第二章
始まりは、エンドロール
3年前のある日・・・
この日も、いつも通り妹に見送られながら、会社に出勤した。
定時で帰る予定が、急なトラブルで残業することになった。
俺は、妹に連絡を入れる。
俺>残業することになった。
ご飯一人になっちゃうけど、ちゃんと食べろよ。
妹>残業するなんて珍しいね。
わかった。
俺>何時に帰れるかわからないから、戸締り忘れるなよ。
妹>自宅警備員なら任せなさい!
お仕事頑張って。
俺>ありがとう。
妹>お仕事終わったら連絡してね。
fight!!
俺は、先輩のもとへ向かう。
戸惑う社員たちにリーダーが声をかけている。その言葉にチームのみんなが落ち着きを取り戻すように空気が変わっていく。
『取引先のミスだろうが、俺たちはやることやるだけだ。愚痴なら仕事が終ってからいくらでも吐け。今は目の前の仕事終わらせるぞ。』
『はい!』
「先輩、クライアントとの連絡が取れたんですが・・・って、ちょっ」
先輩は、俺の話を聞かずに電話を奪い取り、相手と話し始めた。
『ですから、契約違反をしているのはお宅の会社でしょう!こちらからは、何度も確認もして、お互いに了承済み・・・』
この仕事は、会社としても大きなチャンスで、成功すれば大黒字間違いなしってくらいのはずだった。この案件についての噂は、社内にあっという間に広まり、みんな喜んでいた。だが、突然クライアントがこの仕事を白紙に戻すと言ってきたのだ。すでに、企画は順調に進み、会社の合同打ち上げが3日後に迫っていた。
『わからないってどういうことですか!・・・それでは、困りますよ!』
クライアントとの打ち合わせもしっかりやって、お互い良い条件で仕事ができている、そうお互いの会社で思っていたはずなのに、どうして急にこんな事態が起きてしまったのか、事態が起きてしまった以上考えても仕方ないのだが、何かが変だという違和感を感じた。
何もかも、うまくいきすぎていたのかもしれない。
なにか、裏で動いているのかもしれない。
社員達には何も知られないよう、社長同士でなにかを・・・
((もし、誰かにはめられているとしたら・・・))
「先輩、このままだと会社だけの問題じゃなくて、待っているお客様にも迷惑かかりますよね?」
『あったりまえだ!』
「なんかおかしくないですか?」
『は?なにが?』
「この案件が始まることになってから、色々、変というか・・・」
『・・・』
「それに、急に昔からお付き合いがある取引先とは仕事ができなくなったり、他にも色々、思い返すと時期的に同じなんですよ。」
『・・・まさか。でも、まぁ、今はそれを追求するより、この状況をなんとかしねぇとマジで会社が潰れかねない・・・クッソ!あの狸オヤジ・・・』
「すいません、そうですよね。会社が潰れたら困ります。今は、できることを片っ端からやってみます!」
『おう、頼りにしてるぞ、相棒!』
いつの間にか、次の日になっていた。
企画担当チームじゃない社員の協力のおかげもあり、なんとか相手の社長と、うちの社長を突き止め、この大騒動にピリオド。
一旦、家へ帰ることができたのは騒動が起きてから60時間後の昼だった。
妹と連絡を取る暇もなく時間が経っていた。
俺は妹に連絡をする。
俺>一旦帰れることになったから、今から帰る。
妹>お疲れ様。
疲れてると思うけど、帰り道、気を付けてね。
無事、家に帰宅。
「ただいま・・・」
『おかえり。』
「ちょっと休んだら、また出かける。」
『そっか、わかった。お風呂入る?ご飯食べる?』
「先にお風呂入るよ。」
『新しい着替えは、いつものところに置いてあるよ。』
「ありがとう。」
何から何まで妹にやらせてる俺って、どうなんだろうか。と思うが、今は妹に感謝して、会社へ行く準備をしよう。
シャワーを済ませた後、自室から必要なものをカバンに詰めて、リビングへ行く。
「ごめん、食べてる時間ない・・・」
『もう行くの?』
「みんな会社のために頑張ってるのに、のんびりできないよ。」
『でもさ、”腹が減っては戦ができぬ”じゃん?』
「まぁ、そうだね・・・(笑)」
『一応持って行って。後で食べる時間あったら食べて。』
「サンキュー。」
『じゃぁ、気を付けて、行ってらっしゃいませ。』
「また連絡する。行ってきます。」
いつものように、妹に行ってきますのハグとキスをして、いざ、出発。
会社に到着すると、みんなそれぞれの仕事をしている。
「戻りました。先輩、、、?」
『お疲れ様。とりあえず、会社は潰れないが、これから大変だな・・・』
「ですね・・・」
((先輩の目が赤くなっていたのは、俺の気のせいか?))
この騒動の後、社長は解任され、次の社長やその他役員が正式に決まるまで、会社は通常の仕事はほとんどなく、書類整理や掃除、これまでの取引先への謝罪と今後の契約についての説明会をしたり、やることは山積みだ。
先輩や他の社員達が取引先と人間関係をしっかり築いていたおかげもあり、取引先が全滅することはなかったことが救いだった。
騒動から数日後、ひとまずは、窮地を抜け出せた。今日は、全社員に定時より1時間前には必ず退社するよう会社からの指示がでた。そして、明日は全員に特休が与えられた。今日は木曜日、つまり3連休だ。嬉しいはずなのだが、あんな騒動が起きてしまったからか、今後のことが心配になってしまう。
そして、俺にはもう一つ別の問題対応にも頭を悩ませられている。妹のことだ。
((あ、そうだ。妹が食べたいって言ってたアレを買って帰ろう。妹のご機嫌取らなきゃ、俺は休めない。))
『お疲れ様。ゆっくり休めよ。じゃぁお先。』
「先輩、お疲れさまでした。はい。」
あの時、先輩の目が赤く腫れっぽくみえたのは、やはり気のせいではなかった。会社が潰れるかどうかの危ない状況にもかかわらず、先輩は、「愛する妹と連絡すら取れない状況にしてしまった自分の無力さからの悔し泣き」だったそうだ。
この人のシスコンぶりに呆れたのを俺は忘れない。
会社を出て、家に帰る前に、一件寄り道。
「よし、これで俺の連休は守られた。・・・はず。」
休日を有意義にするための予定と、妹対策を考えていた俺に、人生の”まさか”が襲った。
一瞬の出来事だった。
意識が朦朧とする中で、赤いヒカリがぼやけて見え、耳鳴りでほとんど聞こえないが遠くで響くサイレンの音。
俺の体は、自分の意志では動かないようだ。痛みが全身を包む。俺は今どんな姿でいるのだろうか。きっと醜いのだろう。たくさんの血が体から流れているのだろう。眼は潤んでいるのに涙が頬を伝う感覚もわからない。
俺は、交通事故に巻き込まれた。
せっかく、妹にお土産を買ったのに、これでは休日が台無しだ。
そんな俺の眼に映った一人の男。先輩だ。
((こんなところで何しているんですか。早く妹に会いたいって言ってたじゃないですか。俺は大丈夫ですよ。早く家に帰ってあげてください。妹さんに飛び蹴りされてる先輩の姿が目に浮かびますけど(笑)・・・))
先輩が俺に何か言っている映像で、それを最後に、俺は眠った。
END・・・?
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