第二章

ブラコンライフ


 今日は休日。やっと休日。待ちに待った休日。

 今日は体のケアをしたい。癒されたい。ゆっくりのんびり過ごしたい。

 今日はまだもう少し寝ていたい。それで、起きたら昨日帰りにレンタルショップで借りてきた映画を観て、読みかけの本を読んで、作り置き用のご飯を作って、もう一本映画鑑賞しながらティータイム、それから・・・そんな切実な俺の思いを容赦なく邪魔をする人物が現れることを、寝ぼけている俺は完全に忘れていた。

 

 布団の中でごろごろ、ぐだぐだできる、この小さな至福の時を過ごしたくて、もう少しだけこのまま…と思っていたのに、それを妨害するかのようにその敵は現れた。体の上に何か違和感を感じ、完全に目が覚めた。目を開けると、俺の上には女が乗っていた。妹だ。

 

 せっかくの休日だというのに、今日くらい勘弁してほしい。

 

 俺がそのまま無視していると、無反応な俺に対し、妹が先にアクションを起こし始める。

 妹は、俺の両頬を引っ張りながら、

 

 「おーい、朝だよー。おにぃーちゃん。」


 「んー・・・」


 痛くはないが、寝起きからこれはやめて欲しい。と、心の中でつぶやく。


 「ねぇ、起きてー」


 「今日、休日・・・」


 「うん、知ってるよ。でも、今日は妹とデートする日だよ?」


 「・・・?」


 ((今なんて言った?デートだと!?))


 「まさか、忘れてた。なんてことないよね?あるわけないよね?ねぇ?おにぃーちゃん?」


 俺は、すっかり忘れていた。

 今日、この休日を俺は楽しみにしていた。もちろん、妹とデートをすることに対しての喜びではない。

 そういえば、2、3週間ほど前、妹に予定を聞かれたことを思い出す。

 その時の俺は、仕事のことしか頭になく、妹とどんな内容の会話をしたのか記憶がない。おそらく、今日が休日であること、そして、デートをすると約束をしたのだろう。テキトーに生返事をしたあの日の俺に、俺は言ってやる。「俺の有意義に過ごすはずだった休日のプランは考えるまでもなく終わってたよ!お前のせいでな!」


 さて、どうする俺。


 俺は焦っている。忘れていることが妹にバレたら…なんて、想像もしたくない。


 ((ヤバいぞ、何とかこの場を切り抜けなければ…))


 そう思った俺は、寝起きの脳みそを最大限に働かせ、妹の機嫌を損ねない言葉を探す。

 俺の返事次第で、今後、俺の人生が生きるか死ぬか決まる。

 そんな俺の目の前に立ちはだかる妹は、この状況を楽しんでいる様子で、俺の上に乗ったまま、顔をじっと見つめている。

 俺は、内心かなり動揺をしながらも平然を装い、寝起きの俺が今できる最大の満面の笑みを作り、妹の頭をなでながら、考える。


 「な、何言ってんだよ。もちろん覚えている。わ、忘れるわけないだろう?お前との約束を・・・(汗)」


 すると妹は、顔を赤らめた。

 

 「そうだよね!忘れてるわけないよね!約束を忘れるなんて、そんなサイテーなこと、おにぃーちゃんがするわけないもんね!」


 「お、おう・・・(汗)」


 よし、ひとまず安心。だが、油断はできない。


 妹を本当に誤魔化せたかどうかはわからないが、なんとかこの場をやり過ごした俺は、妹の機嫌が損ねてしまわないよう、すぐに準備するから待つように伝え、ひとまずこの試練を乗り越えた。


 妹は、鼻歌を歌いながら嬉しそうに部屋から出て行った。

 

 「はぁ…まじかよ…俺の休日が…」


 俺は、しぶしぶ出かける準備を始めた。

 顔を洗い、歯磨きをして、水を飲む。毎日の習慣で、一連の動作はそこまで体力を消耗しないが、今日は違った。仕事の疲れが溜まっているせいか、朝から妹に起こされたせいか、もうすでに、出かける気力も体力も俺にはないようだ。だが、そんなことは言っていられない。朝のコミュニケーションは、まだ、試練の始まりにもすぎないのだ。本番は、これからである。


