第6話 逆襲のニャア

 しかし、本当に救いの主なのだろうか。


「!?」


 視線を感じて見上げた隣家の屋根に、女の子が一人。

 少し離れた違う家の屋根にも、もう一人いる。

 あいつらも、もしかしてフレンズなのか?

 それぞれ違う種類みたいだけど、似たようなヘアースタイルをしている。

 何だか、こう、広げた鳥の羽のような……

 いや、もう、この際、相手がけものだろうと、何でも良いや!


「助けて! お礼するから!」

「お礼?」


 近くにいるほうの女の子が、首をかしげてこっちを見ている。


「お礼って、何?」

「それは、その、何かするよ!」

「何かって、何? 怪しい」


 ……な、なんでそんな疑いの目で俺を見るんだ?

 やめろ! 見下してんじゃねー!


「なんだか、信用できない。やっぱり、すっごく怪しいと思うな、私」


 あ、これ、ダメなパターンだ。と、思う間もなく、女の子は飛んで行ってしまった。

 って、飛んだ? え、どうやって飛んでるの、あれ。

 で、気づいたらもう一人の女の子の方もいない。


「うう、もう、一人は嫌だよ。誰か、助けて……」

「一人じゃないですけど」


 声にハッとする。


「誰だ!? またけものか!?」

「……ニホンヤモリのヤモリですけど。さっきからずっと居るんですけど?」


 アイエエエエ!? 隣の家だ! 壁に張り付いてる!

 さっきの鳥の、ちょうど真下あたり。

 服の色が保護色みたいになっている。壁と一緒の白色で分からなかった。


「どうも、ヤモリです、こんにちは。なんだかドッカーンってうるさかったから私も来てみたのだけれど、結局あなた、何なんです?」


 壁伝いに降りてきた女の子は首を傾げながら聞いてくる。

 フードに短パンストッキング。

 でも、何と言うか、顔は愛嬌のある顔なんだけど、話し方が独特で、雰囲気がちょっと掴めないと言うかなんと言うか、不思議な女の子だ。


「……聞いてますか?」

「あ、ああ、ごめん。俺はヒュウマです」

「ヒュウマ? 何の動物?」

「ひ、人ですけど」

「ヒト? 知らない動物なんですけど」


 後ずさりするヤモリ。


「え、ちょ、待って。知らないってほんとに? って、言うか待って! お礼するから!」

「なんか怖いですから。この場を離れることにしました」

「ま、待って! お願い、助けて……」

「無理ですけど。怖いので」


 ヤモリはすばやい動きで壁を登り、家の向こう側に行ってしまった。


 ……ひどいよ、あんまりだ。

 なんで、みんな、俺を助けないで行ってしまうんだ。

 なんでだ? なんで……


 ……


 そうか。分かった。もう良いよ。

 俺は理解した。

 しょせん、人は一人で生きて行かなければならないと言うことだ。

 良いさ、やってやる! その代わり自由になったら覚えてろよ、けだもの共め!

 全員とっ捕まえて、今度は俺が弄んでやる!

 くっくっく、今から楽しみだぜ。


「ヒュウマ」

「うお、びっくりした」


 名前を呼ばれたので声の方に首を動かすと、待ちに待った救いが来た。

 黄色いずんぐりむっくりロボ。

 ハッピービーストである。


「うう、救いの神。無事だったんだね」

「神じゃないよ。ボクは、ハッピービーストダヨ。ヨロシクね」

「知ってるよ。早く、早く自由にして。お願いだから!」

「ハイ」


 お腹のボッチがピカピカ光ると、カシュッと音がして、台のベルトが外れた。

 やった。やったぞ。

 俺はすぐに埋まっていた足を掘り起こし、地面に足を着けた。

 ああ……! 何と言う開放感だろうか!

 歩く、走る、ジャンプ! 全てが思いのままだ!


 だがしかし、俺の心は憎しみの感情で一杯である。


「おい、ハッピービースト! けもの共を捕まえるぞ!」

「やる気になってくれて、アリガタイよ。でも、手荒な扱いはしないでね」

「善処はしてやるさ! でも、話が通じるかな?」


 くっくっく。対話は不可能だ。って言うか、こっちから願い下げだぜ。

 手荒な扱いはしないでね、だと? 良いぞ。捕まえたら、たっぷり可愛がってやる!

 と、そう思った直後、背後に気配を感じた。


「さて、と。どうしようかな、とりあえず……」


 なるべく自然を装ってハッピービーストの近くまで歩き、横目でチラッとその気配の元を窺う。

 ……猫だ。アメリカン・ショートヘアのアメショーが、こちらの様子をこっそり見て、こっそり近づいてきている。

 くっくっく、千載一遇の良い機会だ。捕まえてやるぞ!

 俺は小声でハッピービーストに伝えた。


(ハッピー。気づかない振りをしろ)

「ナンデ? そこにフレンズがいるよ」


 ハッピービーストはロボットらしく、でかい声で返事をした。

 ビクッと反応するアメショー。

 ちくしょう! 台無しにしやがった!

 俺は誰にも愛されない!


 そんなわけで動かざるを得なくなった俺は、ぐるっと回転してアメショーに向き直ると、一気に距離を詰めて飛び掛った。


「うおー! 捕まえたぞー!」

「ぎにゃー!」


 アメショーはビクついたまま動けない状態で居たので、なんとかその腕を掴むことに成功する。

 ハッハッハ! 捕まえたぜ! このまま一気に自由を奪ってやる!

 ……が、甘く見ていた。


「いきなり何するんだよー! どういうつもりなの!?」

「……」


 捕まえられたのは俺でした。

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