第13話 初の依頼
ギルドマスターと入れ違いに、茶髪メガネの青年職員=キースが書類を手に戻ってきた。
「お待たせしました。ジェイルさん。こちらに必要事項のご記入、お願いしますね」
「ありがとう。・・・あっちか」
書類を受け取ったオレは、カウンターから向かって左側、集会所の奥に設置された記入台へ進み、中身を確認する。
2枚
名前、性別、その他・・・。記入台に備え付けの羽ペンで、すらすらと空欄を埋めていく。
が3か所だけ、どう書こうか迷う部分があり、他を書き終えたオレは頭を捻った。
すると、背後で見守っていたイリアスとアイクさんが、ノソッと肩越しに覗き込んできた。
「どこか解らないとこが?」
「ええ。オレの出身地なんだけど・・・」
「・・・あ、そっか。ジェイル君って異世界人だもんね」
「そう、素直に日本って書いていいのかどうか。あとここ。『得意な戦法・魔法』って、どういう・・・?」
すると、アイクさんが解説してくれた。
「その二つは、依頼でパーティを編成する時に参考とする情報だ。14ヵ国の中には、文化や習慣の違いから一緒にするのが不味い組み合わせがあるんだ。
出身地は・・・アトネスとしておけばいい。ここは中立都市だから、そういうイザコザは滅多にない」
「なるほど。アトネス、っと」
「『戦法・魔法』は、特に討伐系の依頼で重要となる。例えば、隊商で護衛に向いている者を多く用意したい時や、アンデッドモンスターが相手で、魔法職が欲しい時だな」
「さっき、元の世界で模擬戦をやっていたって言っていたよね。その時はどんな戦い方を?」
イリアスに問われて、オレはFFOでのプレイスタイルを思い出す。
「・・・遊撃が主かな?隠密行動を主軸に、罠、不意打ち、弓での狙撃」
「どこの暗殺者よ、それ」
女騎士殿はツッコミを入れるが、オレは気にせずに書類へ記入した。
だって『ゴリ押し』戦法嫌いなんだもん。
まぁ、彼女のいう事ももっともなので、オブラートに包んだ表現で。
出来上がった書類はこうだ。
『名前:ジェイル 性別:F 年齢:22
出身地:アトネス
得意な戦法:遊撃、弓
得意な魔法:特になし 』
アイクさんにも見てもらい、不備が無い事を確認する。
「・・・うむ、大丈夫そうだ。魔法を使わない人も大勢いるから、気にしなくていい。ジェイルは狩猟系に向いてそうだな。オレと同じだ」
ちなみにアイクさんは、長剣と片手斧による近接戦闘が主で、簡易の治癒、火炎魔法が使えるそうだ。
物理と魔法の両立か、オレもやってみたいなぁ。
オレはそんなことを考えつつ、彼から書類を返してもらい、カウンターへ持っていく。
すると、キースとは別の職員に声をかけられた。
「新規登録の方はこちらです」
「あ、どうも」
今度の職員は、髪をツインテールにした、まだ10代といった見た目の少女。さっきのギルマスとのやりとりの時は居なかった子だ。この時間だと昼休みからの戻りだろうか?
彼女の座るカウンターには、『各種受領』のプレートがあった。
「初めまして、私はステラ。依頼の受注や相談、パーティメンバーの募集も担当しています。書類をお預かりしますね」
「ども、ジェイルです」
気さくそうな受付嬢に笑顔で返しながら、オレはインクの臭いが漂う履歴書を渡す。
絵に描いたようなニコニコ顔でそれをチェックするステラ嬢。
だが直後、目を大きく見開き、オレの顔と書類を見比べ始める。
「え、性別F!?ジェイルさんて女!?〝マジありえないんですけど~”」
「・・・は?」
突然の
「いやでも、よく見ると女っぽい?てゆ~か~、どっちか解りづらいってかんじ~」
・・・ギャルだ!!元の世界では絶滅危惧種と化した女子、ギャルが異世界に居た!
(そう言えば、FFOのギルドのどれかに、そういうロールプレイをする所があったような・・・。まったく、変な所をリスペクトしやがって)
そう一人で呆れていると、突然目の前に何かが差し出された。
「ほい、ジェイルさんのメンバーズカード。内容変更や紛失とかでの再発行は、銅貨3枚で承るっす」
「お、おう・・・どうも」
受け取って確認してみると、書類に記載した内容と発行場所であるアトネス本部の名が、免許証サイズの真鍮製プレートに彫り込まれていた。
あの無駄なリアクションの間に、これだけの事をやってのけたのか?
「彫り込むのは魔法で簡単に、誰にでもできるっすけど、ギルドじゃ私が一番早く、しかも的確に作れるんっす♪
ただの空気読めないおバカじゃないんすよ、私は♪」
どやぁっと笑みを浮かべて、ステラ嬢はウィンクをキメた。
「こりゃ失敬」
尊敬の念を込めた謝罪を告げて、オレはイリアス達の方を振り返った。今の騒動を聴いていたのか、若干顔が引きつっている。
・・・ん?そういえば。
オレはふと気になって、二人に尋ねる。
「なぁ、イリアス、アイクさん。2人はオレの事、〝どっち”だと考えてた?」
もちろん、性別の事である。
すると、目の前の冒険者と近衛騎士の
「実は・・・我が家全員、最初は男だと思っていたんだ。話し方がアレなのと、顔つきが・・・な?」
「でも、寝ちゃった君を着替えさせるときに、・・・その、“有ったり”“無かったり”で」
「ああ、大体解った」
はぁ、つまりオレの第一印象は、男に見える、と。
そういう風にロールプレイしていたとはいえ、実際にこんな扱いをされると、なんかへこむなぁ。
もういっそのこと、男で通していこうかな?
