ラウンド3ー2
昨日ぐっすり眠れたおかげで、今日の朝はスッキリ目覚めた。
いつものルーティンを終え、朝食は昨日持ち帰ってきたデリバリーの残りで軽く食事を済ませ、歯磨きをして、昨日の洗濯物を片付けた後は、1人リビングでゆっくり小説を読みながらくつろぐ。
気がつけば、時刻はPM1時だった。
今日は、女(妹)がこない。平和だ。
「ふぅー・・・よし、ココア作るか、」
ココアを作ると言っても、市販で売っているカカオ70%粉末をお湯で溶かして牛乳を入れるだけだが、俺は作り方にこだわりがある。まず、粉末がダマにならないようにしっかりお湯で溶かして混ぜること、ココア:牛乳が1:2の配分、先に牛乳を1入れてからココアを注ぎ、追い牛乳1を注ぐ。これで完璧だ。
キッチンへ行き、ココアを作り始めようとしたとき、スマホが鳴った。
妹さん>お返事が遅くなってしまいすみません。
わかりました。兄には私から話しておきます。
日時ですが、〇月〇日 午後3時 ご都合はいかがでしょうか?
よろしくお願いします。
「あぁ、よかったぁー・・・」
これで先輩に変な疑いをかけられる心配もなくなったし、妹さんの行為を無下にせず済みそうだ。先輩がいれば妹さんと2人きりになることもあり得ない。
返信する文章を1時間以上考え悩む昨日の俺とは、まるで別人のように、今の俺はスマートに返事を送信する。
俺>日時、了解です。
よろしくお願いします。
先輩によろしくお伝えください。
俺は、ほっとしたのか腹が鳴った。
昨日に続き朝も昼もジャンクフードを食べるのは、健康を考えると悩むところだが、たまにはいいかと諦め、残りをレンジで温める。
ココアを作っているところに、寝起きの女(妹)が来た。
『おにぃちゃん・・・おはよ、』
「・・・お、はよ。」
目をこすりながらこちらに近づいてくる、女の寝起き姿は、俺の中で危険信号が鳴っている。肌着がスケスケだ。
俺は、ココアを作る方に意識を戻す。
「・・・なぁ、そんな恰好でいたら、風邪ひくぞ、」
『ん?・・・あぁ、おにぃちゃんのココアだぁ、・・・飲みたい。』
俺の言葉は完全にスルーされた。
「りょーかい、((風邪ひいても知らねぇ・・・))」
『昨日のお誘いは?どうなったのー?』
女(妹)は、ココアを作る俺の傍をうろうろ、よろよろしながら問いかけてきた。
その件に触れてくることは予想していた。
「関係ないだろ。」
『・・・断ったの?』
「断ってないよ。」
『・・・ふーん。』
そんな会話をしている間に、ココアができた。
我ながら、今日も完璧なココアだと自己満足に浸る。
「どうぞ。」
『うん、ありがと・・・』
女(妹)は、マグカップを両手で包み込むように持って、ソファの方へ行った。
女(妹)の様子がいつもと違うのは、なんとなく気がついているが、俺にできることは何もない。というより、俺からアクションを起こして面倒になりたくない。というのが本音だ。
俺は、レンジで温め終わったデリバリーの食事をテーブルに運んで食べ始める。
女(妹)が、ソファに横になったまま俺に問いかけてきた。
『ねぇ、おにぃちゃん、今日は、お家にいる?』
俺は、咀嚼していたフライドポテトをしっかり飲み込んでから、答える。
「そのつもりだけど?」
『わかった。』
女(妹)は、返事をしてココアを飲むと、またソファに横倒れる。
俺は、1人食事を終え食器を片付けた後、小説の続きを読み進める。
今日は、一緒にリビングにいても、女(妹)に何も邪魔されない。
((毎日、今日みたいな日がいいなぁ・・・))
時刻がPM3時になろうとしていた。
女(妹)は、ソファに横になったままで、特にアクションを起こしてこない。
((今日は、大人しいな・・・なにかあったのか?))
