04


 疲れ切った俺は、真っ直ぐに家に帰り、とりあえず水を飲んだ。


 「(ゴク、ゴク、ゴク)はぁー...。そういや、食べるもの、何かあったかな。」


 冷蔵庫を開けたら、そこには何もなかった。買い物をさぼったからだ。

 今日まで忙しく、引きこもり状態だった。この仕事ができるかできないかが決まる前の段階ではあるが、まず興味を持ってもらわないと始まらない。それを左右する重要な資料などの準備で必死だった。

 

 ((そういえば、まともに食事をしていなかったな。よくあんな生活で、俺、今、生きてるな。))


 食べ物のことを考えたからなのか、とてもお腹がすいている。さっきからお腹が鳴りっぱなしだ。「ぐぅー(はやく)、ぎゅるる(なにか)、ぐぎゅぅー(たべて)、ぎゅるるるるぅぅぅぅ(も、う、ダメ...)」と、俺に訴えかけている。


 「まじか。なんもない。はぁー...。仕方ない、行くか。」


 俺は、スーツから私服に着替え、部屋のカギと財布を持ってスーパーへ向かった。


 もう夕日が沈み始めていたが、それでもまぶしい。

 

 この時間は、部活帰りの中高生や帰宅するサラリーマン、パートが終わりこれから夕食を作るために少し急いで帰る主婦、これから友達と遊びにでかける予定なのか、オシャレな格好をしている大学生が多い。その傍ら、野良猫が活発に行動をしていたり、猫を寝子というだけあって寝ている猫もいる。犬と散歩をしている人もちらほら。

 普段はあまり気にしないのだが、今日はなぜかいろんな景色が目に入ってくる。当たり前の風景がそこにある。当たり前になってしまっている風景が、今の俺にはとても微笑ましく感じる。

 

 ((俺は、無意識に癒しを求めているのか。))


 そんなことを思いながら、スーパーまで重い体を運んだ。


 スーパーは、いつもより人が多いようだ。


 ((この時間は仕方ない。なるべく早く済ませよう...。))


 一人暮らしの独身で、俺くらいの年齢であれば、だいたいの人がビールやお酒、それのお供にするおつまみを買いに、その商品棚に行く。だが、俺はそのエリアにはいかない。

 何を隠そう、俺はアルコールを受け付けない体質なのだ。注射をする前のアルコールで消毒をしただけで真っ赤になるほどの重症なのだ。一人暮らしを始めたころから、しばらく注射にはご無沙汰している。注射が怖いのではない!ただ、痛いのが嫌なだけだ!痛いのは誰だって嫌じゃん?

 アルコールがダメな俺が、お世話になっている飲み物は、インスタントのココアとお茶だ。ついでに言うと、炭酸も得意ではない。基本、家では水とココア、お茶しか飲まない。お茶は、茶葉がパックされていて水につけておくとお茶ができる便利なものがあるので、それを作って飲む。スポーツ飲料水は、外出した時に飲む程度だ。

 あと買うものは、8枚に切られている食パン、ヨーグルト、カップ麺をいくつか、あと、チョコレートを数種類買った。もちろん、チョコレートにもアルコールが入っていないものを選ぶ。最近、チョコレートにもアルコール度数は低いものの入っている商品があるため、気を付けないといけない。

 最後に、晩御飯を探す。商品が並ぶところに、ぽつんと取り残されていた、”値引きのシールを貼られた冷やしたぬきうどん”に決めた。

 セルフレジでお会計を済ませ、買い物を終了した。


 まぶしかった夕日は沈み、外はうす暗くなり始めていた。


 帰るまでの間、また、誰かに見られているような、後をつけられているような、そんな違和感を感じた俺は、少し早歩きで家に向かった。

 

 家の近くまで来て、後ろを確認したが、誰もいなかった。


 ((やっぱり、気のせいか...。))


 ポストを確認し、チラシやらを片付けて部屋に戻った。


 「あぁー、つっかれたぁ~。はぁ...。」


 とりあえず、買ってきたものを片付け、まず食事をすることにした。


 久しぶりの、まともな食事だからなのか、ただお腹がすいているからなのかについては、この際もうどっちでもいい。”値引きされた冷やしたぬきうどん”がとてもおいしく感じた。

 自炊はほとんどしないが、仕事に詰まったときや、気分転換に料理をする。カレーやシチュー、パスタとか、簡単でかつ日持ちがするものを作ったり、野菜炒め、みそ汁とか、チャーハン、オムライスとか、その程度だ。これだけできたら結構上出来だと思うのだが。まぁ、誰かに食べてもらったことは一度もない。だから、味の保証はできない。俺が食べれればいいので、味はその時その時で変わる。


 食事を終え、すぐにお風呂に入りたかったが、食べた後にすぐ入ると気持ち悪くなってしまうため、お風呂に入るまでに少し時間がある。


 なにもしないでいると、このまま寝てしまいそうだから、今読んでいる途中の本を読むことにした。でも、くつろぎながら本を読んでいて、だんだん眠くなってしまうと困るので、部屋の中をぐるぐる歩きながら読むことにした。


 気がつけば1時間が経っていた。ちょうど、本も読み終えた。


 ((なかなか面白い本だったな。))


 風呂から上がり、洗濯機を回し、ひと段落した。


 「明日が休みでよかった。まじで。」


 今日は色々あったし、なんだかいつもより疲労を感じるぞ。年か。いやいやいや、まだそんな年ではない...よな?俺はまだ三十路ではない!!三十路は関係ないか。


 眠気が限界で、何度も意識が飛びそうになっていた俺を、洗濯機が呼んだ。


 「お前もお疲れ様。おやすみ。」


 洗濯機にそう伝えて、寝る前に最後の力を振り絞って、洗濯物を干した。



 力尽きた俺は、眠りについた。


 この日の睡眠は、最悪だった。


 何度も魘されて、起きた。

 


 ”お前が平凡に過ごせる日は、今日が最後だ。そして、これから...”


 というメッセージだったのかもしれない。



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