第18話 おはよう、朝のたわわ

「お前は、キジバトだ!」


 そう、俺の動物知識に不可能はない。

 こいつはキジバトで間違いないのだ。


「……良く分かりましたね。教えてないのに」

「鳴き声が特徴的だからな」

「まぁ、良いでしょう。許してあげます。正解です。私はキジバトです」


 ――キジバトは、鳥綱ハト目ハト科キジバト属に分類される鳥である。

 生息地は、ユーラシア大陸東部から日本。

 寒い地方では、冬の訪れにあわせて南下する漂鳥ひょうちょうだが、基本的に留鳥りゅうちょう――年間を通して同じ場所に生息し、季節による移動をしない鳥である。

 日本ではヤマバトとも呼ばれ、かつては山岳地帯に生息していたが、狩猟の制度の変更により狩猟地域等の制限が行われた結果、ヒトを恐れなくなり、人間が暮らす都市部へと、その生活範囲を広げた。

 しかし、ヒトを恐れなくなったと言えど、一般的なハト――カワラバトと比べると、明らかに警戒心が強いハトである。


 ――そんなわけで、さっき聞いた鳴き声が「でーでーっぽぽーっ。」っと言う、「何か鳴いてるけど何が鳴いてるのか分からない、ふくろうの仲間かな?」だとか言われたりもする特徴的な鳴き声だったので分かったのだ。


 キジバトか。

 ならば、もしかすると……

 俺はキジバトに向かって一つのお願いをすることにした。


「……なぁ、キジバト、突然のお願いなんだけど、ちょっと、触っていいか? 胸」

「でぽっ?」

「仲直りするために、どうしても必要なことなのだ。頼む」


 ……別にいやらしい気持ちで触ろうとしているわけではありま、す。

 いや、嘘。

 あるといえばあるし、無いと言えば、無い。

 ただ、ちょっと、確認。一応。うん。


 ……いや、だってさ、鳥は哺乳類じゃないんだぜ?

 だとすると、このおっぱいは、見た目だけの可能性がある。

 実際のハトだって、あれは巨乳に見えるけれどおっぱいじゃない。

 鳴き声を出すための喉袋って器官だったり、筋肉だったりするからな!


 そんなわけで、そろっと手を伸ばして、触る。

 すると、指が巨大なそれに苦も無く沈み込んだ。


「……」


 あ、あれ?

 ふわふわ柔らかくて、あったかくて……う、うそだ。


「面白いですか? ……なんで、はぁはぁしてるんです?」

「ち、ちがう、はぁはぁ、これは、動揺の息づかいです」


 興奮はしてないよ!

 してないけれど、指が、勝手に震えているだけだよ!

 しかし、この柔らかさ、弾力……嘘だろ?

 これ、おっぱいなのか? ほんとにおっぱいなのか?


「う、ううううう」

「?」

「うがー! 俺は認めねぇ! これはおっぱいじゃない! お前はキジバトだからな! 哺乳類じゃないからな! だから、これは偽者だ! この偽者おっぱいお化けめ!」

「でぽっ!? 何を言うんですか、ヒュウマは!」


 大丈夫だ。俺は、冷静だ。


「偽者なら、俺はお前と喧嘩したりはしない。うん。大丈夫だ」

「ヒュウマちゃん? 変だよ? どうしたの?」


 心配げな顔で覗き込んできるペキニーズ。


「やぁ、ペキニーズ。朝は美しいな。まるで俺の心の中のようだ。そうだろう?」


 キラキラしてるぜ、朝日。


「と言うわけで、俺たちが喧嘩する必要はもうない」


 無い。無いったら、無い。だって、あれは偽者のおっぱいなのだから。

 うん。


「とりあえず、行くか。俺と、ペキニーズ、それからキジバトとハッピー。この仲間達なら、スズメだろうがネコだろうが、とっ捕まえてやれるはずだ。行くぞ」


 に落ちない顔をしながらも、付いてきてくれるフレンズ達。

 とは言え、朝日の中、セルリアンの姿は多少見たものの、その大きさは昨日のアレとは格段に小さく、また、こちらに気づかなかったため、少し遠回りしただけで、あっさりとビルのある場所まで来れてしまった。


「しかし、ここ、どこなんだ? 来るまでも誰もいなかった。こんなビルもあるのに、ここにも、ヒトが一人もいない」


 道路の真ん中。

 マンホールに描かれた、けもの耳の生えた『の』の字。

 腕を組んで周囲を見渡す俺に、ハッピービーストが壊れかかった音声で、言った。


「ジャパリパーク。都市部」

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