第15話 そして二匹いなくなった

「あなたが信用できないのは変わりませんし関わらないつもりでしたが、そこのでっかいボスからジャパリまんを出せると言うのなら話は別です。そして私はついにジャパリまんを手に入れました! こっそりジャパリまんを奪う隙をうかがってたので!」


 やっぱりそうだ、このむかつく声……!

 誰だ? しっかり確認しなくては……!

 都合の良いことに、アメショーがようやく俺から手を離して転がったジャパリまんを追い始めた。

 ふん。けものめ。俺を解放したことを後悔するが良い!


 だがしかし、今は、上空にいるフレンズである。

 それは、やはり見たことのある女の子だった。


 髪は赤の入ったダークブラウンカラーの二つ結び。

 あれは、ピッグテールと言う名前の髪型だっただろうか。

 結ばれた先は、黒のメッシュが細かく散りばめられた明かるい赤茶色で、翼のような形をしている。

 服は黒い首飾りの下にわずかに覗いている白いシャツ。

 それらを胸元が開いたブラウンカラーのワンピースが取り巻き、腰のスカートから出ている足は桃色のタイツで彩られている。


 そう、こいつは「お礼をするから助けて」と、懇願した俺を「信用できない。怪しい」と一蹴して飛び去った、空を飛ぶフレンズだ。


「お前は誰だ!? 何の動物だ!?」


 俺の問いに相手は言う。


「フッフッフ。ついに聞きましたね? ならば教えましょう! 私はスズメです!」


 スズメ、だと?


 ――スズメ。

 スズメ目スズメ科スズメ属に分類される鳥類の一種である。

 ヨーロッパからロシア北部を除くユーラシア大陸、インドなどの南アジアを除くアジアのほぼ全域に生息している小型の鳥で、アフリカ大陸やアメリカ大陸などにはほとんど生息していない。

 主に、都市、農村、里などの人の居住域付近でその姿は見られ、その多くが留鳥りゅうちょう――一年を通してほとんど移動せずに生活している鳥である。

 シナントロープ。すなわち人間社会の近くに生息し、人間や人工物の恩恵を受けて共生する動植物の代表的な鳥で、日本の農村部では春は害虫を食べる益鳥だが、夏や秋には一転して稲を荒らす害鳥として扱われている。

 感謝の念と憎らしさの両方の感情を受けて、人に認知された鳥。

 そのためか、彼らは人のすぐ近くに巣を構える一方で、決して人には気を許さずに一定の距離を保って警戒している鳥である。


 ――なるほど。ようするに鳥だから空を飛べるわけか。


「そんなわけで、何者にも私は気を許さない! 信用しません!」


 スズメはそう宣言すると、ジャパリまんをもぐもぐと食べ始めた。


「お前にジャパリまんをやるとは一言も言ってないぞ! 返せ!」

「ふん! これはもう、私のものです! もぐもぐもぐ!」


 くっ、なんと言う憎らしさだ!

 と、そこでアメショーがテクテクと歩き出す。


「ちょ、待て! どこに行く気だ!」

「お腹が一杯になったからもう行くねー」


 慌てた。

 ここから離れるためにフレンズを集めなければならないと言うのに、ここで離れられたら元の木阿弥である。


「な、なぁ、アメショー! ジャパリパークとか言うところに帰すからさ! もうちょっとここにいろ! な?」

「えー」


 アメショーはふわーっとあくびをする。


「お昼寝したいしー。遊んで欲しいならまた来るからさー」

「せ、セルリアンだっているし、一人でいたらあぶないでしょうが! ここにいろよ! な?」

「うーん、でも、私、強いしー。セルリアンなんかへっちゃらだしー」


 なん、だと。

 あんな化け物をへっちゃらだと!?

 この猫、そんなに強いの!?


「さて、じゃあ、私も行きますね」


 空のスズメもそう言った。


「ま、待て! ほんとに待って! ハッピー! 逃げたフレンズって全員集まったんじゃないか!? バス、迎えによこしてくれよ! って、ダメだ! 全員じゃない!」


 話しながらもう一匹いないことに気づいたのだった。

 そう、一匹足りない。

 俺がまだ、拘束されている時に隣の家の壁を這って降りてきたフレンズである。

 確か、ヤモリとか言ってたか……!


「じゃあ、またねー!」


 猫が行く。


「私はあの、高い四角いのが一杯あるところにでも行くかな。空飛んでいけばすぐだし」


 スズメも飛ぶ。


「な、何でだよ! こんな!」


 そうして残されたのは俺とハッピービーストと、犬。あと、おっぱい。


「あ、ヒュウマ。ヒュウマの分のジャパリまん、残すの忘れて全部食べちゃった。ごめんね」


 犬が申し訳なさそうに言ったが、こんな時に何を言えばいいのか。


「いや、良いよ……ちょっと、今、食欲湧かないから……」


 いや、しょんぼりもしてられぬ……!

 俺は足元に座り込むと、地面を拳で叩いた。


「く、くそがー! なめやがって! やはり動物は敵だ! 全員とっ捕まえて弄んでやる……! 今度は戦争だ!」


 誓いにも似た決意である。


「行くぞ、犬、ハッピー、おっぱい! ――じゃない! えと、多分、鳥! 俺について来い!」


 俺は踏み出すと、庭の外へと向かった。

 とりあえずの目的地は、先ほど歩いた時に見た、ビル群。


『私はあの、四角くて高いのが一杯あるところにでも行くかなー。空飛んでいけばすぐだし』


 行くか、都市!

 俺は決意を胸に歩き出した。

 が、その瞬間、今まで黙ったままだったおっぱいお化けのフレンズが、低い声で俺に言うのだった。


「さっきから、私のこと『おっぱい。』って呼んでるけど、何です? どういうつもり?」


 明らかに怒っていた。

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