#7 ツグミという少女 (2/5)
「そうだ、後で漂流物展示館に連れて行ったらどうかな?ニホンから流れてきた物を見れば、何か思い出せるかも」
イナホのその言葉に、ツグミは反応する。
「ニホン・・・、どこか聞き覚えが・・・。今はそんな気がする、という程度ですが」
ハジメはそんな彼女に、
「気のせいじゃないかもしれないなぁ。なんせ、この霞み池はニホンからの物が流れて来るんだ。ツグミもそこから来たと考えるのが自然だと思うがなぁ。じゃあ、わしらの仕事が終わったら、行ってみるとするか」
いつもの回収作業に戻ると、辺りを物珍し気に観察しながら、ツグミも二人の後をついて歩いた。
回収作業も終わり、荷台に積み込みをしていると、それを見ていたツグミも徐にそれを手伝う。普段は二人で持ち上げるような物を、安々と一人で持ち上げるツグミを見たイナホは目を丸くした。
「すごいね、ツグミちゃん!そんな物、一人で持っちゃうなんて!」
「そうなのですか?」
それを見た二人は、秋津国には無い技術の詰まった機械仕掛けの存在なんだと、確信を深めた。
作業を終え、行政区の漂流物受け渡し施設へやって来た三人。そこで、担当者が積み荷を確認しに出てくる。
「いつもご苦労さま。おや、見ない顔だね」
機転を利かし、ハジメは適当な嘘をついた。
「遠い親戚の子なんだ。ちょっと訳あって、うちに居候することになってね」
「そうかい。じゃあ、孫が増えたみたいで、嬉しいんじゃないのかい?はいこれ、受取サイン」
「へへ、どうも」
荷台でツグミと肩を並べて、座ってその会話を聞いていたイナホ。
「じゃあ姉妹にでも見えるのかなぁ。どっちがお姉ちゃんだろ?」
そう呟いて、ツグミをじっと見る。その落ち着いた雰囲気と、滲み出る知的なオーラ。メリハリのある体つきに、早くも姉を名乗る計画は崩れ去る。
「くっ・・・、負けた!」
「イナホ、どこか体調でも悪いのですか?」
「ううん、大丈夫。な、何でもない」
表情を変えることなく首をかしげるツグミだった。
その足で、漂流物展示館にやってきた三人。ツグミの手を引き、館内へイナホは案内する。
「ここは秋津国中の霞み池から、回収された漂流物が展示されてるんだ。中には秋津国の暮らしを変えるような、凄い漂流物もあってね。その一つ、このパソコンって呼んでるやつは、10年前に爺ちゃんが拾ったんだよ!」
少し自慢げな顔をしながら、ツグミへの案内は続く。
「工学技術に発展しそうな物は、物創りの神様、
「興味深い人物です。その方なら、私の事も何か解るかもしれません」
「確か山の方の工房に居るって聞いたけど。あ、でもツグミちゃんがバラバラにされちゃったら・・・・」
悍ましい光景を想像し、危惧するイナホをよそに、ツグミは文献などにも目を通していた。
珍しい漂流物が並ぶ、広い館内を粗方見終えた二人。併設された喫茶スペースにやって来ると、途中から姿が見えなくなっていたハジメがそこには居た。
「今、電話で婆さんに話を通しとったところでな。歓迎すると言っていたぞ」
ツグミは彼に頭を下げた。
「お気遣い感謝します。お婆様も、とても良心的な方なのですね」
その隣で、イナホは苦笑いしながら、
「うん、でも、私の母さんには少し厳しいけどね・・・・。それでツグミちゃん、何か思い出せた?」
「ここでは多くの知識が蓄積出来ましたが、やはりまだ、過去のデータは読み込めないままなのです」
「そっかぁ・・・。そのうち思い出せると良いね!そろそろ日が暮れるから帰ろうか。今日は婆ちゃんの手作りいなり寿司だ」
「お稲荷さん、とも呼ばれている食べ物ですね。先ほどの文献には文字情報しかありませんでしたが」
「お、ツグミちゃん記憶力すごいね!そーいえば、ツグミちゃんは食事はできるの?」
「はい、問題ありません。経口摂取により、有機物をエネルギーに変換できる機構は備わっているようです」
「よかったぁ、婆ちゃんが作る料理はおいしいんだ」
夕暮れの中、三人は帰路に就いた。
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