第24話 ネコと和解せよ

「う、うにゃー……」

「そ、そんな! 大丈夫か、アメショー!」

「なんとか、大丈夫。痛いのはちょっとだけ。でも、挟まっちゃって、動けないや」


 大きな瓦礫の隙間に体が挟まってしまったらしい。

 もし、ちょっとでもずれていたら、無事ではすまなかっただろう。

 しかし、のんびりもしていられない。

 上方で崩壊、第二波の気配があったのだ。


「まずい! また落ちてくる!」

「うううううう! 出られないよ!」


 俺は付近にあった長い金属の棒を、地面と瓦礫の間に差し込んだ。


「ヒュウマ、逃げて良いよ! 私のこと、嫌いなんでしょ?」

「そ、そうだよ! 俺はお前なんて大嫌いだ! 動物なんて大嫌いだよ! でも、傷ついた猫を放って逃げるなんて、俺には出来ないんだ!」


 一瞬、何かを思い出しそうになった。

 頭がうずく。胸の奥が、少し痛い。


 ――動物は嫌い。大嫌い。

 だけど、見捨てることが出来ないこの心の正体が何なのか、俺はまだ知らない。

 思い出せない。


 とりあえず、俺は地面と棒の間に太めの金属片を挟み込んだ。

 続けて、体重をかけて棒へ力を注ぐ。

 てこの原理である。

 金属片が支点となり、ぐぎぎぎっと、アメショーを挟み込んでいた瓦礫が持ち上がった。

 そして、アメショーはするっと脱出に成功する。


「逃げるぞ! アメショー!」

「う、うう、なんか、腰抜けちゃってるのかも。上手く動けないや」

「馬鹿野郎!」


 俺は動けない猫を抱き上げて、走った。

 ゾッとするような暗い影をかわし、全力で前へ。

 そして間一髪!

 俺はすぐ後ろで、さらなる瓦礫の落ちてきた轟音を聞くことになった。


「あ、危なかった」


 見ると、アメショーが挟まっていた場所は完全に瓦礫で潰されていた。

 もし俺が助けなかったら、アメショーは死んでしまっていたと思う。

 そう思うのに十分な光景が、そこにあった。


 そして、助かったと思った瞬間、急な脱力感と共に、俺は抱き上げていた猫を地面に落としてしまった。


「いたーい!」

「すまん! お、俺も、腕が……」


 いや、足もだった。

 酷い筋肉痛のような痛みが、腕にも足にも、腰にもある。

 思えば、フレンズとは言え、女の子一人を抱き上げて走るなんて、普通だったらとてもじゃないけれど出来ない。

 だって、俺も女の子だし。

 でも、火事場の馬鹿力という奴だろうか。


 それが出来たのが本当に不思議だけれど、とにかく、俺はアメショーを抱き上げて、走れたのだ。

 そして、心配なのはアメショーである。


「アメショー、怪我してないか?」

「んー……こんなの、舐めとけば直るよ」


 ももと二の腕に、ちょっとした傷があったが、大した傷ではなさそうだ。


「でもでも、ヒュウマちゃん」

「な、なんだ、よ」


 アメショーが顔を寄せて、俺の鼻に自分の鼻を触れさせた。

 あ、あばばばばば! キスされるかと思った!

 冗談じゃねー!


「何しやがる!」

「にしし、猫式の挨拶だよー。」


 猫は鼻と鼻を触れさせるのが親愛の挨拶である。

 ちくしょう! 何が挨拶だ!

 じゃあなんだ? プレーリードックのフレンズがいるとしたら、挨拶でキスでもするのか? お前がプレーリードックのフレンズじゃなくて良かったよ!


「くそ! 俺はお前と仲良しになるつもりはねー!」

「信じないよー。だって、嫌いって言ったのに、実際は私を助けてくれたよねー。ヒュウマちゃん?」

「ぐぎぎぎ、あれは……その……」


 違うと言いたかったが、上手く説明が出来なかった。

 あれは、言うなれば俺の本能である。

 絶対にそうすべきだと思ったし、そうしなくてはいけないと思った。

 それ以外に理由が無い。


 ……くそ! こんな奴と馴れ合うなんて、ごめんこうむるぜ!

 だがしかし、今の状況で好意を寄せられていると言うのならば、話は別だ。

 キジバトが手伝ってくれないと言うのなら、こいつに頼むしかない。


 コイツしか偏れないのは悔しいが。


「ええい! どうでも良い! とにかく、アメショー! お前に手伝ってもらう! スズメを捕まえるのに協力してくれ。お前なら出来るはずだ!」

「いいよー」


 アメショーは二つ返事でそれに応えて、にししっと笑った。

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