第7章 じゃぱりぱーくとしぶ

第19話 俺、都会に来ただ

「ジャパリパーク、都市部?」


 ジャパリパークと言うのは、フレンズが元々いた場所だと聞いた。

 そこから逃げ出して帰れなくなったから、連れ戻して欲しいと。

 でも、今、ハッピービーストが言ったのは、まさにその名前である。


「ここ。都市。ジャパリパーク」


 壊れた音声で再び伝えてくるハッピービースト。


「ハッピー。ここのことなのか? ジャパリパークって、なんなんだよ?」

「ヒュウマちゃんはジャパリパークも知らないの? 変なの」


 割って入ったのは犬。


「変って言うな! 俺は、その、記憶喪失なんだ!」

「?」

「何にも覚えてないんだよ」


 言いながら、思った。

 もし、記憶の混乱とやらが無かったのなら、俺はジャパリパークのことを知っていたのだろうか?

 ……分からない。

 とりあえず今は、ジャパリパークのことが知りたい。


「ペキニーズ。ジャパリパークのことを教えろ」

「良いよー。あのね、ジャパリパークって言うのはね、色んな動物フレンズがいっぱい住んでてー、色んなちほーがあるんだ。サバンナとか、ジャングルとか砂漠とか。雪山は雪がいっぱいで楽しかったけど、すごい寒くてー。高山は登るのが大変なんだよ。でも、どこもいっぱい楽しいんだ!」


 実に嬉しそうに話している。


「ジャパリ、パーク? 色んなフレンズ動物が住んでる、パーク……? もしかして、自然公園か?」


 公園とは言ったが、俺が想像したのは日本のちゃっちい物ではなく、アメリカ等にある、野生動物が暮らしているような大自然の、広大な敷地を持つ自然公園だった。

 だが、ペキニーズの話を聞く限り、様々な地形、気象が用意されているらしい。

 それがどのくらいの広さなのかは知らないが、恐らくかなりの規模のものだろう。


 ここもその公園の一部と言うのなら、周辺にあるビルはデパートか何かかもしれない。

 自然公園なら、観光に訪れる人々がいても不思議ではないのだ。


「しかし、ペキニーズ、ここもジャパリパークらしいぞ?」

「そうなの?」


 犬は不思議そうな顔できょとんとしていた。


「へー。こんなところもあったんだね」


 犬はにっこりと笑う。

 うぐ、なんか、無邪気すぎて眩しいぞ。

 と、空を旋回していたキジバトが、バサバサと降りてきた。


「私はここ、暮らしやすそうで良いですね。ただ、やはり、ジャパまんはここにはなさそうです。ボスの姿が無い」

「ボス? ああ、このハッピービーストポンコツのことか」

「そうだよー! でも、そのボス、普通のボスよりずっとおっきいよね! 色も黄色だし!」


 はしゃぐ犬。クールな鳥。

 ハッピービーストは喋らない。


「チッ、こいつが壊れてなかったら、もっとまともな情報も手に入ったんだろうが仕方ない。とりあえず、クソネコと小鳥の奴を探し出して、とっ捕まえよう。話はそれからだ」

「……」


 突然押し黙る二人。

 ……なんだ?

 と、嫌な予感がした。


「にゃっはー!」

「ぐわああああああああ!」


 背後からの奇襲!

 もちろん、アメリカン・ショートヘアーのアメショーだ。

 またもやマウントポジションを取られて、動けない俺を見下ろし、アメショーはいたずらに微笑んだ。


「隙だらけだねー。ヒュウマ」

「ううう、放せクソネコ! やめろ! くそ、鳥ー! 犬ー! どっちでも良い、助けてくれ! 早く!」


 だがしかし、当の二人はケラケラと笑っていた。

 なに笑ってんだよ! 人がピンチになってるのがそんなに面白いか!?

 こいつら、悪魔かよ!?


「良いなぁ、ヒュウマちゃん! 今度、僕とも遊んでよ!」

「ヒュウマはほんとうに狩りごっこが弱いですね!」


 こいつらは悪魔だ!

 そして、顔を近づけてくる、アメショー。

 や、やめろクソネコ! 舐めるな! 舐めるなぁぁぁぁ!


 湿り気のあるざらざらとした感触が俺を襲う。


「うう、うううう」

「にしし、泣くほど嬉しかった?」

「嬉しいんじゃないって言ってるだろがー! もう離せ! この……!」


 払いのけようとしたが、どう力を入れても起き上がれない。


「ふーん? そんなこと言って良いの? ヒュウマちゃーん? なんだか生意気だよねー。もうちょっと念入りにぺろぺろ、しちゃおうっかなー」


 舌なめずりするアメショー。

 完全に嫌がる俺が楽しくて、弄んでいる


「や、やめろー! んぐぐぐぐぐぐぐ!」


 そして、逆らえない、俺。


「ニャハハハハハハハ!」


 数分後、すっかりご満悦のアメショーはようやく俺から降りた。

 顔がひりひり痛い。

 屈辱だ。この恨み、はらさでおくべきか!

 俺は立ち上がると、言った。

 宣戦布告である。


「絶対に、絶対に! お前を許さない!」

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