが、さすがにそれは無理なので、その中から俺が予算内で買えるものをピックアップし、最終的に決めたモノをプレゼントしている。

 だから、妹が楽しみにしているのは、もちろん欲しいものが手に入ることが一番だが、俺が何を思って、そのプレゼントを選び、買ったのか、ということを想像することも楽しいらしい。


 やけにおとなしい、と思ったら、妹から寝息が聞こえる。


 ベッドに運んで、もし万が一起きてしまったら、また妹の部屋に監禁されかねないし、また、拘束されるかもしれない、妹を寝かせておきたい俺は、このままにしておくのがベストだと思いつつも、それはつまり、俺も動けない。


 幸い、スマホを持っていたので、ネットニュースを見て暇をつぶすことにした。

 通り魔事件で負傷者数名、容疑者の身柄を確保した記事や、詐欺について、芸能人の結婚やら離婚やら、○○と▽▽が深夜にホテルで密会か、などの記事がある一方で、新しいアイドルがデビューする記事、俳優□□、第一子が生まれパパになった記事、ロックバンド××、初のバラエティー番組に参戦。国外の記事もあり、内戦や餓死で苦しむ人々のことや、条約について話し合う会議が行われたことについてなどなど様々な記事でスマホの画面を埋め尽くしている。

 仕事に直結しないが、話題を振られたときに知らないと、と思いざっと目を通すようになった。

 内容は、ほとんど無知に等しいレベルだ。もし、なにか相手からアクションを起こされたら、いつものテンプレで誤魔化している。もちろん、知っている内容であればその場に応じた対処をしている。その場を何とか切り抜けられているのは、相手は話題を振っておきながらも、知っているようで知らない場合が多いということだ。


 突然、電話が着信画面に切り替わった。

 相手は、あのシスコン先輩だ。


「はい。」


『あ、もしもし。俺だけど、今大丈夫か?』


 妹は、今もまだスヤスヤと寝ている。だが、声で起きたら困るので、少し声のボリュームを小さめに応答する。


「はい。大丈夫です。どうしました?」


『休日に悪いな。急で悪いが、お前に頼みたいことがあるんだ。』


「週明けの仕事ですか?」


 電話の向こうで、誰かに呼ばれているシスコン先輩が、変な間の後に言った。


『仕事だが、俺のプライベートで頼みたい仕事だ。えっと、その・・・』


((プライベート?なにか、イヤな予感がする・・・))


『俺の妹のことで、ちょっと・・・』


 予想的中。

 今日は、今、俺に抱きついて眠っている妹の誕生日の最中だ。そんなことが妹にバレたら、この先、俺は妹に何をされるかわからない。かわいがってもらっている先輩からプライベートでの仕事を頼まれている。正直、ここまで信頼されているのかと思うと嬉しいのだが、妹のことだというとなると、話が違ってくる。

 わかっている。この頼みは、今受けるべきではないこと。今この状況にいる俺には危険すぎることだと、わかっているが・・・・俺は、信じている。先輩がこの先も、俺の良き先輩であり、良き友人として、俺が困ったときには助けてくれる。そうだ、今までだってそうしてくれた先輩だ。この人は、そういう人間だ。

 俺は、覚悟を決めた。


「先輩?まずは、落ち着いてください。何があったんですか?」


 まず、話を聞かないことには、わからない。もしかしたら、何か少しでもできることがあるかもしれない。先輩は、電話越しの声でわかるほどに、何か焦っているような、怯えているような、悲しんでいるような、そんな姿が思い浮かぶ。先輩から話を聞くため、先輩を落ち着かせる。


 膝の上で眠る妹が、起きてしま前に電話を終了しなければ、俺の人生が終了する。


 どんな大変なことが起こってしまったのか、話を聞き終えるまで心配していた。

 先輩の話を聞き終え、思った。心の底から思ってしまった。


((どぉぉぉぉぉぉぉでもえぇわ!!!!!俺の心配した気持ちを返せ!!!!このシスコン変態野郎!!!!))


 電話が終了した少し後に、妹が起きた。

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