インターバル ーinシスコン先輩家ー

 時刻はPM2時を回ったところだ。

 妹さんに、デリバリーを受け取る係を任命された先輩は、もはやゲームに参加してると言えるのだろうかというほど、インターホンで呼ばれるたびに抜けている。

 俺はというと、先輩の妹にお𠮟りを受けています。


「・・・申し訳ない。」


『いえ、初心者の方にお願いしている私の責任なので、気にしないで続けて下さい。』


「は、はぁ、はい。」


 もうちょっと上手くできないか、試行錯誤しながら、妹さんに教えてもらいながら操作するが、なかなか難しい。悔しいのと、誘ってくれた妹さんに申し訳ない気持ちで、少し焦っている。


 ((落ち着け俺・・・にしても、ゲーマーってすごいな、圧が・・・すごい))


 いつの間にか、目の前にあるテーブルの上はデリバリーで頼みまくった食べ物と飲み物で埋め尽くされていた。妹さんと俺がゲームに夢中になっている間にセッティングしたのは、もちろん先輩だ。


『あっ、そこじゃないー!とりあえず逃げてー』


「はい!逃げます!」


『俺のカワイイ後輩にその口の利き方は良くないなー、はい、謝って?』


『・・・兄貴はそのカワイイ後輩以下だよ?初心者じゃないのに下手くそなんだから、黙ってやってくれるかな?』


「俺は、別に気にしてないんで・・・」


 俺の言葉を遮って、先輩が割って入った。


『カッチーン・・・はい、ストップ。お兄ちゃんは今の発言に異議ありです!』


((”カッチーン”って、マジか、先輩。時々喋っててちょっとオジサン感入るのはオジサンってことなのかな・・・))


『はぁ?オジサンって呼ばれたくないなら、黙ってやれ?』


((妹さんから見て”オジサン”ってことは、やっぱり”オジサン”なのかー?))


『・・・今言う?ズルくないか?なぁ?』


((この兄妹の会話がこんなに面白いなんて、もっと早く知りたかったー))


 先輩に援護を求められたが、俺はこの会話のやり取りがツボになりつつあったため、先輩には申し訳ない気持ちをほんの少し添えて言った。


「・・・え?俺に振らないでくださーい。」


『あぁ、ヒドイ、俺を見放すのかー、なぁ、なぁ・・・』


『うぇー、兄貴っていつもこんな感じなんですか?』


「えっ・・・あー、いや?そんなことないよー?」


((言えねぇー。はい、そうです、ナイーブですよねー、感傷的になるとですねー、なんて言えるわけねぇー、言いたいけど、これはさすがに言えねぇー!))


