第8章 たすけあい
第22話 叡知の残光
「ヒュウマちゃん? 何それ?」
「くっくっく、これはビニールテープと言ってだな。これ自体はそんなにすごくない。でもな、これを、こう、地面に貼って……」
貼る。切る。伸ばす。貼る。切る。貼る。
「出来た」
完成である。
俺が手にしたビニールテープは、ヒトが一人分入るのに丁度良い広さの、6角形の図形を地面に描いていた。
「……何それー? そんな変なので私が捕まるの?意味が分からないなー」
興味無さそうに横目で地面に描かれた囲いを見るアメショー。
だがしかし、バレバレである。
大きく、ぶらーん、ぶらーんと振られている尻尾。
猫のそれが意味する感情は、興味だ。
「さぁ、なんだろうねー」
「んー?」
六角形が描かれた地面の周囲をぐるぐると歩くアメショー。
もはや隠しきれてない。
もう、我慢出来ない! と言わんばかりに、アメショーが叫んだ。
「んんんんんんん! なんだか分からないけど、中に入ってみたーい!」
かかったな! アホが!
飛び込んだアメショーはそこに座り込むと、尻尾を大きく揺らす。
「んふー! 入ってみたけれど、何か変な感じー。でも、何これ? こんなので、私を捕まえられるって、馬鹿じゃないの? こんなの、すぐ出ちゃえるんだからねー」
しかし……
「あ、あれっ!? 出られないよ!? って言うか、動けないぞっ!? なんでー!? 不思議ー!」
俺は笑った。
昨晩、ペキニーズがいびきをかいて眠っていたことから、ヒトの形をしていても、習性自体は動物のものを引き継いでいると思っていた。
「フハハハハ! これは『猫転送装置』だ! その六角形の中に入った時点で、すでに捕獲は完了しているのだ!」
猫転送装置。
実際に転送する装置では、もちろん無い。
猫を呼び寄せ、中に入ったらばそこに留まらせると言う、ちょっとした罠である。
名前は大げさだが、作るのは簡単だ。
素材はロープでも、木枠でも何でも良い。
ペンでも、俺が作ったようなビニールテープでも可能だ。
地面に切れ目ない形でぐるりと、すっぽりと体が収まる大きさに円系の模様を描いてやれば、猫は自然とそこに入り込んでしまい、そしてその場所に心が落ち着いてしまったかのように、自分では出られなくなる。(※みんなも猫を飼っていたらやってみよう!)
猫転送装置の原理については諸説ある。
猫が居心地を確認するため入ってしまうだとか。猫の本能が身を隠す場所を探しているために、一度入ると感覚が隠れられていると錯覚して出られなくなる、だとか。
だが、詳しいことは不明で、なぜか猫が入ってしまい出られなくなると言う経験則だけが広まり、伝えられた、対猫用の必殺兵器なのだ!
「ううー。なんでー? 出られないよー」
俺は再び笑った。
大爆笑だった。
「……ついに、ついにこの時が来た。仕返しの時が来たぞー!」
待ちに待った時が来たのだ。
形にならなかった、多くの抵抗が無駄で無かったことの、証のために!
再びヒトの優位性を掲げる為に!
俺の復讐心のために!
アメショーよ! お前を辱めてやる!
だが、その時だった。
なぜだかイラッとしてしまうような不快な視線を上から感じて、俺は喜びの表情を凍りつかせた。
「誰だ! そこから俺を見ているのは!」
スズメである。
スズメはこちらを挑発しているかのような目でこちらを見ていた。
「き、貴様ー! 何を見ているんだー! いないと思ったら、そんなところにいやがって! 貴様も捕まえてやる!」
「フッフーン! 私はお前なんかに捕まりませんよ! 空を飛べる私を捕まえるなんて、あなた、馬鹿なんじゃないですか? 笑っちゃって、お腹が痛くなりますよ!」
「なんだと! ちくしょう! 降りて来い!」
「嫌ですね!」
スズメはパタパタと上空を旋回し、建物の向こう側に回り込んだ。
「ええい、猫への仕返しは後にしてやる! ペキニーズ、アメショーを見張っていろ! キジバトは俺と一緒に来い!」
「分かったー!」
元気の良いペキニーズの返事を聞きながら、スズメの逃げた方向へ走る。
良いぞ、順調だ。
このまま行けば、フレンズを全員集められる日も遠くない。
スズメを捕まえたら、後は、ニホンヤモリを見つけるだけだ!
「よし! キジバト! スズメを見つけ次第、捕まえてくれ! 空を飛べるお前にしか頼めないことだ! 頼むぞ!」
「……嫌です。何で私がそんなことしなくちゃいけないんですか?」
俺は思いっきり転んだ。
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