第9章 せるりあんはだれ?
第25話 すずめ捕獲作戦
そんなわけで、一度ペキニーズの元に帰還するとスズメを捕まえる作戦を立てた。
まず、奴に飛ばれたら終わりである。
キジバトが非協力的なので、空を飛べるフレンズがこちらにいないからだ。
「だから、罠を仕掛けた。これで勝つ」
罠にはジャパリまんと、落としザル。
とは言えペキニーズを捕まえた時に使ったフレンズが丸々一匹入るような大きなザルはあの家に置いてきてしまったので、今度は近くにあったデパートの調理器具コーナーで見つけた、正真正銘、普通のザルを使う。
小さいが、それは承知の上だ。
と、興味津々なのか、キジバトが寄って来て、俺に聞いてきた。
「でぽ? こんなので捕まえられるんですか?」
「いや、これでは無理だ。だが意味はある」
そう、食い意地が張っているあの小鳥ヤローの興味を引くには、これで十分なのだ。
ジャパリまん欲しさに必ず食いつく。
そして場所は、ビルとビルの間、さきほどアメショーと一悶着あった場所のようなような、天井の無い通路のような場所に設置した。
今度は崩れるようなものが無い、安全な場所である。
俺とキジバトは、遠くからダストボックスの陰に隠れて、その罠を見張っていた。
――大丈夫だ。
しょせんは獣だ。腹が減っていれば、必ずひっかかる。
と、案の定、スズメが空から降りてきた。
「こんな罠、一体なんだと言うのです? でも、怪しいですね……」
スズメは首をかしげて罠を調べ始めた。
目はジャパリまんに釘付けながらも、次第に罠に近寄り、何やら考え込んでいる。
「棒に繋がっているこの紐を引っ張ると、この、なんだか良く分からないものが落ちてきて、ジャパリまんを取ろうとした私にぶつかると言うことですか? 穴だらけで、向こう側が透け透けなので何ですか、これは? 何か特別な罠と言うことでもなさそうですが……こんな小さいもので? 怪しい。」
ああ、元からそんな罠で捕まえられるとは思っていないぜ。
ほくそ笑む俺。
そして、スズメは紐の先を視線で追うと、その紐の先が途切れていることに驚愕する。
「怪しい……! これは、いったい……! どうやって罠を作動すると言うのですか?」
そう、これはブラフである。
興味を持たせて近づかせるのが目的なのだ!
俺はボックスから手をチラッと覗かせて合図を送った。
「うー! わん!」
ペキニーズ出現!
完全に伏兵となったペキニーズが、物陰――仕掛けてある罠の近くから飛び出した。
「!?」
驚き、身を翻すスズメ。
この時、垂直に上昇されたら終わりだったが、そもそも鳥類の翼はそんな飛び方が出来るようには出来ていない。
……いや、フレンズ化と言うのは俺には未知の現象なので、鳥の種類によっては出来るのかもしれないが、襲われてとっさに垂直上昇するなんて機転は、あの小鳥に出来るなどとは思わなかった。
そして、案の定である。
スズメは低空飛行で、大通りへと逃げ出した。
だが、追っているのはペキニーズ。犬である。
犬と言う動物は、持久力に秀でた体の作りをしていて、獲物をとことん追いかけて、追跡して仕留めると言うタイプの狩りをする動物である。
嗅覚、動体視力等に優れた彼らは、古来より人に訓練され、特定の種は狩猟犬として、人間の狩りの友として生きてきた。
その犬が、今! 小鳥を追い始める!
――しかし、ペキニーズは愛玩犬であった。
「ぜは、ぜは、待ってー、スズメちゃん、待ってー」
へとへとになったペキニーズを後ろ目でちらりと確認したスズメはわずかに笑った。
多分、こう思っているのだろう。
『フッフーン! しょせん、空も飛べない奴らなんてこの程度なのですねー! 私にかかれば、逃げるなんて容易いものですねー!』
だがしかし、その油断が命取りだ。
次第に上昇を始めたスズメ――の、その軌道の先。
ビルの入り口に設置された屋根の上に、更なる伏兵が用意してあるのだ。
「にゃっはー!」
アメショーである。
猫は、犬とは違い、待ち伏せ形とも呼ばれる狩りの方法で獲物を仕留める動物である。
気配無く忍び寄り、獲物を待ち伏せて、奇襲する。
瞬発力の高い、強力な攻撃で獲物を仕留めるのだ。
「あばっばばばばば!」
スズメはひとたまりも無かったようで、飛びつかれた猫と一緒に地面に落ちると、そのまま猫にマウントポジションを取られて身動きの取れない状態となっていた。
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