 俺は、笑ってその場をごまかす。

 妹さんは、俺の方は見ず、ゲーム画面に目を向けたまま真顔で言った。


『そーですかー、色々ご迷惑をお掛けしてます。こんな兄貴の事なんかいつでもほったらかしてくださいねー、あぁーホントに気持ち悪い・・・』


 妹さんが最後に言った一言「キモチワルイ」が先輩の耳にも聞こえてしまったようだ。俺は瞬時に先輩を見て、嫌な予感がした。


『・・・き、きも、き、きき、、きも、ぃ・・・きも、うあぁぁぁぁ!!!』


 妹さんが最後に言った一言が、先輩をここまでにするとは、俺も驚いた。


「せ、せんぱい!?」


『うっさいなー・・・たこやきー、あち、ほふぅー、』


『なぁ、今の、き、きも?・・・アレは、俺の空耳、だよな?なぁ、そうだよな?』


 俺は、なんとか先輩を落ち着かせようと、声をかけるが、想像以上にパニックになっている先輩を前に、もう半分諦めている。


「あ、はい!な、なんのことかわかりませんが、きっと、先輩の、空耳ですよー!ここ最近、仕事も忙しかったし、色々ストレス溜まってるんですよー!(棒読み)」


 すでに先輩と俺を完全にスルーしている妹さんが、ガッツポーズをした。


『わーい、やったー、クリアできたー!休憩してきます。』


「あ、お疲れ様です。はい。いってらっしゃい。(滅茶苦茶棒読みなんだけど!顔に出さないタイプなのか?)」


 妹さんは、デリバリーで頼んだ食事を自分の分だけ別のお皿に取り分け、部屋から出て行った。俺は、意気消沈気味の先輩と二人きりになった。

 今にも魂が抜けそうな先輩を介抱しながら、デリバリーで頼んだ食事を食べることにした。


 ((それにしても、これは頼み過ぎじゃないか?))


「先輩、これ美味しいですよ?」


『あ、あぁ、・・・そうだな、うまいな・・・』


 俺の言葉を反復することしかしない先輩の口に、とりあえず、ピザを与える。


『はぁ・・・』


「先輩、自分で食べてください。俺がこの状況に耐えられるのも限界です。ほら、先輩の好きなつけ麺もありますよ。」


『・・・俺は、お前だったら、”あーん”されてもいいけどな?』


「俺は嫌です。」


『ジョーダンだよ、』


 俺は、先輩と妹さんのさっきのやり取りが、あのまま続行されていたらどう発展していくのか気になっていた。特に他に話題がなかったので、それとなく、聞いてみることにした。


「妹さんと、いつもあんな感じなんですか?」


 すると先輩は、ソファにゆったり座り直して、どこか遠くを見ながら言った。


『いや、そんなことないよ。今日はゲームだからかもな。妹はゲームをやっている時は気が強くなるというか、ちょっとキャラがクールになるんだ。お前がいてくれれば、2人でいるときよりマシになると思ったんだけど、俺は妹の事何にもわかってなかった・・・みっともない所見せちまって、すまなかった。妹も頭冷やしてると思うから、妹の事嫌いにならないでくれ・・・』


「嫌いになったりはしませんよ。ちょっと、驚きはしましたけど(笑)」


 すると、先輩は少し前かがみになり、頭を下に傾けた。そして、息を吸いながら立ち上がる。俺は、自然と下から先輩を見上げる。


 ((なんだなんだ?))


『普段は違うんだ。俺がゲーム下手なのが原因なんだ。なのに、妹は一緒にゲームやってくれるんだ。優しい子に育ってくれたよ。俺は、ちゃんと兄の役割ができているのか不安だけど、妹が幸せに生きていてくれれば、俺はどんなことでもできるよ。お前も、妹さん大事にしろよ・・・はぁ、お腹空いた、食べよう。』


 俺はこの時、「先輩のシスコンは一生治んねぇわ」と確信したのであった。


『これ美味い。』


 そう言って、黙々と食べる先輩の姿を見て、俺は安心した。


『おにぃちゃん、あーん?』


『えっ!?あー・・・んっ!!あっt!はっ!?あっつー!!』


 いつの間にか戻ってきていた妹さんが、湯気が立っていて見るからにアツアツのチーズフォンデュされた何かを先輩の口に入れようとしたが、猫舌の先輩には食べられなかった結果、口に入る前に受け皿に落ちた。

 妹さんは、先輩の反応を見てクスクス笑っているが、俺には背後に恐ろしい悪魔がチラチラみえる。

 その光景を見ながら、俺はつけ麵を頬張る。


((美味い。))


『あーあ、もう・・・さいてー。』


『あーぁじゃないよー、お兄ちゃんが猫舌だって知ってて、』


『妹に”あーん”されたいー、とかキモいこと言ってたくせに、』


『うっ・・・また、また言った・・・キ、きモ、きき、もいって・・・言った・・・』


『んーぁ!・・・やっぱりムリーきもいー!!!!』


『・・・俺、もう、ダメ、かも・・・』


「・・・」


 時刻はPM4時を過ぎていた。

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