ブラコンライフ ー番外編 転ー

<妹のHBD>


『おにぃちゃん、大好き。』


 俺は、先ほどまで、生死をさまよっていたようですが、無事、現世に戻ってこられたみたいです。

 破廉恥な姿のままで、俺に抱きつく妹は、大変ご機嫌麗しいようです。


『妹は、一つ夢が叶いましたよ。』


「そうか、それは良かったな。」


 いや、何が良かったなだ。何もよくない。全くよろしくない。最悪だ。


『お腹空いたな~。お昼食べよ?』


「そうだな。」


 妹は、さっきまで何も起きてませんという感じでもないし、かといって、私たちイケナイコトした後で気まずいという感じでもないのだが、どこか変だ。何か企んでいるのかもしれない。気になるが、今は冷静を取り戻したい。

 色んなことが起こりすぎて、食欲がないが、食べないと、身も心も耐えられない気がする。特に今日は、”腹が減っては戦に勝てぬ”。

 「できる、できない」、「やる、やらない」は、そもそも選択肢にない。”勝つ”か”負ける”この二択であり、”勝つ”しかないのだ。


 誕生日の食事は、毎年、妹のリクエストで決まる。そして、ケーキはホールではなく、ワンカットされているものをバイキング形式で食べることが恒例になっている。

 ちなみに、妹は誕生日の時しかケーキを食べない。妹曰く、「誕生日は特別な日だから食べるけど、それ以外の日にケーキを食べる理由がないから。」だそうだ。妹がケーキを食べるのは、年に二回だけ。妹の誕生日と俺の誕生日の二回だ。理由がなくてもケーキを食べてもいいと思うと妹に言ったら、「おにいちゃんは、太らないからそうすれば。」と言われた。女の子って不思議というか、難しいと思った。


 今年の誕生日特別メニューは、俺的にも奴等を久しく食べてないものばかりで、ちょっとテンションが上がっている。

 材料はそろっているので、レッツクッキング。

 本日の主役である妹は、日向ぼっこ中で、夢の中。zzz


 ((目の下にクマ・・・大丈夫かな・・・))

 

 妹が心配だが、あえて聞かない。そんなことを聞いてもクマが消えるわけでもないし、妹自身でわかっていることだからだ(たぶん)。それに、今日は何の日だ。妹の誕生日だ。余計なことで言い合いをしたくない。

 

 今年の誕生日特別メニューのお品書きはこちら。”オムライス”、”ロールキャベツ”、”チーズフォンデュ”、”ホットケーキ”、”バナナスムージー”

 変な組み合わせ?そんなこと、今日は無視だ。妹が食べたいものが食べられる特別な日なのだ。とはいっても、別にこの日のために日々食べたいものをガマンしているかというと、そんなことはない。そして、妹はこれといって好きな食べ物がないらしい。今回のリクエストも今日の気分で決まっている。

 ただ、妹曰く、奴等を最高に美味しく食べたいという理由で、誕生日1週間前から食事を制限をしている。


 テーブルに奴等を並べる。


「よし、準備オッケー。」


 準備ができて、妹を呼ぶ。


「お待たせしました。」


 妹はちょっと前から起きていたのかもしれない。まったく寝起きである感じがない。

 テーブルの上に並べられた料理を見るなり、うれしそうなオーラがにじみ出ている。こんな反応をされると、素直に嬉しい。作った甲斐がある。


『おぉ!!すごーい!』


 いつもは向き合って座るが、今日は違う。隣りに並んで座る。

 

【いただきます】


 妹は、始めに”ロールキャベツ”を食べ、次に”オムライス”を食べると、そのまま”チーズフォンデュ”を食べる。それぞれ、おいしいと何回も言いながら食べている。一方で、俺は違った。

 

((あれ、おかしい。))


 食べても、何の味も感じない。俺の味覚、どこにいった。まだ、生死をさまよっているのだろうか。


 食事に関して、妹が演技しているのかしていないのか俺はわかる。妹は一度食べておいしくないものは手を付けなくなる。それを考えると、ちゃんと食べているということは、ちゃんとおいしいということになる。

 でも、俺は不安に駆られる。隣でおいしそうに食べている妹は、気を使って何も言わずに食べているのかもしれない。もしかしたら、妹も同じように思っているかもしれない。

 俺は探ってみることにした。


「なぁ、味、大丈夫か?」


『うん、おいしいよ!』


「そっか、よかった。」


 やはり、嘘はついていないようだ。

 横目で妹の様子をみていたら、妹は俺の箸が進んでいないことに気が付き


『おにぃちゃんも、ちゃんと食べて。ほら、あーん・・・』


「あ、うん。んー、は、はふい(あつい)・・・」


『ごめん、フーフーすればよかった。』


 俺は猫舌で、熱いものは食べられるまでにちょっと時間がかかる。

 今日のメニューは、どれも熱いものばかりだ。特に”チーズフォンデュ”は恐ろしく、下手したら火傷をする。

 これは、妹のリクエストだが、わざとなのかもしれない。俺が猫舌なことを知っていて、あえてこのメニューにしたのかもしれない。どこまでも抜け目がない妹に俺は押されている。いま、まさに、追い詰められている。

 このままでは、負けそうだ・・・


『今度はちゃんと冷ましたから、大丈夫だと思う。はい、あーん・・・』


 妹が差しだす”チーズフォンデュ”されたカボチャは、まだ湯気が立っている。


「んー・・・あついって・・・」


『あ、わかっちゃいましたか?えへへ。』


 妹は、なんだか楽しそうだ。その様子を見て、俺は安心する。


「ほら、袖がついちゃうよ。」


 はしゃぐ妹の洋服の袖が危うく”チーズフォンデュ”に浸かるところだった。


『おにぃちゃん・・・ありがとね。』


「ん?」


『毎年いつも大変でしょ?いろいろ準備とか・・・』


「別に、大変と思ってないよ。さすがに、毎日だったら大変だけどなー。(笑)」


『毎日こんな生活してたら、幸せの感覚がボケちゃうよ。』


 妹が、そんなことを言うとは思っていなかった俺は、ちょっと、いや、かなり驚いたと同時に、すごく嬉しい気持ちになった。

 

「確かに、そうかもな。」


 妹は、特に凝ってもいない”ホットケーキ”を食べても、美味しいと言ってくれた。

 ”バナナスムージー”は、妹が作ったので美味しくないはずがない。


【ごちそうさまでした。】


 食器を片付け後は、まったり映画鑑賞して、ゲームをしてと妹とイチャイチャやっているうちに時間は過ぎた。

 そして、これから、妹が特に楽しみにしているケーキタイムが始まる。ケーキは別腹らしい。あれだけ食べたのに、お腹が空いたと言っている。まったく不思議だ。

 テーブルの上には、お皿に盛り付けた色とりどりのケーキを並べる。ケーキ屋さんができるくらい用意した。

 もちろん、出費には苦笑いした。仕事、頑張ろう。


『こんなにたくさん!!おいしそ~!』


「全部食べていいよ(笑)」


『いただきます!』


 妹は、ケーキを食べつつ、俺にも一口ずつ与える。


「俺は、いいよ?」


『今日のお礼。遠慮なく食べて。』


「ありがとう。」


『こんなに贅沢な誕生日を過ごせるなんて幸せだよ。おにぃちゃん、ありがとう!』


「お気に召してくれたなら良かったよ。」


 ケーキタイムも満足した妹は、ちょっと休憩してくると言って、自分の部屋へ行ってしまった。

 妹がいない間に、俺は、お風呂の準備や洗濯物を片付けることにした。

 

「ふー、やっと、ひとりになれる・・・」


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