#41 継海と愛実 (3/5)
「思い出すだけで胸が苦しいが、あれは二年ほど前。僕が立ち上げた会社、尾上ヒューマネクストでツグミの開発が成功し、世にその情報が出回った。
とたん、各国がツグミの飛びぬけた性能とその軍事転用を恐れ、生命倫理という言葉を盾に、日本政府に廃棄と研究凍結を迫ったんだ。この事は世間でも大きな波紋が広がった。
だが、日本政府は立場上、他国の圧力に屈するしかなかった。そこで議論になったのが廃棄方法だ。ツグミはあまりに人間に近かったからね。スクラップにするのに気が引けた連中も多かったのだろう。僕もそんなの許す気はなかった。
色々議論を重ねた結果、ツグミの記憶データを抹消し、完全にシャットダウン後、海底投棄することが決定した。そして、ツグミを
結局、一般市民である僕は、その流れに従うしかなかった・・・。ツグミを葬る準備を、この手でするのは本当に辛かった。だから僕は、いつか時代が僕の技術と倫理観に追いついたとき、ツグミが誰かに引き上げられて目覚められるよう、密かに再起動プログラムを仕込んだんだ」
そう傑が話し終えると、普段冷静なツグミも、自身に起きていた真実に少し驚いた様子で、
「私の存在を巡って、そんなことが・・・。しかし父さん、あの手紙には‘二度も失った’と書いてありました。あれはどういう事ですか?」
「・・・・僕には妻と娘が居た。娘は愛が実ると書いてつぐみ。ある日、事故で二人に先立たれてしまってね。そう、ツグミは実の一人娘に似せて作ったんだ・・・。まあ、面影だけだけど。もちろん代わりになるなんて思ってなかったし、今だって思ってない。君の事は一人の人格、命として大切に思っている」
「・・・・そうだったのですね・・・。命・・・。ずっと気になっていたのですが、私は日本で生まれ、まして人間ではありません。それなのにイナホ達同様、神様達が見えるのは何故ですか?」
「んー、僕もそれは気になった。そんな機能作れるはずもないし。考えられるのはその秋津国で目覚め、精神がその地で育まれたから、そっちの世界のルールに乗っかった、あるいは・・・。いや、よく分からないな」
傑は話題を変えて、
「ああそうだ、君達の帰還方法についてだが。これまでの話から考えるに、ツグミが投棄された座標が一番可能性は高いだろう。ただ問題は深い海の底って事だ。現状の情勢と物資では潜水艦製造なんて無理だしな」
すると宇迦之御魂が少し得意げに話し始める。
「それなら
傑は椅子から立ち上がり、
「ならば僕は君らが無事帰還するのを見届けるまで同行しよう。荒事は出来ないが、ツグミに会わせてくれた恩返しだ。何かサポート出来るかもしれない。それにここじゃ変人扱いで、皆から避けられてるしな。旅路を急いだほうが良いんだろう?ウカは次の狐塚に向かうのか?」
「粗方ここの作物は育ったからの、敵地偵察がてら、東へ行ってくるぞ。・・・何、お主の言いたいことは分かっておる。心配いらん、あの姿のわしには、そうそう追いつける者はおらんからの」
傑が旅支度を済ませ、皆が外へ出ると、宇迦之御魂は大きな白狐に変身した。その魅惑的な姿に吸い込まれるように、百花と香南芽が宇迦之御魂に飛びついた。
「「うわぁ、モッフモフだ!」」
「お主等には遠慮と言う者が無いのう・・・・。そうそう傑よ、北の地にはおそらく幼少のお主に叡智を授けたという物創りの神も来ているはずじゃ」
「本当か!?ウカ、あまり無理はするなよ」
「向こうであまり長居するつもりは無いからの、またすぐ会うじゃろ。子供達も気を付けるんじゃぞ」
一同が手を振って見送ると、白い残像を引きながら宇迦之御魂は風の様に東へ向かい駆けて行った。
司は傑へ、
「敵地って言ってましたけど、それなら僕らも向かった方が・・・・」
「んー、今はやめておいた方がいいかもな。その敵地っていうのはたぶん、僕の会社の元製造プラントの事だ。敵が何者で何が目的なのかは知らないが、厳重に周囲を戦力で固めているらしい。お陰で今じゃ変な噂で、僕は世界の敵だよ・・・・。とりあえず、あの中に何かが居るのは間違いなさそうだけど、見つかればあっという間に退路を断たれるだろう。ウカのように単独で逃げ切れる能力があれば別だが、無いなら死にに行くようなもんだ。もし東へ行きたいのなら、君たちは日本の神々と手を組み、もっと戦略と力を練ってからにした方がいい。調査ってのは生きて情報を持ち帰ってこそだろう?」
「確かにそうですね。ところでその製造プラントって何があったんです?」
「ツグミを作った時の機器や、民間用量産型の試作パーツくらいのはずだ。開発凍結以降は国の管理下になってたから、今現在どうなってるかは分からないが。さて、僕らも出発しよう」
傑はリュックを背負うと、歩き始めたイナホ達の後姿を見て、
「あ、君たち。その、ツグミを孤独にしないでくれて、ありがとな」
イナホ達は振り返ると、はにかんでみせた。
「私達も、八幡さんに出会えて感謝してますよ」
「八幡・・・、そうか、君達だけじゃなく、秋津国の人々に愛されて・・・・」
そう言うと、傑も一歩足を踏み出したのだった。
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