暫く後
ギルド集会所 掲示板前
オレは自分の実力を測るべく、早速依頼をこなすことにした。
アイクさんは一足先に帰宅し、オレはイリアスと共に、掲示板の前に佇んでいる。張り出されているのは、RPGではお馴染みのクエストばかり。
素材集め、害獣モンスターの駆除、隊商護衛等。
『血糊のクリット』のような賞金首の情報は、此処にはない。ターゲットが何時何処で捕まるか判らないタイムリーな案件であるため、窓口で扱っているという。
(まぁ、そっちに手を出すつもりはないけど)
あんな小物程度で手詰まりに成ったのだ。暫くは一般依頼に絞るのが賢い選択というもの。
そんな事を考えながら、張り出された依頼書をチェックしていく。
文庫本サイズの紙に、依頼の内容と依頼主の名、期限の有無(あればその期間)がコンパクトにまとまっていた。
「え~と『アルエの果肉』採取・・・傷薬の材料か。
『ネェル・スネェク』の討伐・・・畑を荒らす害獣の駆除。きっと普通の蛇じゃないよねぇ。
『カルナトス』までの案内・・・護衛任務kっと、これ昨日出発してるじゃん」
いろいろ見ていくと、その他の依頼は鉱物の採取や二桁単位でのモンスター討伐ばかりで、どれも『熟練者推奨』というスタンプが押されていた。
今のオレに可能なのは、最初に目が行った採取か駆除の依頼だろう。
もう一度、依頼内容を確認する。
「『アルエの果肉』はアトネスの南、サロニック平原で採取可能。依頼主は、前回の採取で足を負傷したので代理を探している、か。
で、『ネェル・スネェク』の方は・・・」
「西門を出たダフニー山地にある農園周辺で、目撃。そこのおかみさんを始め、住民や旅人が襲われた。作物にも被害が出ている為、早急に討伐してほしい、と」
イリアスが深刻そうな顔で、駆除依頼を見つめた。
「『ネェル・スネェク』は、普段はアトネス北西、ルミアの森に居るモンスターよ。
4本足で、トカゲと蛇が混ざった感じ。毒はないけど、噛まれたら雑菌で化膿して、数日は動けない。性格は凶暴で、人の疾走と同じ速さで動く。
大きいものだと、昨日姫様を運んだ馬車と同じぐらいになるわね」
頭の中に、コスタリカの孤島っぽい情景と普通自動車並みにデカい爬虫類が浮かぶ。
ああ、これは無理だ。本能がそう告げてくる。
依頼書の説明文だと、今回の奴はオレの腰程度のサイズらしい。
が、今のオレにとっては、ヴェロキラプトルがコモドドラゴンに変わった程度でしかない。
イリアスも同意見のようで、さらっと話を採取依頼へすり替えた。
「『アルエ』はトゲトゲした分厚い葉っぱだけの植物。気候の良い所ならどこででも育つの。
それを剥いた中の果肉は、火傷や切り傷、風邪にも効く万能薬の材料に・・・あと、料理に入れる人もいるわね」
なるほど、要はアロエってことだな。
「・・・採取依頼一択だな」
「そうした方が良いわね。サロニック平原なら、今から準備を整えても、日没までに帰ってこられる。初めての依頼として、丁度いいかも」
オレは『アルエの果肉』採取を請け負うとステラ嬢に告げて、依頼を受注した。
その後、イリアスの案内で鍛冶屋や道具屋を周り、ダガーと弓矢、鎧と小手、ブーツを新調したり、回復薬や砥石等の手入れ用具(あと、果肉を入れる空き瓶)を揃えた。
この買い物で、クリットを捕まえた報酬のうち、銀60枚=金貨12枚がわずか15分ほどで消えた。
冒険者を父に持つイリアスによると、一人暮らしをする場合、生活費だけだと月に銀30で十分だが、消耗品の補充を含めれば、今出費した分と同額を、更に稼ぐ必要があるという。
ちなみに今回の報酬は銀2枚、難易度を考えれ適正価格らしい。
「(毎日3時間程度、植物集めをするだけで暮らしていける世界か。過労大国である我が故郷の民が聞いたら、暴動が起きるな)」
などと中二病めいたことを想いながら、オレは軽い足取りでイリアスと二人、アトネスの南門を出た。
この時、大きなポカをやらかしていたことに、イリアスもオレも気づいていなかった。
八ノ刻(午後4時ごろ)
アトネスから400
1時間ほどの探索で、依頼された分の『アルエの果肉』を採集することはできた。
オレの知っているアロエの半分程の大きさでしかなかった為、手間取りはしたものの、それほど苦労することはなかった。
だから二人とも、のんびり散歩気分で、帰路についていた。
しかしその空気は、予想外の
―シャーー!
「だぁー!来るな来るな来るな!!」
「真っ直ぐ走って!振り向いたらすぐに追い付かれるよ!」
武器を抜く余裕すらなく、オレ達は走る。背後に迫る、恐怖の権化から逃げるために・・・。
アトネスの西側近郊にいるはずの害獣、『ネェル・スネーク』が、背後から牙を剥いて迫っていた。
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