第4話 ピンチ脱出中 磔拘束続行中

「チョット高度がギリギリの低空だったけど、多分ダイジョウブだよ」

「あ、はい」

「……」

「……」


 しかし気まずい。こいつ、何を考えてるか全く分からない。

 まぁ、とりあえずは何でも良いや。地面に降りてから考えよう。


 ……なんて、のん気していたら台が何かに激突したらしく、酷い衝突音と、その反動を俺に伝えた。


 ぐええ、舌噛むとこだった! と、衝撃の余韻の後、浮遊感が消える。

 どうやら着地したらしい。

 とは言え、地面ではなくて建築物――傾斜のついた、屋根の上のようだけれど。


 とにかく台は屋根の角度に沿ってわずかに滑った後、ハッピービーストが張り付いていた面、俺の足側を斜め下の角度に向けて止まった。

 ここは市街地? 視界に広がるたくさんの屋根達――

 ……って、あれ? ハッピービーストがいないぞ。どこに行った?

 と、上空に視線を移したら、激突の衝撃で台から弾き飛ばされたらしいハッピービーストが風に煽られたパラシュートに引っ張られ、そのまま浮き上がって行くのが見えた。


「アワ、アワワワ」

「ハッピービースト!?」


 慌ててパラシュートを空で切り離したハッピーストは、落下したその先で着地に失敗。

 あの巨体で良く弾み、何軒もの先の家の屋根へ跳ねて、瓦を砕き散らしながら転がり落ちて見えなくなった。


 ……なんと言うことだ。

 ただでさえポンコツなのに、あれでは壊れてしまう。


「おーい! 大丈夫かー?」


 返事は無い。

 だが、再び声をかけることはしなかった。

 と言うか、周囲を気にかけてる余裕が俺に無くなったのだ。


 信じたくなかった。

 だが、それは確実に動いている。


 ――台が、ゆっくりと屋根を滑り落ちようとしているのだ。


 屋根に傾斜がついているから当然なのか?

 でも、こんなの絶対おかしいよ! 一回止まったじゃん! 何でまた動いてるのさ!

 お、落ち着け! ここは冷静にならねばならぬ。

 ……うん。じたばたしたら余計に動きそうな気がするな。

 声を出すのもめよう。

 そしたら台もまるはず。


 そんなわけで、俺はジッとすることにした。


 でも、滑り落ちるスピードは落ちず、ふとした瞬間にズルッと増して……


「ひ、ひーっ、お助け!」


 台はぐんぐんスピードを上げて屋根を滑り落ちると、端から垂直に落下。

 落ちる瞬間、台は地面に直角90度の角度に傾き、俺は足を下にして落ちて行った。


 ぐえー! スカートがめくれる! いや、気にしてる場合じゃないけれど!


 台はすぐ下のベランダに引っかかり、と思ったらベランダを破壊してさらに下へ。

 柔らかい土の地面に突き刺さり、俺の足首ごと地面に数十センチ埋まって、今度こそようやく止まった。


 ……奇跡だ!

 拘束された状態で爆発するヘリコプターから落下して、って書くと脱出ショー並みの高難易度でほんとに酷いけど、良くそんな状態から助かったよ!


 …………


 ……


 ……いや、助かってない!

 今、俺は足首まで地面に埋まり、ベルトで台に拘束、固定されたまま某聖人よろしくはりつけの姿勢で動けなくなっていた。


 危機は脱したけど、依然ピンチ。かなりピンチ。


 うう、これ以上のピンチなんてそうそう無いかもしれないけれど、とりあえずなんとかしてここを脱出しなければ――

 と、その瞬間、目の前にある茂みがガサガサと動き出した。 


 えっ、まさか、動物!? このタイミングで?

『泣きっ面に蜂』と言うことわざがあるけれど、これはまさにそれだ!

 

 ぐあああああ! 誰でも良い! 助けてくれ!

 俺はヘリの中で見た悪夢を思い出して、死に物狂いで拘束から抜け出そうとした。

 でも、このベルト、ほんとに切れない! 外れない!


「助けて誰かー!」


 と、そう叫んだけれど、逆に俺の声に応えるようにして、目の前の茂みから何かが飛び出してきた。

 しかし――


「もー、せっかくお昼寝してたのに。うるさいなー」


 姿を現したのは女の子だった。


 黒とグレーの縞々オーバーニーソックス。

 そのすぐ上に同じ模様のスカート。

 服は白いけれど、首周りにはやはり縞模様の首当てで、肩から下の腕は、指先までしっかり覆っている同じ模様のロンググローブ。

 頭に猫耳。でも、顔の側面にはちゃんと人間の耳があって……なんだか不思議な感じのする女の子だった。


「あなたはだーれ? 何のフレンズ?」

「お、お前こそ、誰だ? ……フレンズ?」

「私はアメリカンショートヘアのアメショーだよ。あなたは? なんでそんなところで動けなくなってるの? それって何ごっこ? 楽しい?」


 アメリカンショートヘア。確か、ネコの品種だ。

 ハッピービーストとの会話が、頭の中で甦る。


『フレンズって何?』

『サンドスターの影響でヒト化した動物のことだよ。』


 フレンズ? これが?

 首当てにでっかいリボンを付けたネコ耳少女、アメショーは、お尻から伸びてる尻尾を左右にゆっくり、大きく振りながら、じっくりと俺を見ていた。

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