 妹が、今日のデートで俺に着てほしいと用意した服に着替え、髪の毛もテキトーにセットをして、準備が終わった。…のだが、妹が俺を見て、何かが気に入らなかったらしい。何かぶつぶつ言いながら、服も髪も妹が直した。


 「よし!これで完璧!じゃぁ、そこ立って。」


 「え、あ、はい。」


 カシャッ…カシャッ…


 お決まりの恒例イベント。写真撮影。もう儀式に近い。

 特にポーズをとったりするわけではなく、妹が勝手に俺の周りを一周しながら撮るだけなので、俺はただ黙って大人しくその場に立っていればいいだけなのだが、恥ずかしい気持ちが無くなるわけではない。慣れる日が来るのだろうか。と思いながら終わるのを待つ。


 妹は、必ず出かける前に写真を撮る。

 俺は、写真が嫌いだ。

 過去に拒否したことが一度だけある。だが、その時、妹が豹変した。その時のトラウマがあり、それ以来、撮ることを拒否せず、今日も大人しく撮られ続けている。

 理由が気になって、SNSに投稿しているのかとか、誰かに見せたりするためなのかとか、色々聞いたことがあるが「は?ありえない。そんなことするわけない!」と、本気で怒られた。だから、何の目的があって撮っているのか謎だった。

 不特定多数の人間の目に晒されていないようだし、特に問題も起きたこともないので、あまり気にしないことにしていた。


 だが、ある日のことだった。

 俺は妹に用があったので、妹の部屋に行った時、事件が起きた。

 部屋に勝手に入ることは禁止されていて、用があるときはノックしてと言われていたので、その日も、いつものようにノックをして妹を呼ぶ。だが、全く反応がない。不在の時はドアの前に【立入禁止】と記されているボードが必ずかけられている。だが、それもない。もしかしたら、中で倒れているのかもしれない。万が一最悪な事態が起こっていたら…そう思い、俺は覚悟を決め、ドアを開けた。

 すると、俺の目には驚くべき光景が広がっていた。

 部屋一面、天井も床も、俺のいろんな姿が映っている写真で埋め尽くされていた。そして、妹はいた。ベッドの上に裸で…

 

 もうこれ以上は、妹の名誉のためにも黙っておくことにする。


 この時、妹は気を失っていたみたいで、俺の存在には気がついていなかったために、俺は今こうして生きていることができているのだが、俺が死ぬのも時間の問題なのだ。

 その事件が起きた数日後に、妹がすれ違いざま、


 「バレてないとか思ってんの?」


 と、耳打ちされた時、俺は生きた心地がしなかった。

 その後、俺は妹から1か月くらい罰ゲームを受けました。まぁ、色々とありまして、それはもう、親にも誰にも話したくない、いや、話せないようなことまで、それはそれは大変でした。


 と、まぁ、そんなこんな色々とありまして、これが、妹の異常なブラコンを知ってしまったきっかけのひとつであります。これ以外にも、妹の異常なブラコンには驚くばかりです。


 俺の妹は、異常なブラコンという部分だけ目をつぶっていれば、誰もがうらやむ妹だと、兄である俺が保証する。


 いつの間にか、写真撮影が終わっていた。

 妹は玄関の扉を開けて、先に外に出ていたみたいで、俺が来なかったために、俺のもとへとやってきて、


 「おにぃーちゃん、なにぼーっとしてるのー!はやくいくよ!」


 そう言いながら、俺の腕に自分の腕を絡ませた。


 「お、おう。」


 ((この異常なブラコンだけなかったら、最高なんだけどな…))



 もうお分かりかとは思いますが、俺の妹は異常なブラコンなのだ。その件についてちょっときいてくれ。


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