第7話 罠をかける少女

 な、なんと言う力だ。

 振りほどかれてそのままなし崩し的に押し倒されたぞ。


 どうなってるんだ?


 あっさりマウントポジションを取られた俺は、怒った顔の猫耳少女の下で、腕力ではフレンズに勝てないことを思い知る。


「黙ってちゃ何も分からないよ!」

「す、すいませんでした! 許してください! なんでもしますから!」

「ん? 今、何でもするって言った? 言ったよね?」


 アメショーはまた獲物を弄ぶ目で俺を眺め始めた。って言うか、尻尾がぶらーんぶらーんと大きく振れている。


「い、言ってません。ダン・デボ・スルーって言ったんです」

「……何それ?」

「そ、その。アメリカに住んでいるダンさんが……デボッと、スルーッと……あの……」


 苦しい言い訳だった。


「意味わかんないしー」


 そう言うと、アメショーは俺の顔を舐め始める。

 どうやら、何をすれば俺が嫌がるのかを覚えたらしい。


「や、やめろー! やめて! お願いだから!」

「にしししし。毛づくろいの時間だよ。たっぷりしてあげるから」

「ぎぃやぁぁぁぁぁ!」


 そのままされるがままになって、俺の顔は猫の舌でヒリヒリになってしまった。


「また遊んであげるね。じゃあ、私、今度こそお昼寝するから。またねー」


 アメショーは満足したようで、その場を去っていく。


「ぐ、ぐぐ、悔しい!」


 屈辱に次ぐ屈辱。

 正攻法ではとてもじゃないけど勝てない。

 なんで、あんなに強いんだ?

 そんな俺にハッピービーストが慰めるようにして、言う。


「フレンズは、元の動物の特性を受け継いでいるから、狩りが得意な動物はそのまま身体能力も高いんだ」

「早く言え! この馬鹿!」


 このポンコツ……ッ! 燃えないごみの日に出してやりたいよ!

 しかし、恨み言を考えいるわけにもいかない。

 何か、手を考えなければ。


「おい、ハッピービースト、お前、何か出来ないのか? って言うか、何が出来るんだ?」

「ボクは、遠征先でジャパリまんを作ったり、保存する機能を持っているよ。大量に持ち運ぶことが出来るんだ」

「ジャパリまん?」

「ジャパリまんは、フレンズが大好きなおまんじゅうなんだ。ジャパリパークに生息しているフレンズは、このジャパリまんを食べて、生活しているよ」


 ようするに餌か。

 ……餌?


「おい、ポンコツ。そのジャパリまん、今持ってるのか?」

「たくさん持ってきてるよ」


 ハッピービーストのお腹がぱっかりと割れて、中から「の」と書いたおまんじゅうが出てきた。

 たくさん持ってる? なるほど、これは使えるぞ!


 ……


 と、言うわけで罠を作ってみた。

 紐を結んだ適当な長さの棒でザルを持ち上げて、固定。ザルの下にはジャパリまんだ。

 俺が落ちた家の納屋に、でっかいザルと紐があったのだ。

 これぞ、必殺『落としザル』。

 紐を引くと支えになっていた棒が外れてザルが落ちてくる。古典的な罠である。


「くっくっく、完璧な作戦だ。あいつらはしょせん獣よ。人間の高度な知能には適うわけも無い」

「こんなので捕まえられるのかな? 疑問だよ」

「ポンコツは黙って見とれ! 少し時間はかかるかもしれないけれど、必ず……ん?」


 わずか数秒だった。

 何かがダダダっと走ってきて、仕掛けていた罠に飛び込んだのは。


「今だ! くらえ!」


 紐をグイッと引っ張ると、ザルは素直に落下し、まんじゅうに飛びついていた対象を閉じ込めることに成功。


「わ!? なんだ!? なんだこれ!?」

「ハッハッハ! かかったな! ざまぁみやがれ!」


 待ちに待った復讐の時である。


「さーて、何をしてやろうかな? んー?」

「うわーん! 出してよー! ここから出してよー! 僕が何をしたって言うんだー!」


 ザルの隙間から捕まえたフレンズを見る。

 無様に泣きながらこちらに抗議してきたのは、猫でもヤモリでも鳥でもない、まだ会ったことの無いフレンズだった。

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