第一章

01


 都内にある某株式会社との打ち合わせが終わり、次の約束の時間まで近くにあるカフェで時間をつぶしていた。

 最近のカフェはテラス席とかいう外でお茶を楽しめる場所があるみたいだが、正直どうでもいい。夏は暑いし冬は寒い、外の空気もキレイとは言えないし、たくさんの車やバイク、電車であふれかえり、そして何より人目に付くことこの上ない場所でくつろぐことなんかできるものか。

 俺からすればそんな危険な行為は自ら敵陣に無計画、無装備で突撃するようなものだ。自分の首を自ら差し出しているようなものだ。


 ((あぁ、考えただけで恐ろしい…。))


 そんな俺は、いつも店内で時間をつぶす。あまり混んでいない店ならば、空いている席を選べる。もちろん人目につかない席を探すが、なかなかそう都合よくはいかないものだ。立ち寄ったカフェはそれほど大きくないようで、人であふれかえっている。俺は入口に近い二人掛け用のテーブルに案内された。入り口付近はなるべく避けたい気持ちが正直だが、奥の席はどこも空いていないようだ。仕方なく案内された席に大人しく着席した。

 店内は環境問題に貢献しているようで、冷房の温度設定を低くしていないようだ。


 ((今日も暑いな。まぁ、外に比べればましか。))


 店内では、談笑していたり、読書をしていたり、各々時間を過ごしている。俺はアイスティーを注文し、メールをチェックする。メールの確認が終わったところへ、タイミングよく注文したアイスティー登場。だいたい、こういうシチュエーションがきたら、コーヒーを注文することに憧れはあるが、俺には無理だ。俺はコーヒーが飲めない。コーヒーはもちろん、コーヒーの豆が使われている系、いや、もっと簡単に説明すると、コーヒーのあの独特な香りが苦手である。俺にとっては真っ黒な得体のしれない異物である。

 好きな奴にはすまないが、俺には理解できない。だから、俺の分も愛してあげてくれ。頼んだぞ...。


 アイスティーが俺の体に染み渡る。


 ((うめぇ~。))


 次の約束まで、まだ時間がある。このままここにいたいところだが、混んでいる店に長居するのもなんだか気が引けてしまうので、俺は店を出ることにした。

 

 伝票を持ってレジに向かおうとしたとき、誰かの視線を感じた。

 視線の先にはそれぞれ時間を過ごしている人しかいないはずだが、なぜだろう、あきらかにこちらを睨んでいる人物がいる。


 ((いやいやいや、自意識過剰もいいところだ。きっと俺の後ろ...には誰もいないじゃないか!!))


 俺の勘違いであってほしい。という願いは届かず、こちらをじっと見つめてくる一人の女?幼児?少女?見た目では大人ではないことはわかるが、それ以外の情報が全くない。


 ((いったい誰なんだ君は⁉俺の記憶が間違っていなければ、俺の知り合いにあんなカワイイ女の子いるはずがないのだが...。))


 誤解を招かないように一応確認しておくが、俺のタイプではない。そして、決して道を外すような趣味はない。が、かなりレベルが高い分類に入ると自己分析をする。

 

((それにしても、あんなカワイイ子が俺に何の興味があるのだろうか。なんて、はやり自意識過剰もいいところだ。だがしかし、万が一あるとして、、、いや、やはりないな。))


 だが、視線が痛い。


 ((まさか!俺、無意識で何か変な行動をしいていたのか⁉それを目撃してしまい、なに、あのオッサ...兄いさん、気持ち悪い。と思っているのか⁉何やってんだ俺は...。まてまてまて、何を焦っているんだ。落ち着け、俺。こういう時は深呼吸だ、深呼吸...すぅー...はぁー...すぅー...はぁー...よし。とりあえずここから出よう。逃げるが勝ちだ。))


 俺は、俺を凝視する謎のカワイイ子の視線をなるべく感じないように、、、というのは無理みたいだ。こちらのバリアをものともしないくらいの視線。異様なオーラが見えそうなくらいに、存在感がありすぎて、もはや何故隠れているのかわからない。いや、もう怪しすぎて注目の的になっている。店員さんも近くにいるお客も何か得体のしれない生き物を見るような目で見ている。あの謎のカワイイ子のことが気にならないと言ったらウソになるが、あまり関わらないほうがいい気がする。女の勘ならぬ男の勘だ。と、勝手に完結の印を押し、俺は店を逃げるように出た。


 この時の俺は、これから、あんなことやこんなことになるなんて、知る由もなかった。


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