盗賊ギルドのダッキ

第21話 謎の少女を追え

パラト歴215年4月の末(異世界滞在 一ヶ月経過)

アトネス3等地区 


 竣工式での服毒未遂事件から、3週間ほどが経った。

 事件の余波はほとんど落着き、アトネスの民は平和な日常を送っている。

 一方、城の方ではグシャンの地位剥奪の報とメドゥ帝の謝罪文、賠償金が届けられたものの、今でも同国への警戒を続けている。

 

 そして、<グルゥクス>としての初仕事を終えたオレは、そんな世界情勢から離れ、冒険者稼業にいそしんでいた。

 今後の活動資金の貯蓄とか、装備の強化とか、 



 オレは通い慣れた道を進み、冒険者ギルドの戸をくぐった。


「お、黒髪の。この討伐依頼、一緒にやるか?」


 入って早々、依頼掲示板の前に居た軽装鎧の若者が気さくに話しかけてきた。


「珍しいな、ソロ専門のリートがそんなこと言うなんて。対象は?」

「ネェル・スネェク。アトネス南部で目撃されただけだが。多分お前が最初に倒したヤツのこどm・・・」

「いやだ!!」


 トラウマをほじくられそうになったオレはさっさとリートから距離を置く。

 ・・・野郎、断るの解ってて吹っかけたな。

 リートの笑い声を背中に受けながら奥へ進んでいくと、次に重装鎧を着た大剣使いと少年を見かけた。


「あ、ジェイルさん」

「よう、ジェイル。久しぶりだな」


 <諸刃もろは>のチェスターさんと弟子のセイ君が、いつもの席に陣取って声を掛けてきた。


「お、チェスターさん、護衛任務終わったのか。・・・その傷、山賊でも出た?」

 

 セイ君が包帯を巻く左腕を見て、オレは尋ねる。


「おう、従者の一人が買収されてやがってよ。街に着く直前に襲われたんだ。ま、その裏切り者ごと、全員してやったよ」

「・・・で、いつもどおり、護衛対象の商品も斬っちゃった、と?」


 からかうように問いかけると、マッチョマンの顔がひきつった。


「おまっ!俺がいつもそんなヘマしてるみたいに・・・。まぁ、東方産の絹を1箱、やっちまったが・・・」

「おかげで報酬が半減したんですよ。そして腕の手当てでさらに半減。まぁ、いつも通りです」


 気のせいか、セイ君の顔に“くま”と青筋が浮かぶのを見て、オレはそそくさと二人から離れる。

 

 こんな風に、この一月で顔馴染みになった者たちとのやり取りを交えながら、オレはカウンターへとたどり着いた。

 

「あ、ジェーンさんじゃん?おっひさ~」


 机越しに、ステラ嬢が今日も元気満タンな声を掛けてくる。


「ジェ・イ・ル・な!いい加減覚えてくれよ、ステラ嬢」

「え~、だって見た目も言動も男っぽいんだもん。名前ぐらいは女の子っぽくしなくちゃ、男が寄ってこないってカンジ~?」

「そう言うのに興味ないから、良いんだよ」

「もう、ほんと欲がないよねぇ。そんなんじゃ、シレイアさんみたく婚期を逃すんじゃね?」

「ステラ嬢より早く相手が見つかれば、それでいいよ」

「うわっ、腹立つ~~!」


 プックリと頬を膨らませる“彼氏募集中”な受付|ギャルとのやりとりも、すっかり馴染みの光景だ。

 口調をギャル語から営業モードに切り替えて、ステラ嬢は尋ねてくる。


「・・・それで、今日はどんな依頼にします?一昨日の盗賊団討伐で結構稼いだんだから、簡単な採取系とか?」

  

 ただ、いつものオレは、この後討伐系の依頼を受けてさっさと退散するのだが、今日は違う。

 

