第26話 ストーカー

「くっくっく、無様だな、小鳥野郎!」


 野郎ではないのは知っているが、憎らしすぎて野郎扱いしか出来ない。

 この鳥、どうしてやろうか。


「くっ、殺せ!」

「いや、そこまではしないよ……」


 いきなりなんだ、この小鳥は? 女騎士か何かなのか?

 いや、フレンズで女騎士とかいたら、ちょっと笑えるけど、流石にそんな奴いないだろ。

 ……いないよな? そんな風体のフレンズ。(※います。)


「いや、良い! それはそうと、ついに捕まえたぞ」

「……もういいや、逃げるのも疲れたし」

「ん?」


 見れば、スズメはどこか観念した様子でため息をついた。


「アメショーちゃん、どいてくれる?」

「ん? いいよー」


 アメショーは簡単にどいた。


「ちょ、逃げたらどうする!」


 だが、スズメは逃げなかった。

 拍子抜けした俺は、どういうことなのかが全く分からない。


「ねぇ、ヒュウマとか言ったっけ? パークに帰してくれるんでしょ? 帰り道教えてよ。私、ちょっと疲れたからさ」

「お、おう? どういう心境の変化だ?」


 な、なんだ?

 こいつ、やけに聞き分けが良いな。


「ヒュウマを空から見てたけど、そんなに悪い奴でもなさそうだし。とりあえず信用しても良いかなって」

「な、なんだと? 見てたって、何を?」

「昨日、こっちに飛ぶ振りをして、こっそり戻ってずーっと一緒にいたんだよ? 気づかなかった? まぁ、地面を歩いてる動物って、空なんかあんまり気にしないからね。ペキニーズと一緒に歩いてここまで来るの、空からずっと見てたよ。隙があったらジャパリまんを奪いに行こうって思ってたのもあったけど、ペキニーズにヒュウマが酷いことあんまりするようだったら助けに行こうと思ってたし。それにアメショーちゃんに仲良くペロペロされてるのも見てたよ。ずーっとね」

「お、おま……お前は!」


 言葉に詰まる。

 こいつ、なんなんだ!?

 女の子が女の子にぺろぺろされるのをこっそり見て、喜んでいたのか?

 へ、変態だ! こいつ……


「でも、いつの間に仲良くなって、一緒に捕まえに来るなんて意外だったな。まんまと捕まえられちゃった。ねぇ、私もヒュウマちゃんって呼んで良いかな?」

「だ、黙れ! 馴れ馴れしいぞ、このストーカー!」

「? ストーカーって何?」

「それは、こっそり付きまとって、相手の様子を見て喜んでる変態のことだよ!」

「誰が?」

「お前だ!」


 え、ええい、心底心外みたいな顔するな!


「どうせ、ジャパリまんが目当てなんだろ!?」

「え、うん」


 あっさり認めてんじゃねー!

 そんなわけで、スズメ捕獲成功である。


「あと、一匹だ。ヤモリさえ捕まえれば、俺の仕事も終わりだ。お前ら、ヤモリを捕まえろ」


 と、そこに息を切らしたペキニーズが合流した。


「っ、疲れたー。もう、動けないよー」

「ちょ、頑張れよ、犬」


 だがしかし、疲れたコールは猫と小鳥からもやって来た。


「お昼寝したいしー」

「私も疲れたから、一休みしたいー」


 ……こいつら!


「休んでる暇なんてあるかー! さっさと探しにいけー!」

「そんなこと言っても、ヤモリちゃんがどこにいるか知ってるの? この近くにいるなら探しても良いけどさー」

「うぐぅ」


 そうだった。

 ヤモリがどこにいるのか、手がかりが全く無い。

 と、そこにひょこひょこ歩くハッピービーストと、キジバトがやって来た。


「闇雲に探しても見つけられませんよ。それにちょうど良いですからね。休憩にしましょう」

「お前、どこにいたんだよ、今まで」

「でぽ? 聞きたいですか? それはですね……」


 キジバトがいそいそと服の中から、ボロボロになったたくさんのぬいぐるみを取り出した。

 いつも以上に胸が大きく見えたのはそのせいだったか。

 

「探せば色々あるものです。ぬいぐるみ。私、気に入りましたから」

「キジバトちゃん、久しぶり」

「あら、スズメちゃん」


 ピリッとした緊張感を生ませながらも挨拶を交わす鳥が2羽。


「キジバトちゃん、ここが気に入ってたとか言ってたみたいだけど、どうしてヒュウマと一緒にいるの?」

「ヒュウマがぬいぐるみを私に作ってくれるって言いましたから。作ってくれるまでは一緒にいようと思います。ジャパリパークに行くのも、それならそれで構いません」


 ……あ、はい。

 けっこう、楽しみにしてくれてたのね。

 手芸の練習、しなきゃなぁ。


 そんなわけで、みんながぐたーっとしているので、俺は一人、散歩に行くことにした。


「何かあったら、助けを呼んでよね。ヒュウマはクソ雑魚なんだから」

「ちっ、分かったよ」


 そんなわけで俺はその場所を離れた。

 しばらく歩いたが、荒廃した町の中で、どうやってヤモリを探せば良いのだろうか

 ……のだが、すぐに中断することになった。

 別にセルリアンと遭遇したわけではない。

 ちょっとした発見があったのだ。


「あ、あれ? あそこにいるのって」


 あのフードは間違いなくヤモリである。

 今、一番出会いたいフレンズランキング第1位の、ヤモリが俺を物陰からジッと見て、こちらに手招きしていたのだ。

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