第20話 役立たずブルース

「ふーん、許さないって、どうしてくれるのかなー?」

「それは……ペキニーズがやっつける! 行け、犬! アメショーをやっつけろ! 体当たりだ!」


 俺はアメショーを指差した。

 気分は昔流行した携帯ゲームに登場した、某トレーナーである。

 腰にボールは付いていないけれど。


 が、ペキニーズは、怖気づいたように動かない。


「やっつけるって? 僕じゃアメショーちゃんに勝てないよ? そもそもケンカもしたくないし」

「なん、だと?」


 良く考えれば、こいつは室内犬である。

 愛玩犬である。

 力の差は歴然と言うことか?


「ならばキジバトさん! このアメショーをこらしめてしまいなさい!」


 今度は大昔のご老公の気分でそう命令した。

 手に印籠は持っていない。

 鳥も動かない。

 でぽっ、と言うと首をコロッとかしげて見せている。


「私も無理ですね。このアメショーと狩りごっこはしたくないです」

「なん、だと」

「アメショー、強いですよ。かなり。私は、負けないでしょうが、疲れるのが嫌なので」


 そんなこと、あるのか?

 いや、そう言えば、ペキニーズに「会ったら逃げるんだよ。」と助言したらしいカバのフレンズがいたらしいが、カバって、動物の中じゃかなり強いから、フレンズ化しても多分強いよな?

  なのに……そのカバも避けて通るセルリアンも「余裕。」とか、この猫は言っていたと言うことは、こいつめちゃくちゃ強いんじゃないのか?


 もしかして、こいつを力付くでどうこうするとかって、出来ない?


 ……


 絶望した! 愕然たる力の差に、絶望した!


 ……だが待て。俺はあきらめん。必ずこいつをぎゃふんと言わせてやる!

 何かを考えなければ! こいつに勝つために出来る必勝の策を!


「どうするのー? ヒュウマちゃん?」

「す、少し、時間をくれ! 時間を!」


 だがしかし、アメショーはニヤニヤと笑って、言う。


「待って、私に何か嬉しいことあるのかなー?」

「あ、あります! ほんの少しで良いんです! 俺にチャンスをください!」

「んー? どうしよっかなー。私はヒュウマと普通に遊んでるだけでも楽しいから、別に待たなくても良いんだけどー」


 チロリと舌を出すアメショー。


「それだけは勘弁してください! お願いします! なんでもしますから!」

「ん? 今、なんでもするって言った? 言ったよね?」


 し、しまった! つい、また言ってしまった!


「い、言ってません! マンデイ・モスルーって、言ったんです!」


 ……なんだ、それは?

 毎回の事ながら、なんだそれは!

 言った俺が混乱しているので、当然のようにアメショーも不思議そうな顔をしていた。

 ええい、このくだりはもう良いって!

 だがしかし、食いついてくるアメショー。


「何、それ?」

「えと、その、マンデイと言うのは英語で月曜日のことで。モスルーと言うのは新鮮なスモモのルーが……」


 言いわけが苦しいとか言うレベルでは無い。毎回の事ながら。


「……もう、意味わかんないー。げつようびって言うのも分からないしー」


 とたんに興味を無くしているアメショー。

 よし! 付け入るなら、今だ!


「うむ! そんなわけで、ちょっと作戦会議なのだ! えと、キジバト! 一緒に来てくれ!」


 必殺! 無理やりの話題展開!

 キジバトは「でぽっ」と少しだけ驚いたけれど、それでも言った。


「良いけど、どこ行くのです?」


 すかさずペキニーズが尻尾を振って言葉を続けた。


「ヒュウマちゃん? 僕は?」


 俺は犬の質問の答えを、アメショーに向けて言った。


「良いか、アメショー。このペキニーズは、人質だ。ハッピービーストも置いて行く。俺たちが勝手にどこかに行ったり、帰ってこなかった時は、好きにしてくれ!」

「えっ……!?」


 途端に青くなるペキニーズ。


「大丈夫だ。ちゃんとジャパリまん置いておくからな。好きに食べてくれよ。」

「やったー! じゃあ良いよ! 僕、人質やる!」


 何が良いのか分からないけれど、所詮は畜生だという事が分かった。


「2個か? 3個か? 欲しいだけやるぞ! いやしんぼめ!」

「ほんと! じゃあ、僕、えと、2個! 2個食べたい!」

「良いぞ。ペキニーズ、人質とさっき言ったが、これはお前に頼む大事な任務だ。この猫がどこかに逃げないように見張っていてくれ。これはお前にしか出来ない仕事だ」

「分かった!」


 ハッピービーストからジャパリまんを受け取り、犬に渡して猫にも投げる。


「そんなわけで、アメショー! 俺が帰ってくるまで逃げるんじゃないぞ!」

「わかったー。まぁ、ちょっとこのジャパリまん食べてー、それからお昼寝でもしながら待ってるねー」


 昼寝? なら、その隙を狙えば勝てるか?

 ……いや、油断は出来ぬ。もっと良い方法を考えよう。

 そんなわけで、俺とキジバトは都市の道路を歩き、猫を捕まえるための何かを探す冒険に出かけたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る