第5章 あつまれともだち

第14話 俺立てぬ

「にゃっはー!」


 俺が振り返るなり飛び掛ってきたのは忘れもしない、アメリカン・ショートヘアーのフレンズ。

 通称アメショーである。


「ぐ、ぐえー! な、何をするだー!」


 最悪の再会だった。

 風を切る音さえも後からやって来る、猛烈な奇襲である。

 ここで会ったが百年目! なんて古臭い言葉を言うことも出来ず、俺はアメショーによって地面に組み伏されてしまった。

 アメショーは俺のマウントポジションを取ると、腕で俺の体を押さえつけている。


 そうか。やはりこいつは猫だ。

 猫は例外はあるものの、その多くが単独で狩りをする動物のため、気配を殺すのが上手い。

 そろりそろりと無音で獲物に近寄る。

 そうして射程距離に入るや否や、一撃必殺の攻撃で襲い掛かり、動きを封じるのだ。

 そうして無防備になった獲物の急所を狙う肉食獣なのである。


 そう。

 本来ならば、俺が置かれている今の状況は止めを刺される瞬間以外の何ものでもない。

 これがフレンズではないリアル猫なら、肉食獣の牙が俺を襲うのだ。


「た、たた、食べないでください!」

「ヒュウマ?」


 俺が襲われていることに気づいたペキニーズが、驚いて声を上げた。

 が、それっきり何かをするように見えない。


「ぺ、ペキニーズ! 助けろ!」


 俺は叫んだ。が、犬は動かない。

 何やら様子を見ているようだった。

 ちくしょう! 俺じゃ、このアメショーに勝てないんだ! 早く助けろ!


 ……しかし、犬は首をかしげてこちらを見ている。

 つぶらな瞳をぱちくり。


 なんだ? 何を考えてるんだ? この俺が、助けてくれと頼んでいるんだぞ!?

 言い方か? 言い方が悪いのか?


「た、助けてください! お願いします!」


 しかし、動かない。

 そしてアメショーはフッフーンっとすまし顔で俺を見下しつつ、ペキニーズに言うのだった。


「助けなくても大丈夫だよー。これね、狩りごっこだから」

「なーんだ、やっぱり遊んでたのかー。良いなぁヒュウマ!」


 ばかやろー! 懐柔されてんじゃねー!

 ちっとも良くないし、何よりも遊んでるんじゃないよ!


 だが、これはまずいぞ!

 このままではこいつに何をされるのか分かったもんじゃない!


「ひー! アメショーさん! 止めてください! 何もしないでください! なんでもしますから!」

「ん? 今、何でもするって言った? 言ったよね……?」

「い、言ってません! バン・デ・申す・ルーと言ったんです!」

「……なにそれ?」


 バンッと爆発したカレーのルーが物申す……って、前回よりも苦しいし、このくだりはもう良い!

 アメショーもそのようで、早々に会話を切り上げると目を細めて、俺の耳元で囁いた。


「ところでキミ、ヒュウマちゃんって言うんだ。ねぇ、ヒュウマちゃん。私、お腹空いちゃったなー」


 舌をチロッと出すアメショー。

 や、やめろ! 何をする気だ! けだもの!

 焦る俺。アメショーはペロリと舌なめずりすると、言う。


「にしし、今さっきの話、聞いてたよー。あのでっかいボスが『ジャパリまん。出せる。』って言ってるところをねー」


 ボス? さっきもおっぱいお化けが言っていたが、ボスって言うのは、ハッピービーストのことか。


「あ、ああ。あいつ、ジャパリまん一杯持ってるらしいぞ! で、でもな! 俺が頼まないと出してくれないからな! そう言うものなんだ!」

「ふーん。そうなんだ。じゃあさ、聞いてみるんだけど、ヒュウマちゃんは毛づくろいされるのと、私にジャパリまんあげるの、どっちが良い?」


 ……。

 こ、こいつ。俺を脅迫してるのか?

 ケモノの癖に生意気な!

 だが、こんな脅迫をされたのなら俺の答えは決まってるぜ!


「ハッピー! ジャパリまんをアメショーにやってくれ! 大急ぎで!」


 すぐさま「僕も食べたーい!」と声を上げるペキニーズ。

 ……ちくしょう! こうするしかなかったんだ!

 俺は、なんて無力なんだ!

 覚えてろよ、くそ猫め! いつか絶対にぎゃふんと言わせてやる。


 と、復讐を誓ったところでカシャッと音が聞こえた。

 何が起きているのかは見なくても分かる。

 ハッピービーストがジャパリまんを出すときに開く、取り出し口の開閉音だ。

 そして。


 ポーンッと、聞いたことのない音が聞こえた。


「ふぁ!?」


 空を舞うジャパリまん。しかも複数。


「ジャパリまん。排出。失敗」


 ノイズのかかったハッピービーストの音声。


「アヒャ! アヒャヒャヒャ! ヒャッハー! ジャパリまん、いっぱいだー!」


 ペキニーズが狂ったように笑い、ジャパリまんを求めて動き出した。

 首を横にして冷静に見ている俺とアメショー。あと、さっきから一言も喋っていないので、いるのも忘れそうなおっぱいお化けのフレンズ。


 転がったジャパリまんが3個、4個と視界に映ったその瞬間、ヒュウッと何かが素早く横切った。


「いただきですよッ!」


 地に踊る影。声は上空から聞こえてきている。

 何者だ! と確認しようとしたが、アメショーに抑えつけられたままなので出来ない。

 くそっ、どこのどいつだ!?

 視界の隅にいるので、おっぱいお化けのフレンズでは無いし、そもそも声が違う。

 でも、この声、聞いたことあるぞ。

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