ブラコンライフ04

<とある休日と妹>


 休日も、妹とのスキンシップは相変わらず。


 最近、体の調子が悪い。今日はメンテナンスがしたい。

 整体に行かずとも俺は家で整体ができる。俺の妹の出番。

 一応、妹は、勉強してその知識がある。プロなのだ。

 ありがたいけど、複雑な気持ち。でもまぁ、実際、本当に気持ちいし、実質タダだし、(金はかからないが他の何かを報酬として妹に要求される)頼ってしまう俺の気持ちをわかってほしい。


 頼めば、いつでも、どんなときでも、妹は喜んでやってくれる。一応、感謝している。

 報酬は考えてあるが、妹が認めてくれるかは、その時にならないとわからない。


 いつも通り、妹の施術が始まる。

 大体、1~2時間くらい。

 妹は、こういう時はふざけない。本気でやってくれる。

 本当にありがたい。


 気持ちよくて、思わず声がでてしまう。


「・・・うっぅ・・・」


『ここかな~?』


「はぁー・・・そこ・・・」


『最近、全然やる時間なかったもんね。』


「そーぉ、だ、ね・・・はぅっ・・・」


『腕がなまってないか心配なんだけど。どぅ?気持ちいい?』


「・・・きもち、いい、よ?」


『ほんとにー?もっと、うまくできてた気がする・・・おりゃー。』


 この上ない気持ち良さと疲労というダブルパンチで、俺は妹が一生懸命、施術をしてくれている内に、いつの間にか寝てしまう。


 気がつくと、マッサージは終わっていた。


『あ、おはよう。やっと起きた(笑)』


 俺は寝起きの声で「おはよう」と返事をする。


『おにぃーちゃん、すぐ寝ちゃったから、やりたい放題やらせてもらいました!』


「あー、いつも寝ちゃってごめんな。でも、気持ちいいから、つい寝ちゃうんだよ。」


『気持ちよくなってくれたなら、よかった。じゃぁ、久しぶりのアレを期待します!』


 そう言う妹は、目をキラキラと輝かせながら、俺に抱きつく。


「え、あ、うん。わかってるよ。」


 妹の言う”アレ”とは、例の報酬のことだ。


 俺にとっては、難易度マックス★5。

 妹にとっては、SSレアくらい、らしい。

 

 ハイリスクな報酬にくらべ、リターンはマッサージということになる。

 釣り合ってないと思っているが、そんなことが妹に通用していたらとっくにこんなハイリスクな報酬ではなく、もっと、難易度低い報酬にしている。


 特に、今日は、フルコースで施術を行ったため、何か言い返すことなど不可能に限りなく近い、というよりも、マイナス寄りのゼロ%の確率であることを察している。


「よし、じゃぁ・・・始めるか。」


『うんっ!お願いしまーす!』


 俺は、”無の境地”に入るべく、深く、深く深呼吸をし、集中する。

 難易度マックス★5の報酬は、”妹にマッサージすること”である。

 もし、俺が、ガッチガッチのシスコン変態野郎だったら・・・と、何度思ったことか。


 俺は妹に対して、色々と免疫がなさすぎることで、様々な問題が起こるたびに、”無の境地”に入る。これを習得するのに時間はかからなかったが、長時間維持することがなかなか難しい。

 今回も、耐久戦になりそうだ。


 はじめは、何も考えないところから始まる。

 自分の呼吸に集中したりすると比較的早く入れる。


『ふっ・・・ひゃ・・・』


((吸って・・・吐いて―・・・))


 妹の声や、触れている感覚を徐々に無くしていく。


 完全に”無の境地”に入れたら、勝ったも同然だ。

 

((今日の夕飯何にしようかな・・・))


『おにぃ、ぃ、ちゃん・・・ちょっ・・・はぁ・・・』


((あ、明日スーパー寄って帰ろ・・・))


『んー・・・ふぅ・・・あぅ、そこ・・・いぃ・・・』


((レンタルDVD見なくちゃ・・・))


『イタイー・・・けど、きもちいぃ・・・』


((来週は、あの仕事がひと段落する予定だったな・・・))


『おにぃーちゃ、んぅー・・・?』


((午後は・・・作り置き用も準備しておくか・・・))


『おにぃーちゃん・・・』


((・・・何食べたいかリクエスト・・・))


『おにぃーちゃん!!』 


 俺の体に痛みが走った。

 一瞬にして、現実世界に引き戻された。


「・・・ん?・・・あっ、ごめん!痛かった?」


 いや、違う。

 俺が妹の上にいたはずが、妹が俺の上にいて、俺は妹に乗られた状態になっている。どうやら、妹に押し倒されたようだ。

 俺は、妹に問う。


「えっと・・・どうした?」


『おにぃーちゃんが、いやらしく誘ってくるから・・・』


((ちょ、ちょっと、待ってくれないか、妹よ。なぜこうなったのか理解できてないぞ。おい、妹よ、落ち着け。))


「マッサージ・・・してた・・・だけだよね?」


『・・・おにぃーちゃんから誘っといて・・・それはあんまりじゃない?』


((あー、これは、めんどくさいぞ。でもまぁ、対処できなくはないレベルだな。))


「俺は、報酬として真面目にやったつもりなんだけど?」


『でも・・・』


「でも、じゃない。まぁ、気持ちよくなってくれたなら、俺も少しはうまくなってきたってことかな?」


『それは・・・まぁ、前に比べたら・・・手つきがエロくなった。』


「なんだよそれ・・・」


((やっべぇ・・・もっとテキトーに下手くそにやれよ俺!))


『褒めてあげてるのにー!』


「はいはい。ありがとうございます。先生(笑)」


 俺は、このままこっちのペースに持っていけば、この状況を終わりにできると思い、妹の頭をポンポンと2回優しく撫で、その流れで立ち上がり、キッチンへ向かおうとした、その時、妹に腕を掴まれた。


『途中なのに、どこ行くのー?』


 この場を何とか終わりにしたい俺は、いつもの方法で逃げる。


「トイレ行きたい・・・」


『それなら、仕方ない。』


 ((よしっ!))


 心の中でガッツポーズをして、その場を後にする。

 もちろん、キッチンではなく、トイレへ。



 その後、妹とご飯を作って、食べて、DVDを観たりしながら、一緒に過ごす。

 もちろん、自室に行けば一人になれる。妹が自室に居るときも、それぞれの時間を過ごす。その時間もお互いに大切にしている。


 妹が異常なブラコンであるが、唯一、俺が妹のブラコン愛を逃れることができる、大事な時間である。


 1日に1回は必ずある、この大事な時間があるからこそ、俺はこの異常なほどに狂ってしまったブラコンを拗らせた妹と、一つ屋根の下で生活ができている。


 俺は自分でも、いや、自分が一番驚いているが、時々、自分を疑ってしまう事がある。それは、自分が”隠れシスコン”なのではないかという問題である。

 考えただけでも身震いしてしまう。


 ふと、こんな考えが頭をよぎってしまうなんて、きっと、俺は妹のブラコン愛を受け過ぎて、自分でも気がつかないうちに妹に脳を侵略され始めているのだろう。



 明日も休みで嬉しいはずが、俺は会社の先輩に会いたいなんて思ってしまうほど気持ちに余裕がないまま、今日一日を終えた。


 各自、就寝準備を終え自室へ行き、就寝した。



 寝返りを打った瞬間、何かにあたった。妹だ。


 『ほ・う・しゅ・う』と、妹が耳元で囁いた。

 

 もう、俺は妹の異常なブラコンが、異常なのかさえもわからなくなるくらい、重症なのかもしれない。


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