「いや、今回は依頼“する側”だ。ちょっと探してほしい女性がいる」


 オレはポーチから羊皮紙を出し、ステラ嬢に見せる。

 羊皮紙には、一人の幼い女の顔が描かれており、端には特徴が箇条書きされている。

 オレが事件の夜の記憶を基に描いた、正体不明の給仕の似顔絵だ。


『女性。10代後半。蒼い髪、前髪は長く左半分を覆っている。左目は赤、右目は金色』


「ずいぶん詳しく解ってるんですねぇ。こんな特徴的な人なら、私でも一回で覚えられそう」

「ところがこの御嬢さん、何らかの幻惑魔法が使えるらしくってね。目撃したはずの人間の中で、容姿を覚えているのはオレだけだったんだ」


 2人目の入れ替わりが発覚し城へ呼び出された時、オレはその場にいた皆に、少女の容姿について確認した。

 だが、俺の真横に居たアトネス王でも、少女の髪が蒼かった事すら覚えていなかった。

 RPGゲームを元に創造された世界だが、そこまで奇抜な色の髪は、先天的には存在しないらしく、また、わざわざ染める様な流行が起こった事もないという。


 何らかの魔法を使用し、それがオレにだけ効かなかった。それがアトネスの重鎮たち(というより魔導ギルド長)の立てた仮説だ。

 (オレも概ね同じ意見なのだが、オレに効かなかった原因が『<グルゥクス>だから』というのは、なんかズルをしたみたいで心地が悪い)。


 で、今日までギルドの依頼をこなしつつ、方々ほうぼうに聞いて回ったものの、謎の少女に関する手掛かりは見つからず、ダメ元でギルドに依頼を出すことにしたのだ。

 オレはステラ嬢に、この人物が城の給仕と入れ替わってオレに接触したことだけを説明した。

 毒殺未遂事件に関係している事は、国王から口止めされていた。


「ふむふむ・・・幻惑魔法を使う、ですか」

「最悪、ヒトじゃなくて魔物って可能性もあると、オレは考えている。一応、銀1枚を報酬に考えてあるけど、相場としてはどうだろう?」


 この世界のギルドに依頼を出すのは初めてだが、FFOでのクエスト作成経験が役に立った。

 のゲームではNPCが存在しないため、プレイヤー同士で不足しているアイテムを別のアイテムかゲーム内通貨と交換していたのである。

 ゲームでありながら、現実と同様の商取引が出来たのも、あのゲームの醍醐味だいごみだった。


 まぁ、最古参であるオレは、もっぱら初心者向けに依頼を作る側だったのだけれど。

 序盤のボスと称して、初心者には不要な上級素材を落とすモンスターを狩らせたのは、良い思い出である。


 と、オレが回想をしていると、依頼内容を吟味していたステラ嬢が回答する。

 が、何やら迷っている様子だ。

 

「ええっと。依頼内容と報酬については問題はないのですが・・・。

 相手が相手なので、受ける冒険者が現れないかもしれません」

「あ~やっぱり、魔法使いだから?」


 予想はしていた答えなので、オレも冷静に応える。


「ええ。元々失せ物探しや人探しは、ギルドが仲介しない事がほとんどの、かなり初心者向けの案件なんです。

 幻惑魔法を使えるという事は、そういう人たちの手に負えないと考えたほうがいいです。

 一方で、魔法に耐性のある手練れの冒険者は、報酬が良い討伐系や護衛に集中していて・・・」

「この手の依頼を選ばない。かといって、彼らが受けようと思うほどの額を出すような内容でもない。『帯に短し、たすきに長し』、か」


 ギルドを頼っても、情報が得られる可能性は低い。ならばこれまで通り、地道に聞き込んでいくしかない。

 

 そう思っていると、ステラ嬢から思わぬ提案がされた。


「もしかしたら、情報屋さんが何か知っているかもしれませんよ」

「・・・情報屋?ステラ嬢は伝手があるのか?」


 あらゆるジャンルの作品で、ヒントをくれる重要人物としてお馴染みの存在、情報屋。

 オレも、どこかにいるんじゃないかと一度は探してみたものの、自力で見つけられずに諦めていた選択肢である。


「ええ。東側の3等地区に居ますよ。ジェミナンス共和国から流れてきたっていう二人組で、『ネズミのしっぽ亭』って酒場兼宿屋さんに住み込んでるんです」


『ネズミのしっぽ亭』・・・どこかで聞いたような?


「一見さんは無視されちゃいますけど、私が一筆書きますよ。彼らは城や各ギルドとも繋がりがあるので・・・」


 言うが早いか、ステラ嬢は手近のメモ用紙に、小さい字で文を書き付けた。

 オレはそれを受け取りながら、最後にひとつ確認する。


「ありがとう。その情報屋さんの名前、何て言うんだ?」

「イヤヤさんとコヤヤさん、です」


 ・・・なんだ?その先生に告げ口したくなる名前は?



(「い~や~や、こ~や~や、せ~んせ~に、いってやろう」って、今どきのガキンチョたちは知っているのかな?by作者)

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