第30話 オー! ナマイキ―

 スーッと降りて来る、鳥。


「詳しく聞きたいって言ってるんですけど。何で黙ってるんです?」


 何で黙ってるかって、それはお前も容疑者だからだ。

 ……なんて直接に言えるはずもない。

 どうしようかと迷っていても、スズメは遠慮なく言って来る。


「早く答えなさいよ、ヒュウマ!」

づけしてんじゃねー!」


 そう言えばこの鳥、『私もヒュウマちゃんって呼んでも良い?』とか言ってたか?

 こいつに言われると腹立つな。

 で、顔に出てたらしい俺の表情を見て、ニホンヤモリが聞いて来た。


「ヒュウマはちゃん付けされるのが嫌いなんですか?」

「あたりまえだ! 動物ごときにちゃん付けされてたまるか!」

「そうなんですね。それじゃあ、私もヒュウマちゃんって呼びますね」


 ……は?


 ヤモリの顔を見ると、ニヤリと笑っている。


 ……どういうことだ?

 こいつ、今の俺の言葉をちゃんと聞いていたのか?


「ヒュウマが嫌がるなら、ちゃんをつけます」


 しっかり聞いていてそれか!

 ぐぐぐぐぐ、こいつら……!


 怒りのあまり言葉を失う俺。

 と、俺をよそに、二匹で語り合うトカゲと、スズメ。


「ところでお久しぶりですね、スズメ」

「そうね、ニホンヤモリ。あなたは今までどこにいたの?」

「え? ヒュウマちゃんも同じこと聞いてきましたけど、不思議ですね。ずっと一緒にいましたが?」

「そ、そうなんだ」


 小鳥も気づいてなかったのか。

 と言うより、気になる言葉が。

 今、このクソ鳥はなんて言った?


「おいスズメ。そう言えば、お前、キジバトに会った時も、『久しぶりですね』って言ってたか?」

「え? それは、確かに言いましたけど。それが何?」

「キジバトとはいつから知り合いなんだ? ここで迷子になる前か?」

「そうですね。もともと住んでいた場所が近かったので、昔からの知り合いです」


 ってことは、じゃあ、こいつとキジバトはシロか?

 いや、まだ結論を出すのは早いかもしれない。

 結論を出すのはまだ早いかもしれないけれど、ニホンヤモリはそうは思わなかったらしい。


 あのマンガを取り出して、こう言ったのだ。


「スズメ、それならばあなたとキジバトは信用できそうです。まずはこれを見て欲しいです」

「お? それは、ギロギロじゃあないですか」

「そうです。このエピソードは見たことありますか?」


 スズメは一目見ただけで、タイトルを言い当てた。

 俺が知らないだけで、有名なマンガなんだろうか。

 いったい誰が描いてるんだろう……きっと、ジャパリパークでは有名で、偉大な先生なんだろうな。


「ありますよ。フレンズそっくりなセルリアンの回ですね。ああ、なるほど、そう言うことですか」

「はい。そう言うことです。誰かがセルリアンの可能性がある」

「なるほど……言われてみればこの状況は同じですね。確かに不安になります」


 通じ合う二匹。蚊帳の外の俺。


 ちくしょう。

 そんな簡単にスズメの奴を信用していいのかとか、いろいろ言いたい。

 って言うか、本当に信用していいのか? キジバトも。

 何とかして二匹の会話に入らなければ。

 なぁ、お前ら! 俺も会話に入れてくれ! 頼む!


「セルリアンが私たちの中に紛れ込んでいるとしたら、スズメは誰が怪しいと思いますか?」

「それはヒュウマちゃんですね」

「ふぁっ!?」


 な、なんてこと言うんだ!

 会話に入れてくれとは思ったけど、そう言う事じゃねぇ!


 ちくしょう!

 こいつら……本当になんてこと言うんだ!

 あまりにもな発言に、怒りで心がどうにかなりそうだぜ!


「俺はセルリアンじゃない! ヒトだ! お前ら動物なんかよりも、もっと、ずっとすごい生き物なんだぞ!」


 だけど、二匹は俺の発言でますます怪しく思ったらしい。


「そもそも私、ヒトって動物は知らないです」

「私も。だいたい、ヒュウマちゃんは最初から怪しいと思ってたんですけど?」

「ヒュウマちゃんは一体何なんです? どこから来たんですか?」

「何で、あのでっかいボスと喋れてたんですか?」

「何であのでっかいボスと喋れるくらいしか出来ないんですか?」

「何でそれしか出来ないのに、ジャパリまん持ってきてくれないんですか?」

「ぐ、ぐぐぐぐ、お前ら……!」


 侮辱すんじゃねー!


 確かに俺はセルリアンとも戦えないし、おっぱいもあんま無いし、ハッピーの奴にジャパリまん出してもらうくらいしか出来ないけど、そこまで言うこと無いじゃないか!

 ピーチクパーチク騒ぎやがって!

 だから動物は大っ嫌いなんだよ! 特に鳥とトカゲは!


 でも、やはり引っかかるのはジャパリまんだ。

 ジャパリまん、ジャパリまん……


 ……


 ちょっと待て。

 俺の頭の中で違和感がよみがえる。


「なぁ、お前ら。キジバトの奴、ジャパリまんの事、ジャパまんって呼んでた気がするんだけど、ジャパリまんの事、ジャパまんって呼んだりもするのか?」

「ジャパまん?」

「うーん、あまり呼ばれはしないですけど、そう呼んでる子もいたような……」

「ハッキリしてくれ! そういう細かいところでキジバトがセルリアンか分かったりするかもしれないだろ!?」


 でも、俺の言葉にムッとした顔をする二匹。


「たかがジャパリまんの呼び方ぐらいでセルリアン扱いですか?」

「やはりヒュウマは怪しいですね」

「ええ、少なくとも、我々フレンズとは何かが違う気がする。ヒトって動物のことも良く分かりませんし。すごい動物とも思えません」


 ぐっ……!

 なんて冷たい目をしやがるんだ、こいつら。


 だんだん、泣きたくなってきた。

 何で、俺をセルリアン扱いするんだ、こいつらは。

 俺は、ヒトだぞ?

 ヒトなんだぞ?

 動物と違うのは当たり前じゃないか!


 記憶は無いし、どこから来たのかも分からないけど、俺は……


 俺は……


 俺は、本当にヒトなのか?

 セルリアンじゃないのか?


 だんだん自信が無くなってきた。

 でも、だからと言って俺がセルリアンだなんてことは認めるわけにはいかない。

 こいつら見ても食べたいだなんて全然思わないし。

 って言うか、そんなの思ってたまるか!


「俺は違う! 絶対に違う! とりあえず俺以外で考えろよ! キジバトが違うって言うんなら、誰がセルリアンだって言うんだ?」


 その時、ふと背後に気配を感じて俺は振り返った。


「ねぇ、何の話をしてるの、ヒュウマちゃん? あ、ニホンヤモリちゃんだ、そこにいたんだ。んだねー」


 お前までここに来たのかよ。

 そこには、にっこりと笑うペキニーズがいた。

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