第九章 継海と愛実

#39 継海と愛実 (1/5)

 手放された田園地帯を足早に進む調査隊。すると突然、ツグミが何かを察知して振り返った。

 「ロックオンシグナル・・・!?皆さん逃げて!」

 上空から飛来するであろう小型ミサイルから身を隠そうにも、近場に建造物などは無く、皆が慌てて走り出そうとしたとき、夢繕勾玉むつくろいのまがたまが光る。土と石で出来た厚い壁が地中から飛び出した。

 数秒後、壁の向こうで爆発が起こり、イナホ達のすぐ横を爆風が駆け抜ける。身を竦めたまま顔を上げたイナホは、

 「これは土龍様の!?また助けられちゃった・・・・」

 勾玉からの声は、

 「いつでもこう都合良くは守れぬ、用心するのだぞ」

 皆が土龍に感謝すると、周囲の煙が薄らいだ。その上空を飛行機型の無人機が通り過ぎ旋回する。ツグミは八咫射弩やたのいどを対物ライフルに変形させ、壁の端に銃身を掛けて上空を見据え、

 「今度はあちらから二発目が来ます。その前に!」


 ツグミがスコープを覗き込むのと同時、無人機のミサイルハッチが開く。敵の攻撃よりわずかに早く、ツグミは冷静かつ正確に引き金を引いた。大きな銃声が轟き、弾丸は燃料タンクを貫いた。

 直後、無人機は爆炎を上げながら頭上を通り過ぎ墜落していく。残りの燃料が爆発し、辺りの枯れ草などにその火は燃え広がっていった。



 するとどこからか声が聞こえてくる。

 「わあー!わしの畑にー!」

 無人機の墜落した方から女の子と思われる声がしたので、火を避けながら駆け寄るイナホ達。雑草に埋もれたその一角には、人の手入れが感じられる畑があった。

 声の主を探し、一行が呼びかけると、狐の耳と尻尾を生やした女の子が、伸びた作物の間から勢いよく飛び出てきてイナホ達を見るや、

 「火を消してくれ!わしの大事な作物が・・・!生き延びた人々の糧が・・・!」

 切羽詰まる様子のその女の子に斐瀬里ひせりは、

 「なら、試してみたいことがあるの」

 斐瀬里が八咫射弩の銃口を上に向け、意識を集中し始めた。他の皆がそれを不思議に思い見守っていると、斐瀬里が掲げる八咫射弩に青い光の意匠が浮かび上がる。

 そして、その引き金を引くと、青い塊が打ち上げ花火の様に上空へと飛んで行く。それが花開くと、辺りに大粒の雨が降り注ぎ、見る見る間に火が消えていくのだった。


 「おー!ひせりん魔法使いかよ!」

 目を丸くして香南芽と百花が声を揃えた。斐瀬里は八咫射弩を腰のガンホルダーに納めると、少し嬉しそうに、

 「この意思を具現化する機能について、ずっと気になってたの。さっき神器を介して土龍様が土の力を使ったでしょ?だからこんなのも出来るかなって」

 悠は顎先に手をやると納得した様子で、

 「なるほど、現実味あるイメージの具現化ばかりに囚われていたが。魔法か・・・、ふ、確かにそうだな。だが、これは戦闘にも役立ちそうだな」

 そこに狐の少女は歩み寄り、両手を腰にやると少し小生意気な表情を見せ、

 「やるなー、お主等。さっきの鉄の兵撃破といい、今の技といい、神懸かった力を持っておるな。火を消してくれた事、感謝するぞ?って、お主等、わしの声が聞こえておったのか!?」

 百花は狐耳の女の子の後ろに立つと、その頭をポンと撫でながら、

 「うん?もうお家にお帰り?仮装して楽しいのはわかるけど、お外は危ないよ?」

 頭を撫でるその手が少女の狐耳に伸び、それを摘まむと、百花は違和感を覚えた。

 「あれ?この耳、カチューシャじゃ・・・。なんだか生暖かい・・・」

 狐耳の少女は体をクネクネとさせて抵抗するが、その仕草には脱力と恍惚が混じっているようにも見えた。それでも、必死で自我を保つように声を所々裏返らせながら、

 「あひっ!な、何をする小娘!わ、わしは庶民の豊穣をふぅん・・・、司るぅぅ、神、う、宇迦之御魂うかのみたまじゃ!そ、そこの火消しの娘!鼻血を垂らしてないで、止めさせないかぁぁんっ」

 斐瀬里は屈託のない笑顔で、

 「ああ、やまなしさん?そろそろ・・・、(なんて良い反応なの!?日本は素晴らしい国です・・・。)放してあげないと。でもこれは、もったいない・・・・」



 百花の手から逃れる事の出来た宇迦之御魂は、息を切らしながら場を仕切り直すと、

 「お主等只者ではないな?神の声を聴くだけに留まらず、そこの娘においては、わしの耳をこねくり回しおって!誰か説明せい!」

 「実は私達・・・・」

と、イナホがこれまでの事を説明する。


 宇迦之御魂はイナホを見て、

 「秋津国とな?聞いた事はないが、お主が嘘をついているようにも見えぬ。にしても、お主はどこか親近感を覚える名じゃの。どうでもいいが」

 「ところで、宇迦之御魂様はこんな所に一人で居て、白き鉄の兵に襲われないんですか?」

 彼女はイナホの前で腕組みをし、少し自慢げに、

 「わしはこれでも多くの者から間接的ではあるものの、強い信仰を集めておったからの。あそこの森にある狐塚からこの辺までは神域が広がっておる。あの白い奴は神域内を苦手とするらしく、無闇に入ってくる事は稀じゃ。襲われた神々のほとんどは神域外、もしくは信仰が薄れ弱った神じゃった。それを知ってか知らずか、生き残った一部の人間は、神域のある所、難を逃れるよう隠れ住むようになったようじゃの。ここにもそんなやつらが数人おる。この作物も彼の者達のため、順調に育つよう加護を恵んでおったところじゃ。ほれ、噂をすればじゃの」


 森から周囲を警戒するように三人の男達が出てきて、こちらに近づいてきた。その中の一人が、

 「爆発があったから見に来たが、君達、大丈夫か?子供だけなのか?」

 イナホ達は初めて会う現地の人間への対応に困っていると、その中のもう一人の男がツグミを見て、

 「待て、あの顔どこかで・・・」

 「ああ、間違いない。やはり祟りは本物だったんじゃ!?」

 ツグミが自分の事を知っているのか聞こうとすると、三人は慌てて逃げ去っていった。その様子に一同は顔を見合わせ困惑するのだった。

 すると、宇迦之御魂はツグミの方を向き、

 「ツグミといったな。気を付けるのじゃぞ?人間達の細かい意向はわしには分からんが、この大厄災で、再びお主は、有名になっとるらしいからのう」

 イナホが首をかしげ、

 「ツグミちゃんが有名?でも、さっきの人達、怯えてるみたいだったよ?」

 ツグミは宇迦之御魂に、

 「私の身に何が起きたか、教えてはもらえませんか?」

 「記憶が無いと言っておったな。なら、直接あの男から聞いた方が早いじゃろ。なぁに、わしは善良な神じゃ。ついて参るがいい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る