第21話 コンビニに行こう!

「コンビニまであるとはな」


 目星をつけたガラスの自動ドア。

 が、もちろん、電気が来てないので手動ドアだ。

 ガラスは割れている場所は無かった物の、かなり汚れている。

 天井、壁は劣化と腐食。


 床にはわずかに入り口からレジまで続く動物の足跡の模様が見えたが、これはちょっとしたお店のオシャレな部分だろう。

 レジには肉まんの保温機。中は空だが、もしかすると、ジャパリまんもここで売られていたのかもしれない。


 しかし、このコンビニに入るまで歩いたが、この街にはほんとに人がいない。

 全く、どこにもいない。

 セルリアン、も今のところ見ていないけれど、どこかに潜んでいる可能性はある。


「キジバト、セルリアンが出たら、頼む。そのために連れて来たんだからな」

「……ああ、どうりで。納得しました」


 キジバトはフンと鼻で笑った。


「ヒュウマはクソ雑魚ですからね」


 な、なんと言う口の悪さだ。

 いつかこいつにも、たっぷりと人間の恐ろしさを分からせてやらねばならぬ。


「しかし、商品もそのまま? 持ち運ぼうとした形跡は……そこまでは分からないな」


 大量の埃と劣化具合。

 どこを見ても、大きな時間の流れを感じさせる様子だった。

 ここで暮らしていた人達は、一体どこに行ってしまったのだろうか。


「ヒュウマ、これ、何ですか?」


 キジバトが棚から何かを持ち上げた。

 すぐには分かりづらかったが、布で出来た、何やら柔らかい物体。

 どうやら4足歩行の動物の形をしているようだ。


「ああ、それはぬいぐるみだな」

「でぽ? ぬいぐるみ?」

「布で作った、偽者の動物。作り物だよ」

「作り物」


 キジバトはそれを指でなでたりして、それから抱きしめた。

 おっぱい……じゃない。偽者の胸の上でそれを抱きしめるそれは、無邪気さそのものだった。


「ヒュウマ。ヒュウマは、作り物って、どう思います? これ、とっても可愛いです」

「そうだなー。作り物でも、可愛いよな」


 とは言え、もはや、動物を模したぬいぐるみだとは思うのだけれど、ちょっと原型が何の動物だったのかは、良く分からない。


「良いと思うよ」

「そうですよね。私もそう思います。これ、どんな動物が作ったぬいぐるみなんですかねー。とっても器用だと思うです!」

「ヒトだよ」

「でぽっ?」

「俺の種族。俺、ヒトって言う動物なんだ」


 ――ヒト。

 サル目ヒト科ヒト属の、ホモ・サピエンスと呼ばれる種で、サル目としては極めて大型の種である。

 哺乳類で唯一の直立二足歩行を行う生物とされていて、その結果、大きな頭部を支える事が可能となり、それによって大脳が大きく発達し、極めて高い知能を得た。

 また、上半身が自由になった事により、道具の使用やその作成、身ぶり言語のコミュニケーションを容易なものとし、発声と発音言語の発達を促すことになった、地球上に存在する動物の中でも、極めて特異な動物である。

 彼らは時間をかけて、巨大なコミュニティと文化を形成し、発展の最中さなか、世界の様々な法則や秘密を解き明かし、地球上でもっとも繁栄していた。

 発汗による体温の調節機能も優れており、また、寒い地域では、冷気を防ぐ工夫を凝らした住居や、防寒の衣服を身に付けると言った知恵をつけているため、生息地域の場所も選ばない。


 ――


「器用な動物なんだよ。この街だって、人間が作った。すごい動物なんだよ」

「……そうなんですね。ヒュウマは、このぬいぐるみ、作れますか?」

「作れるよ」


 多分。作ったことないけれど、布と、糸と針、それから綿さえあれば、なんとかなるだろ。

 ……多分。


「自信、無さそうですけれど?」

「ま、まぁ、その、なんだ。本職とか、ほんとに大好きな人が聞いたら怒りそうだなーなんてことを思っただけだよ」

「でぽっ? まぁ良いです。とにかく、すぐじゃなくて良いので、鳥のぬいぐるみを作ってください。大事にしますから。私、鳥のぬいぐるみ、欲しいです」

「……こ、今度なー」

「約束ですよ」


 にっこり笑うキジバト。

 ……こ、この罪悪感は、予想外、ね。


 うん。

 練習しよう。落ち着いたら、手芸の修行をしよう。


 と、ここで俺は、素晴らしいアイテムを棚に見つけた。

 生活必需品の棚だろうか。

 パッケージに包まれた軍手だとか靴下だとかと一緒に、それは静かに眠っていた。


「流石コンビニ! これだ! これがあればアメショーに勝てる!」

「でぽっ? なんなんです?」

「ふっふっふ。」


 俺の手には、カサカサになったラッピングに包まれた、拳よりも小さな物体がある。

 支払う代金は……手持ちが無いけど、店員もいないしな。

 人が一人もいないんだかrしょうがない。

 お金は今度、レジに置きに来ることにして、とにかく、俺はアメショーの元へと急いだ。


「猫! 勝負だ!」

「んー? 意外と早かったねー」


 眠っていたのか、むくりと起き上がるアメショー。


「これで勝てる。これが、お前を無力化するヒトの知恵だ!」


 粘着力が消滅していなくて本当に良かった。

 俺は地面――コンクリートにそれを丁寧に貼り付けていった。

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