女(妹)の様子がいつもと違うことは少し気になったが、俺は、主治医の先生と交わした約束の経過報告をするための記録ノートを制作するために自室へ行く。
デスクに向かって記録ノートの記入を始める。書く内容は、起床時間、食事内容、就寝時間、睡眠時間、運動、外出、その日起きた出来事等。項目が多いのは、検査以外でも俺の脳への影響を探すためだ。そのため、些細なことでも記録する。
俺は事故の後遺症で、記憶や空間学習能力に関わる脳の器官、”海馬”という場所がうまく機能していないらしい。特に記憶において、”妹の存在”が抜け落ちてしまっているだけで私生活に支障がない、といったら、それは嘘になる。現に、女(妹)との関係はギコチナイ。俺からすれば、知らない女と共同生活をさせられているようなものだ。
記録ノートは、先生と約束したあの日以来、欠かさず毎日書いている。どうしても恥ずかしくてココに書けないことは、別のノートに濁して書いている。
"コンコン"
「あー、先生に嘘はつけない、けど・・・」
”コンコン”
「ん?」
『おにぃ・・ちゃん・・・』
「どうしたー?」
返事が返ってこない。
俺はノートを秘密の引き出しに片付けてから、ドアを開けようとしたが、ドアが開かない。
「おーい・・・?」
『・・・いたい。』
もう一度、ドアを開けると、女(妹)がドアの前で座り込んでいた。
俺は女(妹)から視線を外す。
((まだそんな恰好してんのか・・・はぁ、))
俺はしゃがんで、目線を女(妹)と同じくらいの高さにする。
「こんなとこに座って、・・・って、何だよ急に、」
女(妹)が、俺に抱きついてきた。
『・・・た、たす、、け、て、、、』
女(妹)は、かすれた声で助けを求めてきて、そのままぐったり寄りかかる。
((えっ?なにこの状況?))
「なぁ、とりあえず、離れてくれないか?」
『・・・ムリ、』
「ムリじゃくて、リビングか部屋に移動する、」
『わかった・・・じゃぁ、リビングまで、運んで?・・・』
「・・・自分で歩いて、」
『おね、がい・・・おにぃ、ちゃん・・・』
女(妹)の荒い息づかいが、俺の耳を刺激する。
((どこまで俺を困らせば気が済むんだよ・・・))
俺は、この状況を一刻でも早く変えたい、逃げたい、そのためには致し方ない。この女(妹)を運ぼう。
「わかった、じゃぁ、はい。乗って、」
『え?・・・なんで、おんぶなの?・・・このシチュエーションは、完全に、”お姫様だっこ”する流れだよ?・・・はぁ、』
この状況で、そんなことを考えられるコイツは、本当に脳内お花畑野郎だと思った。
「なんで俺がそんなことしなくちゃいけないんだよ・・・」
『じゃぁ、このまま、おにぃちゃんの部屋の前で、妹が死んでもいいんだ・・・』
「それは絶対嫌だ。」
『・・・じゃぁ、交渉成立、だね、』
交渉成立はしていない。強制的に同意させられた俺は、部屋の前に居座られる苦痛よりも、この一瞬、今だけの苦痛を考えたら、この女(妹)を”お姫様だっこ”をして、リビングまで運ぶ方がよっぽどマシだと思い、仕方なく女(妹)の取引に応じることにした。
『ちゃんと、抱えてね?落とさないでね?』
「はいはい、、、よいしょ・・・」
『よいしょって、オジサンみたい・・・』
「降ろすぞ?」
『んー、だめ・・・はぁ・・・ありがとう、おにぃちゃん・・・』
そう言って、俺にしっかりしがみつく女(妹)の露出範囲が多い服装のせいで、胸は強調されて谷間が見えるし、手に触れる生足はムチムチでスベスベだ。
((ダメだ!何も考えるな!無になれ俺!))
『・・・重くない?』
「別に・・・」
女性に「重い」と問われて、8割9割の男は「重くない」そう答えるだろう。正直に「重い」と答える男がいるのだとしたら、言える仲か、ウソが言えないか、その他回答、この3択だろう。
俺は、先輩の教えに従って「別に」と答えることにしている。嘘もついていないし、話題を変える流れを作りやすい。
ちなみに、今人生で初めて女性を”お姫様だっこ”をしている。そして、「重い?」「別に」この会話も生まれて初めてだ。
俺が”お姫様だっこ”できる理由は2つだ。対象が小柄であること、もう一つは、俺自身の筋肉だ。俺はリハビリも兼ねて、今まで仕事をしていた時間の半分を筋トレの時間にしていた。今、この状況に自分が一番驚いている。
((筋トレしててよかった・・・))
俺は、なるべく女(妹)の肌の感触を意識しないように、階段を降りてリビングへ向かう。
((この女、本当に妹なのか?・・・妹がこんなことするのか?もしかしたら、俺は騙されているのかもしれない・・・))
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