エピローグ 次は侵略者として 後編

現在


 ・・・以上が、私がパルターナンから帰還した経緯だ。

 ダッキはジェイルオレを連れパラスの領域へと入り、そのまま地球へと転移して見せた。

 でもアレスから受けた致命傷は治す事ができず、<グルゥクス>ジェイルは、私が5年間被り続けた仮面は、光の粒子となって消えた。


 それから3ヵ月。表向きは『ミネルヴァ』社員として、私はパルターナンへのリトライを準備し続けている。

 一緒にこちらに来た、というより戻ってきた、モンスターの少女を相棒として。


「・・・まさか、君が本物の千年狐狸精せんねんこりせいだったなんてねぇ」


 封神演義で、妲己姫の身体を乗っ取った狐の精、それがダッキの正体だった。

 精霊ゆえに不老不滅。日本でも玉藻の前として経験があると彼女から聴いたとき、まさしく狐に化かされて気分だった。


「言っておくけど、私は別に、人間に害をなそうとしたんじゃないからね。ただ楽しんでいたら、勝手に周りが堕落したり死んじゃっただけ。

 ・・って、私こそ、君の家系を聞いてびっくりしちゃった。総理大臣の孫娘だなんて」

「元、総理大臣ね。祖父じいちゃんがやってたのって、もう4代も前の事だからさ」


 そのくせ、毎年の正月には、国会中継で見慣れた顔が訪問してくるのだ。しかも地元選出で初の総理という事で、町内全域で我が家は有名。どこに行っても祖父、佐村伊吹いぶきの話題を振られるのだ。

 シドが親父さんを嫌うほどではないにしろ、私も家族にストレスを感じていたのである。そしてその逃げ道として、私はジェイルを生み出した。 


 でも、彼はもうこの世にはいない。FFOでの死と同じように、<グルゥクス>のアバターも、一度死んでしまえば、復活はできないという。

 それを思い出した私の心に、喪失感が広がる。


「・・・はぁ、もうこの話はいいよ。それより、・・・本当に、手伝ってくれるの?」


 それから目をそらすように、私が確認を求めると、齢数千年の狐精は、それを感じさせぬ幼い少女の顔で、にっこりと笑う。


「もう、疑り深いのね、イオリって。私は、私の永遠の中で退屈しないように、楽しいことがしたい。そしてあなたの企みは、とぉっても面白い!だから付き合うの」


 退屈させないでね、とダッキは顔を近づけると、その金色の眼をキュッと細める。

 ・・・やばい、惚れちゃいそう。


「って、危ない危ない。・・・さて、試したい動きや戦法は全部試した。そろそろ行こうか」

「ふふ、私も不法侵入を許してもらえたし、存分に暴れていいってアテナ様に太鼓判もらったから。いっぱい活躍するからね♪」


 そしてオレたち二人は、3ヵ月を過ごしたアテナの領域を出て、あの大鏡の間へと向かった。


しばらく後 

地下


 二人が到着すると、そこには既に、2色の瞳の女神が待っていた。


「ようやく、準備ができたようですね」

「ええ、こちらはばっちりです。・・・そちらの用意は?」


 前回の転移の時は、事前の確認を怠ったせいでエライ目にあった。現在のパルターナンはあの時以上に危険な世界と化しているらしいから、絶対に油断してはいけない。



 アテナはいたずらが失敗した子供のような顔で、手に持った杖を床に突き刺した。

 すると、私達の目の前に、二人がすんなり隠れられるほど大きな宝箱が出現する。


「ご注文通り、FFOでのジェイルの装備及び所持アイテムを、可能な限り具現化しました。

 最高クラスの防具<ゴクエン>シリーズ、レイドボス限定ドロップの<ヨイチの弓>と<クサナギダガー>」


 宝箱が独りでに開き、アテナが名を呼んだ防具や武器が、私たちの周りへ浮かぶ。


「そして最後に、新しい<グルゥクス>の肉体を」


 そう言って女神が手をこちらへかざすと、私の身体がまばゆく光る。

 数秒後、そこに立っているのは、黒地に金と朱の焔があしらわれた防具に身を包み、弓を背負い短刀を差した神の遣い。しかしその容姿は、元の私とほとんど変わっていない。ジェイルとは程遠い、平凡な日本人の成人女性、佐村庵だった。


「あなたの注文通り、身体能力や知覚機能を、佐村庵と同等にしております。実際のあなたとの違いは、スキルや魔法を後天的に習得できる事。本当に、そのような身体で宜しかったのですか?」

「ええ、むしろこの身体じゃないと、意味がないんです」


 自信たっぷりな私の言葉に、知の女神は珍しく困惑した表情を浮かべる。

 そんなアテナに、私は語る。


「今のシド、いいえMr.アラバマは、アレスの呪いに苦しめられている。あいつは、親父さんの過保護という呪縛から逃れる為にパルターナンに行って、自分の実力を知って挫折して。そんなときにアレスに誘惑されて。そんなあいつの目を覚ますには、ジェイルじゃない庵としての私が行かないといけないの」


 私の言葉を聞いたアテナは、心の底から楽しそうに、暗面の笑みを浮かべる。


「・・・素晴らしいですわ、<グルゥクス>イオリ・・・いいえ、佐村庵。あなたのおかげで、私はまた一つ、人間という祖神の最高傑作の新たな理解を得ることができました。知を司る女神として、これほど効用を味わえる機会はありますまい」


 そして、一人ではしゃぐ(駄)女神は、異世界への転移門を開く。


 パルターナンが映された鏡面に波紋が広がり、私たちは、それに向かって歩き出す。


「それでは、悪友が現実逃避の為に創った引きこもり部屋を、『侵略』するとしますか!」


 今度の私イオリは、世界を革命する神の遣いじゃない。魔王を倒す勇者でもない。

 他人の心へ土足で踏み込む、<下劣なナスティ侵略者アグレッサー>だ!



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ナスティ・ジェイル~ネトゲの策士が異世界革命!?~ ミズノ・トトリ @lacklook

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