第3章 ごーすとたうん
第8話 その名はペキニーズ
ザルの中を覗いてみたが、こいつは何の動物だ?
……わからん。
色は黄色とクリームのグラデーションがかかってはいるものの、全体的に白っぽい。
髪の毛はセミロングで、獣の耳はたれ耳だ。
首元にモコモコふわふわのリボンがついていて、スカートから出ている尻尾は毛でふさふさしている。
で、思い出したかのようにジャパリまんを口にくわえると、フガフガ叫び出した。
「ふがー!
ええい、フガフガうるさい奴だ! 食うなら食うで、食ってから喋れ!
それにしてもこいつ、何を言っているかは分からんが、態度が偉そうで気に入らんぞ!
なので存分にいじめてやる事にした。
「何か文句があるようだが、お前はそこで一生暮らすんだぞ? 分かっているのか?」
よほどショックな言葉だったらしい。
フレンズが口に
「え、えっ!? こ、ここで一生!?」
「そうだ!」
「そんなのやだい! こんなの壊して出ちゃうんだから! みてろよー!」
フレンズは腕を振り上げ、ザルに向かって攻撃しようと力を貯め始める。
それはまずい!
このザルはしょせんザルなので、攻撃されるのは非常にまずい。
コイツが何のフレンズなのかは知らないが、さっきのアメショー並みの腕力を持っていた場合、簡単に逃げられてしまう!
「待て! それには触らないほうがいいぞ!」
「えっ? なんで?」
「そのザルの内側には、恐ろしい毒が塗ってある」
「えええっ!? さ、触ったらどうなるの?」
「死ぬ」
ハッタリである。
このザルは、さっき仕掛ける時に、俺も触っていた。
ようするに安全な品物なのだ。
だが、フレンズは「ひぃっ!」っと声を上げると、ザルに触ろうとしていた手を引っ込めた。
「ハッハッハー! 死にたくなければじっとしていろー! そして、お前は一生そこで暮らすのだ!」
「うわーん! そんなのやだー!」
どうだ、まいったか!
そんなわけで、捕まえたこいつが何のフレンズなのか気になっている。
これが動物の体なら分かるんだけど、人間の形しているので分かりづらい。
――いや、見当は付いてはいるのだけれど、確証がないのだ。
もうちょっとからかってやっても良かったが、とりあえず聞いてみよう。
本格的に遊んでやるのは、こいつが何の動物か知ってからだ。
「ところでお前、何のフレンズなんだ?」
「むっ。人に名前を聞くときは、自分から名乗るんだぞ?」
……なんと生意気な。
しかし、動物にしては言うことがまともなのでここは従っておくことにする。
「俺の名前はヒュウマだ」
多分。
と言うか、今はこれ以外に名乗る名前を持っていないので仕方がない。
それにけものごときに名乗る名前は、これで十分だ。
「そっか、ヒュウマって言うのか」
「間違われるのが嫌だから今のうちに言っておくけど、俺も女の子だからな。ほら、お前も教えろよー。そしたら出してやるか考えてやるからさ」
「えっ、ほんと?」
うん。考えてやるよ。
ほくそ笑む俺の前で、自信満々に自分を語るフレンズ。
「僕はペキニーズだよ!」
なるほど、ペキニーズか。
――ペキニーズ。食肉目イヌ科イヌ属に分類される哺乳類の一種、イエイヌの品種の一つである。
足は短く、毛は長い。
小型で、
起源ははっきりとはしていないが、チベット原産のチベタン・スパニエルと言う犬種がシルクロードを経て中国王朝へと『献上』という形で持ち込まれ、その子孫が彼らの祖となったと言う説が有力である。
その後、千年以上。彼らは中国の王朝にて門外不出の愛玩犬として飼育、改良され、『彼らを害するものは死罪』等と、強く寵愛を受けてきた。
それ故か、彼らは自尊心が高く、頑固な性格を持っているが、一方では大型犬を前にして一歩も後ろに引かない大胆不敵な勇敢さをも兼ね備えているのである。
――
「へっへーん! どうだ、まいったか!」
胸を張って良い気になっている、犬。
尊大な態度になるのは勝手だが、だからなんだと言うのだ。
状況は全く変わっていないぞ。
しかし、何の動物か分かったのはありがたい。
「なるほどな。ペキニーズだったか」
「よーっし、じゃあ、僕をここから出してよっ!」
「ダメだ」
俺は言った。
「お前はそこで一生暮らすのだ!」
「えっ、なんで!? だ、だって、僕、ペキニーズだよ? 何のフレンズか教えたら、出してくれるって……」
「出してやるとは一言も言ってない。俺は考えてやると言ったんだぜー!」
「な、なんだってー!?」
「お前はそこで一生暮らすんだよー! 絶対出してやらないからな!」
ベタな展開である。
が、ペキニーズは面白いほど顔色を青くして驚いていた。
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