#40 継海と愛実 (2/5)
先ほどの男たちが戻っていった方とは、少し離れた場所に案内される一行。雑木林に出来た薄暗い獣道を進みながら
「わしはな、人々から、お稲荷様とも呼ばれ大人気だったのじゃぞ?」
イナホは、
「オイナリ?あの、お寿司の?」
「ああ・・・、浅からぬ縁はあるのじゃが。実のところ、わしはあれがあまり好きではない。人間達の解釈の変化とやらは、よく分からん。だがな、その人間達が、わしを夢中にさせたものがあるなぁ。マケドのポテトじゃ!」
「なんですか?それ」
「そうか、秋津にはなかったか。芋をカリっと揚げて、塩を振っただけなのじゃが。マケドのものはきっと、特別な隠し味を入れているに違いない。マケド横の小さな稲荷社で、あの揚げ上がりを知らせる音楽と香ばしい香りに、何度胸を躍らせた事か」
百花が腹の虫を押さえて、
「ヤバ、想像したらお腹が背中を通り越しそう・・・」
宇迦之御魂は少し俯くと、
「そうじゃろう、そうじゃろう。この大厄災さえ無ければ、共に舌鼓を打ちたかったものじゃ」
そんな話をしていると、見えてきたのは木々に隠れるように建てられた、歪で簡素な小屋だった。その外壁からは、用途の分からない機器やコードが幾つも飛び出している。
宇迦之御魂に促されるまま、その小屋のドアをツグミがノックすると、暗い部屋の中からやつれた男が現れる。すると男は、他の一行に目もくれず、真正面に立つツグミを見て涙を零し始めた。弱々しく口を開くと、
「ツグミ・・・?本当にツグミなのか!?」
ツグミがコクリと頷くと、男は彼女の頬に手をやり、余った手で自身の涙を拭う。困惑するイナホ達を他所に、ツグミは彼が少し落ち着くのをしばらく待ち、
「あなたは、救援を求めて映像を流した方ですね?何者なのですか?」
「そうか、記憶はすべて戻らなかったか。でも一体どうやって・・・・。まあ、いいか。ここにいるという事は、あの手紙にも気づいてくれたようだね」
「手紙・・・、あのような複雑な3Dコードを仕込めるとなると、あなたは・・・・」
「ああ、君を作ったのは僕だ。自分の口で言うのは少し照れくさいが、君の父だよ」
その様子を見守っていたイナホは顔を明るくし、
「ツグミちゃんの、お父さん・・・・。そうだったんだ・・・!良かったね、ツグミちゃん!ついに会えたね!」
イナホがそう言ったのを皮切りに、他の皆からも笑みが溢れた。すると、男はようやく周囲の皆にも意識が行渡った様で、
「ああ、失礼した。僕は
小屋の中は、様々な道具や無人機のパーツと思われる物が散乱していた。人を招く事を想定していないそこで、イナホ達はそれぞれどうにか居場所を見つける。傑はお茶らしきものを入れながら、
「ところでツグミ、この子達は?」
「友人であり、共に日本を調査する仲間たちです」
「ん?調査だって?」
宇迦之御魂の「聞いて驚くぞ?」という声に、傑は反応を示さなかった。一同はそれを少し不思議に思いながらも、ツグミを見て頷き、合意を伝えると、彼女の口から秋津国についての事が語られた。
傑は冒険話に憧れる少年の様な目で、その話に聞き入っていた。彼は冷めたお茶に今更口を付けると、無精ひげを触りながら矢継ぎ早な口調で、
「驚いた。地球空洞説は本当だったのか。それに、その話からすると次元の裂け目みたいなものを通ってきたことになる。アインシュタインローゼンブリッジよりぶっ飛んでる。しかも神様が居るって?じゃあ、君たちはそこにいる、ウカも見えるのか?」
指をさされた宇迦之御魂の耳がピクリと動く。イナホが、
「ああ、宇迦之御魂様ですか?狐の」
傑は呆然とした様子で、
「ツグミも見えるのか?」
「はい」
宇迦之御魂は頬を膨らませ、沈黙を破ると、
「傑よ、だからわしは何度も神だと言っておったであろう!無視しおって」
「本当なんだな、すまない。ウカ達が見えていたのは、今まで脳の病気か何かだと思ってた。周囲からもそう言われてきたから、そうだと思ってた。それはそうと、後でその神器とやら触らせてもらっても?すごい技術だ」
脱線しかけた話を元に戻そうとツグミが、
「あの、お父様。それで、私の身に何があったのでしょう?」
「ああ、すまない、あまりの話につい夢中になってしまった。それとお父様は堅苦しいな」
「であれば、父さん。改めてお聞きします」
傑はこれまでの表情とは打って変わって、少しため息交じりに眉をひそめながら語りだした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます