第4章 たたかい
第11話 ペキニーズ・ザ・グレート
――犬。
広義での「イヌ」は広くイヌ科に属する動物(イエイヌ、オオカミ、コヨーテ、キツネ、タヌキ等)の総称である。
その中でもイエイヌは人間の手によって作り出された動物群であり、人類史上、最も古く家畜化された動物と考えられている。
彼らは狩猟等でヒトに使役される一方、ヒトの感知できないものを察知できる神秘性を持つ
有名なものでは古代エジプトでは犬の頭を持つ『アヌビス神』が死を司るとされ、ギリシャ神話では冥界の門を、頭が複数あるケルベロスと言う名の犬の怪物が守っているとされている。
そして、ペキニーズは中国歴代王朝に寵愛を受けてきた愛玩犬であるが、彼らもまた、神聖な動物とされて重大な任務を持たされてきた犬である。
『彼らを害するものは死罪。』
それほどの扱いを受けていたのは、彼らがその仕事を任されていたからに他ならない。
彼らは中国王朝の皇帝の没後、その葬儀において遺体の収められた棺を先導すると言う、極めて重大な任務を持たされていたのである。
1908年に没した
――
そして、今。
そのペキニーズが危険が迫っていると知らせてきた。
俺も壁の向こう側に何かがいると感じたが、その気配は一瞬で消え去り、気味の悪い静寂がそこに残されている。
さっき、ペキニーズはなんと言った?
セルリアン?
それはジャパリコプターの中で、ハッピービーストに聞いた話の中でも出てきた単語である。
『サンドスターが山から吹き出たんだ。その時にセルリアンがたくさん出現して、それで逃げてたフレンズが何人か、エリアの外に出て行ってしまったんだよ。迷って帰って来れないみたいだから、ヒュウマに連れ戻して欲しいんだ。』
……なるほど。
なんだか知らないが、そいつのせいでフレンズが逃げたらしい。
ようするに原因である。
俺がこんな仕事をしなくてはならなくなったのは、全部そのセルリアンとか言う奴のせいなのだ。
ふつふつと怒りが沸いてきた。
いや、それは今は良い。
とりあえずっと、俺はペキニーズを閉じ込めていたザルを持ち上げて、言った。
「おい、犬。さっさと出ろ」
「え! 出してくれるの? 僕のこと信じてくれるって事?」
「俺は自分の知識を信じている。それだけだ」
俺が感じただけなら『気のせいかもしれない』で済むし、そうしただろう。
だが、このペキニーズも嫌な感じがすると言うのならば、それは無視するわけにはいかない。
なぜならば、犬は聴覚、嗅覚、動体視力など、人間と比べると様々な感覚が格段に優れているのだ。
神秘性があると言われる
と、持ち上げたザルの下、にっこり笑いながら飛び出たペキニーズが、尻尾を振りながらこちらを見て座った。
「ヒュウマって、良い奴だったんだな!」
ええい、なつくな! 近寄るな!
「……って、何でそこで座ってんだ! 危険が迫ってるんじゃないのか!?」
「あ、そうだった! ヒュウマ、ここは危ないよ! 逃げよう!」
「逃げる?」
逃げなきゃいけないほど危険な奴なのか?
いや、そうじゃなきゃこいつらもジャパリパークとやらから逃げ出さなかったか。
でも、一応聞いてみる。
「セルリアンってなんだ?」
「えっ、セルリアンを知らないの!?」
純粋な驚きがペキニーズから返ってきた。
「……来るわ」
声を上げたのは、俺と犬のやり取りを見守っていた、おっぱいお化けのフレンズである。
「来る? どこから?」
「そこから」
フレンズが指差した先は壁。
先ほど、気配を感じた方角である。
「へっ! セロリだかなんだか知らないが、来てみろってんだ! 俺がぶっ飛ばしてサラダにしてやるぜ!」
握りこぶしをギュッと固めた。
くっくっく、こう見えて俺は割りと力持ちだ。
どのくらいの力があるか教えてやろうか?
聞いて驚くがいい。
なんと、腕立て伏せを20回も出来るのだ!
しかも休まずにだ。
どうだ! すごいだろう?
……まぁ、ベルトは切れなかったけれど、何とかなるだろ。
「ヒュウマ! 逃げよう!」
「任せておけって言ってるだろ! 相手がフレンズじゃないなら、俺だって……」
しかしその一瞬、冷静な思考が頭を走った。
ちょっと、待てよ。
フレンズじゃなければ勝てる、と思ったけど、そもそも、俺よりもずっと力を持ってるそのフレンズが逃げようって言ってるって事は、もしかして、セルリアンって、フレンズよりも強い?
そして、その結論に達したその瞬間、目の前の壁が爆裂した。
粉塵! 続いて飛来してくる破片。
瓦礫が崩れ、バラバラに割れ、細かく飛び散り、向こう側が露になった。
その先には、何やらテカテカとしている謎の物体。
ゼリーのような表皮を持った、なんとも形容しがたい化け物がそこにいた。
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