第10章 さよならのうた 上
第29話 それでも俺は、黒じゃない
無人の町に、俺の足音だけが響く。
コツコツ、コツコツと……
……
くそ、考えがまとまらない。
だいたい、マンガと現実をごっちゃにするヤモリの話を信じるのか、と言う点で俺もどうかしている気がするのだけれど、でも、この胸騒ぎは何だと言うのだろうか。
……ヤモリの疑惑を聞いてから、ハッキリとはしないが、何か確信めいたものが出来て、消えない。
どこかで動物ではない何かと、接したと言う気持ちの悪い感覚。
それが何に起因する実感なのかは分からないのだけれど、でも、ヤモリの言うように、俺以外の誰かが動物じゃない気がしてならないのだ。
とりあえず、俺がセルリアンだと言うのは除外したい。
ヤモリはセルリアン自身にも自覚がない……とは言っていたけれど、それこそさっきも言ったマンガと現実をごっちゃにしていることだ。
ギロギロとか言う漫画でそうだったと言っても、実際は違うかもしれないからな。
そう、俺は俺なんだ。
ヒトだっていう明確な意識があるし、何より、ヤモリを見つけた事で――全員集まったって分かっても、あいつらを食べたいだなんてとても思わない。
だから、俺がセルリアンじゃないと言う前提で考える。
どちらかと言うと黒ヒュウマじゃなくて、白ヒュウマと言うことだ。
探偵役が犯人だったなんて、反則も良いところだし。
だから、容疑者はこうだ。
ハッピービースト。
ペキニーズ。
アメショー。
キジバト。
スズメ。
ニホンヤモリ。
そして、消去法で言うと、ニホンヤモリの可能性は低いと思う。
もしあいつがセルリアンなら、俺にこの疑惑を教えるメリットが思い浮かばない。
何も言わずに、全員揃ったところでいきなり奇襲をかけた方が得策だからな。
それに隠れてずっと一緒にいたと言うことは、スズメと合流した時点で全員が集合できたと自覚したはずなんだ。
それなのに襲っても来ない。
だから、ニホンヤモリは可能性が低いと判断して、ここは除外する。
それからハッピービーストは……あいつはそもそも、俺の自由を奪って、ヘリコプターで飛んでた時からの仲だけれど、あの時、あいつがセルリアンだったら、俺は食べられていたと思う。
だって、完全に身動き取れなかった。
と言うか、どっからどう見てもメカって感じだし、そもそも動物たちから『でっかいボス』とか呼ばれていたし、なんとなく親しまれてる型の、パークで使われてるロボットなんじゃないかと思う。
動物用の餌を作って、大量に持ち運びできるとか言ってたし。
だから、この二つは除外していい気がする。
……とは言え、それ以外のペキニーズ、アメショー、キジバト、スズメの4匹には、これと言ってハッキリ違うと言い切れる物が考え付かない。
どうする?
いっそのこと、全員後ろからいきなりぶん殴ってみるか?
身体能力では勝てなくても、奇襲をかければ、あるいは……
「ヒュウマ?」
「ひっ!」
後ろからいきなり声をかけられて、ビクッとしてしまった。
誰じゃい!
と、振り返れば、そこにニホンヤモリの姿が。
「な、なんだ、お前かよ。何の用だ? まだセルリアンが誰かなんてわからないぞ?」
「いえ、その、ジャパリまん、持って無いですか?」
「ジャパリまん?」
「はい。朝、空から落ちて来た物をアメショーと分けましたが、食べてしまって。私が持っているのはこれが最後なので、無くなってしまうと不安で」
カジッとニホンヤモリがジャパリまんをかじる。
「食べなきゃ良いだろ」
「お腹が空いたので」
話している途中、何かが引っかかった。
……ジャパリまん?
朝の――と言うことは、ペキニーズのジャパリまんだ。
奪って空に逃げたスズメの奴にぶん投げて、あいつが落としたジャパリまんだと思う。
アメショーが一個、口にモグモグしながら走って行ったので、多分間違いない。
そんな前からこいつが一緒にいたと言うことに気づかなかったのは、流石に俺もどうかしてるとは思うけれど……それは今は良い。
何か、引っかかる。
何だ? この違和感は。
大事な何かを見落としている気がする。
あともう少しで何かに気づけそうな……
「……持って無いんですか?」
ニホンヤモリの声で、また分からなくなった。
まぁ、良い。
大事な事なら、そのうち思い出しそうな気もするし。
とりあえずジャパリまんに手持ちはない。
一度、ハッピービーストのところまで帰る必要がある。
……
……
この際、だましてこいつを連れて帰るか?
良く考えたら、セルリアンも本当にいるかも分かんないし。
違和感も気のせいかもしれないし、実際、セルリアン探しなんて、見つけたとしても俺には何もできないからな。
で、全員が揃えばハッピーにバスを呼んでもらって、それでこの仕事もおしまいだ。
そうだな、それが良い。
「良し、じゃあ、ついてきてくれ。ジャパリまんがあるところまで、案内するから」
「……嫌です」
ニホンヤモリは、たんたんと拒否の言葉を口にして来た。
「騙されませんよ? そうやって私をおびき出すつもりですね? フレンズに化けているセルリアンが分かるまで私は行かない。やっぱりヒュウマがセルリアンなんじゃないですか?」
「ちげぇよ!」
「じゃあ、何で騙そうとしたんです?」
「う、うるせぇ! 俺たちの中にセルリアンが混ざっているなんて信じられるかよ!」
言いながら、自分だって違和感を感じているじゃないかとは思う。
不安しかない。
このまま連れて帰って本当に危険はないのか? と、その時、空に気配を感じた。
「ちょっと、今の話、本当なの?」
スズメだった。
こいつ、またコソコソ盗み聞きなんかしてたのか?
「フレンズに化けているセルリアン? それって、何の話? 詳しく聞かせてよ!」
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